トランプ大統領の貿易戦争とプラザ合意2.0

 トランプ米大統領は2019年5月5日、ツイッターで、「両国の貿易交渉は続いているが、遅すぎる」、「10日の金曜日に、10%の関税は25%に引き上げられる」として、制裁を強化する方針に言及した。

 中国からの輸入品2,000億ドル(約22兆2,200億円)に対する関税率を現行の10%から25%へ引き上げ、またその他3,250億ドル相当の中国製品に関しても近く関税賦課の対象にすると述べ、これまで米中の貿易問題については近く「合意」に達するとの総楽観で見ていた市場を驚かせた。

 いずれにせよ、市場の楽観的な見方に対して、中国との貿易交渉がうまくいっていないことをトランプ大統領が自ら暴露してしまったわけだ。

 以下のチャートは、トランプ大統領の米中貿易戦争に対するアナウンスと米中の株価の推移である。

トランプ大統領の米中貿易戦争に対するアナウンスと米国の株価

出所:ヤルデニリサーチ

トランプ大統領の米中貿易戦争に対するアナウンスと中国の株価

出所:ヤルデニリサーチ

 トランプ大統領のアナウンスは明らかに株価に影響を与えていることが分かるだろう。トランプ大統領のツイートが彼一流のブラフ(脅し)なのか本気なのかはまだ不明だが、本気ならば、米中関係の悪化、世界貿易の停滞に発展する。

「なぜ、トランプ大統領は株が下がるようなことをするのか?」と訝る向きも多いだろう。しかし、トランプ大統領は米中貿易交渉の決裂で株価が下がれば、それを口実にパウエルFRB(米連邦準備制度理事会)議長に利下げやQE(量的緩和)の再開を要求し、大統領選に臨むだろう。ただし、それをやれば、次の金融危機でとんでもない災厄をもたらすだろう。

 米中貿易交渉が本当に決裂したのか否かは、今週の動きを見ていれば分かるだろう。

【一部のウォール街ウオッチャーは、米国の貿易赤字縮小に向けて、トランプ大統領自身が持続的なドル安誘導キャンペーンを開始する可能性も否定できないと考えている。IIF(国際金融協会)の前専務理事で、米財務省高官として1985年の「プラザ合意」実現に動いたチャールズ・ダラーラ氏は「通商協議が通貨の問題を含む傾向が強まるだろう。それは避けられない」と語った。1985年当時のような保護貿易主義および介入主義の色彩の強い政策への転換は、1日5兆1,000億ドル(約563兆円)の資金が動く外国為替市場を揺さぶるだけでなく、国際準備通貨としてのドルの地位を損ない、米国資産への需要を減退させる恐れがある。JPモルガン・チェースの米国担当チーフエコノミストのマイケル・フェロリ氏は今月のリポートで、トランプ政権がドル押し下げのために為替市場に介入する可能性は否定できないとの見解を示し、ドイツ銀行とオッペンハイマーファンズ(米国の名門投資銀行)も、ドル売り介入はもはや現実離れした考えではないと主張し、フェロリ氏に同調した】(2018年8月23日 ブルームバーグ『米国が「為替操作」する日-通貨の議論不可避とプラザ合意の立役者』)

 トランプ大統領は関税で貿易赤字が減らなければ、2期目には通貨戦争に打って出る腹積もりだろう。第二のプラザ合意的なドルの切り下げである。米国の赤字を半分に減らすには、ドルの価値を半分にすればいい。ライトハイザー米通商代表部代表が80年代にも担当した貿易戦争の結末はプラザ合意であり、結局、ドル(自国通貨)の切り下げであった。