答え:さっそく、登場人物にあてはめてみよう!

◎正解は
罪3:変動操作取引(金融商品取引法159条2項)に該当!

Y氏の行った変動操作取引の手口は典型的なものです。さっそく、順番に説明します。

1:買い上がり買い付け

 まず売り注文に対して、高値の買い注文を連続発注し約定させて株価を上昇させる手口は「買い上がり買付け」に該当します。このような買い方は通常の株取引でも見られます(多少高値でもいいからどうしてもその株を多めに買いたい場合など私も経験があります)。

 しかし、自ら株価を引き上げた前後に売り注文を出し、誘い込まれた第三者に対して比較的高値の売り抜けを繰り返すことを伴っていたり、連続あるいは頻繁に繰り返されるなどの場合には、誘因目的があったと推認させる事情となります。(東京地裁平成26年7月4日判決)

2:下値支え

 次に、現在値より下値に大量の買い注文を出したり、実際に買い付けたりすることにより株価が下落しないようにする手口は「下値支え」に該当します。

 下値支えは、一般投資家に対して買い需要が旺盛で、株価下落のリスクが少なく買い付けを希望する場合は、より高値で買い注文を出さなければならないという誤解を与えるものとされています。(東京地裁平成26年7月4日判決)

3:終値関与

 次に、取引終了時刻直前に高値で買い注文を発注して約定させ、終値の形成に関与する手口は「終値関与」に該当します。

 終値は、翌営業日における当該株式の基準値段になります。さらに、新聞などを通じて広く一般に知れ渡ることもあり、終値が高いということは当該株式の株価が上昇基調にあると一般投資家に受け止められる可能性が高いです。そのため、終値の高値形成において意識的に関与することは、誘因目的の存在を推認させるとされています。(東京地裁平成26年7月4日判決)

4:見せ玉

 最後に、板情報画面に表示されている価格帯に約定させる意図もなく優先順位が低い大量の買い注文を出して株価を上昇させる手口は「見せ玉(みせぎょく)」に該当します。保有している株を高値で売却するため、買う意思のない大量の注文を発注して「株価が下がりにくい状況である」と一般投資家に誤解させ、株価を上昇させます。株価を上昇させ、高値の売り抜けに成功したら、約定させる意図のない大量の買い注文は取り消します。

以上より、Y氏の行った取引は全て「変動操作取引」に該当し、金融商品取引法159条2項違反となります。
 

そもそも「変動操作取引」とは、なんだろう?

 株式の売買に誘因する目的をもって、株式の売買が活発に行われていると誤解させ、あるいは株価を人為的に変動させるような一連の取引を「変動操作取引」といいます。

◆過去同様の事件

裁判所は、以下のように判断しています。

 誘因目的について、最高裁は「人為的な操作を加えて相場を変動させるにもかかわらず、投資者にその相場が自然の需給関係により形成されるものであると誤認させ、有価証券市場における有価証券の売買取引に誘い込む目的」であると解しています。​​(最高裁平成6年7月20日判決)​

 そして、誘因目的の場合も、他に併存する目的の有無や併存する目的との間の主従関係は犯罪の成否に影響を及ぼさないとされています。(東京高裁平成27年5月28日判決)

 変動操作取引の手口は多種多様ですが、例えば、連続した指値注文や下値に大量の買い注文を入れるなどして株式の売買が繁盛であると誤解させ、これによって誘因された他の投資家が買いを入れることでさらに株価を上昇させたうえで最終的に高値で売り抜ける手口が代表的です。