答え:さっそく、登場人物にあてはめてみよう!

 

◎正解は
罪3:変動操作取引(金融商品取引法159条2項)に該当!

 Z子の行った変動操作取引の手口は典型的なものです。Z子は、Y氏と同様の取引を行っていますが、成行買い注文は取引時間中ではなく取引時間前(寄付き前)に行われています。寄付き前にこのような取引を行うことも変動操作取引に該当するかが問題になります。

◆過去同様の事件

裁判所は、以下のように判断しています。

まず、寄付き前に大量の成行買い注文を出すことで、買い需要が旺盛であることを発注時から寄付き時まで第三者に示すことができます。かつ、誘因されて買い注文を出した第三者とともに始値を形成できることから、この方法は少ない資金で株価を上昇させる効果を有する。

 その上で、その他の手口についても、最良買気配値近辺に未約定のまま大量に買い指値注文を残すことで、第三者に対し買いの需要が旺盛であることを示すことができるところ、誘因された第三者はそれより下の値段でその株を買うことはできないから、この方法もまた少ない資金で株価を上昇させる効果を有する。さらに、最良買気配値から離れた下値への大量の買い指値注文は、第三者に対して、株価が下落する局面においても、厚い買い注文の板が形成されているため、株価の下落は防止され上昇に転じるとの印象を与え、買い注文を促進する効果があると判断しました。

 結論として、上記のような買い注文には株価を上昇させる効果があることから変動操作取引に該当すると判断しました。

以上より、Z子の行った取引は変動操作取引に該当し、金融商品取引法159条2項違反となります。(東京地裁平成30年3月22日判決)

今回は該当なしだった罪2:「仮装取引」「馴合取引」とは、そもそもなんだろう?

 権利の移転を目的としない取引を行い、外形的に現実の取引と区別できない記録上の取引を作出する行為を「仮装取引」といいます。

 例えば、自らの売り注文と買い注文を同時に発注し、約定させる取引です。自分で売って買っているだけなので、その株式の権利移転を目的としない嘘の仮装の取引というわけです。これに対して、一応売主と買い主が存在するものの、両者が通謀して同時期に同価格で発注し、約定させる取引を「馴合い取引」といいます。両者が通謀して取引しているので、やっていることは仮装取引と同じです。

 これらの「仮装取引」「馴合い取引」を正常な取引と区別するために、繁盛等誤解目的(株式の売買が頻繁に行われていると誤解させるなどの取引状況に関し、他人に誤解を生じさせる目的)が必要とされています。

 ただし、繁盛等誤解目的が認められる場合は、他に併存する目的の有無や併存する目的との間の主従関係は犯罪の成否には影響を及ぼさないとされています。(東京高裁平成27年5月28日判決)

いくつ正解しましたか? 

 各登場人物について違法な株価操作(金融商品取引法違反)が成立するか否かについて検証してきましたが、具体的なケースを前提にすることで理解が深まったのではないかと思います。