今さら聞けない損失補てんって何?

 6月20日、FX(外国為替証拠金取引)を扱うT証券会社が顧客の出した損失を補てんしたとして、東京地検特捜部から強制捜査を受け、金融商品取引法違反で同社幹部らが逮捕されました。

 ところで、この事件の容疑である「損失補てん」。逮捕されるほど悪いことなの? そもそも損失補てんって何なの? と疑問を感じている方もいらっしゃると思います。

 そこで、この損失補てんについて、ファイナンスMBA取得者で弁護士の澤井康生が解説していきます。

社会問題化した証券不祥事。損失補てん禁止規定はなぜできた?

 話は現在の金融商品取引法の前身、1965(昭和40)年(私も生まれていません!)の証券取引法の時代までさかのぼります。

 現在では信じられないことですが、昔は売買注文を大量に受けるため、顧客に損失保証や特別の利益提供を、証券会社が約束していました。

 しかし、昭和40年の法改正で、投資者を保護する目的で、損失保証や特別の利益提供による勧誘行為について、不当な勧誘行為の規制という観点から禁止されることになりました。この時点では損失補てん自体を禁止するものではなく、損失補てんを営業手段とする「勧誘行為」を禁止したに過ぎませんでした。

 それから26年後の1991(平成3)年6月、大手証券会社を含む多数の証券会社が、一部の顧客に対して多額の損失補てんを行っていたことが発覚。いわゆる「証券不祥事」と言われる一連の事件で、社会問題となりました。

 この証券不祥事を受け、平成3年10月に再び証券取引法が改正。損失補てん自体を禁止するとともに、違反した場合には刑罰まで科すことになりました。後に、1998(平成10)年の証券取引法の改正では、規制対象に有価証券店頭デリバティブ取引が追加。そして、証券取引法が現在の金融商品取引法に生まれ変わるタイミングで、適用対象がデリバティブ取引全般に拡大され、現在に至ります。

損失補てん禁止の理由とは

 ところで、損失補てんが法で禁止され、刑罰まで科されるのはなぜなのでしょうか。

 その理由は、金融商品取引業者などによる損失補てん行為が、資本市場における価格形成機能を歪め、また市場仲介者としての中立性、公平性を損なうことで、投資者の資本市場に対する信頼を大きく損なうことを防ぐためです。

 証券会社などの金融商品取引業者が、特定の一部大口顧客にだけ「損失が出たから補てんします」と対応したら、他の顧客は「そんなのずるい。不公平だし、許せない。投資なんかしたくない」と考えますよね。

 公平な資本市場を保つため、損失補てんといった不正行為は刑罰をもってまで禁止されているのです。