ここから3~4カ月の相場は要注意

バンク・オブ・アメリカのアナリストは、「The Most Dangerous Moment For Markets Will Come In 3 Or 4 Months」(ゼロヘッジ)という記事を書いて警鐘を鳴らしている。米国株が高値を更新する一方で、「これ以上、相場が上昇すると逆に危ない」という。同じバンク・オブ・アメリカの通貨ストラテジストは、「夏後半に米ドル安が進み、リスク回避局面では円が一段高になる可能性がある」とブルームバーグでコメントしている。相場は高値圏で安定しているが、なんだか金融界は店じまいの様相を呈しているのである。

今の金融市場はすごいレバレッジが掛かっている

(出所:マーク・ファーバー博士の月刊マーケットレポート The Gloom, Boom & Doom Report・国内代理店の掲載許可をとって掲載)

Dr. Gloomと呼ばれるマーク・ファーバーは、「先進国の赤字支出と異常に膨張的な金融政策が、ほとんどの資産を甚だしく膨らませている。実際のところ、資産バブルが大きすぎて、“バブル観察者”でさえも、その規模を識別するのが難しいと言える。これまでのバブルは、ただひとつの資産クラスで発生していた。例えば、1989年の日本株、2000年のNASDAQ株、2007年の米国住宅などである。その結果、バブル化している分野の評価は他の資産価格に比べて際立っており、識別が難しくなかった。ところが、今日では、ほぼすべての資産クラスを巻き込んだ大きなバブルのさなかにあるため、批判的な観察者でさえも(今日のバブルを)ニューノーマルとみなしているのだ」と、現在のバブルに注意を喚起している。

1930年代と2007年~2016年の実質米GDP成長率は同じ1.33%

1929年10月24日は世界恐慌の始まった日で、10月29日に株価は大暴落した。下の表は1930年代と2007年~2016年の米国の実質GDP成長率である。世界恐慌後の1930年代の実質GDP成長率と、2007年のサブプライム住宅危機後の2007年~2016年の実質GDP成長率は平均1.33%と同じである。

1930年代と2007年~2016年の実質米GDP成長率

(出所:マーク・ファーバー博士の月刊マーケットレポート The Gloom, Boom & Doom Report・国内代理店の掲載許可をとって掲載)

NYダウ(月足)1920年~1946年

1937年は金融緩和の環境で米国経済が回復し、FRBは利上げに動いた。その結果、国債は売られ(金利上昇)、株価は1937年3月高値194ドルから1938年3月にかけて50%以上急落した。これを受けてFRBは再び金融緩和に動いたが、この後もNYダウは1942年4月28日の92ドルまで下落し、1937年高値の194ドルを回復したのは1945年12月8日のことである。レイ・ダリオは金融引き締めというスクイーズによって、景気は長期停滞に入る可能性があると指摘している。

(出所:石原順)

米国は景気拡大期が過去の平均の58カ月を大きく超えて97カ月に及んでいるが、10年近い景気拡大が続いても、米国人の3人に1人は退職時の貯蓄がゼロである。そもそも、米国の景気がそんなに良ければ、トランプが大統領に選ばれていないだろう。我々はメディアの大本営発表の目くらましにあっている可能性がある。

97カ月も景気拡大しているのに米国人の3人に1人が退職時の貯蓄ゼロ

(出所:マーク・ファーバー博士の月刊マーケットレポート The Gloom, Boom & Doom Report・国内代理店の掲載許可をとって掲載)

「7」の年の循環と金融危機10年周期説

1987年のブラックマンデー、1997年のアジア危機、2007年のサブプライム住宅バブル崩壊と7の年には金融危機が起こっている。これだけの材料なら、ただの迷信であろう。しかし、7の年に起きた金融危機には、例外なく米国の金融政策が緩和から引き締めに変わったという背景があった。そして、イエレンFRBが利上げや資産売却というグレートアンワインドに転じているのが2017年である。

「7」の年のサイクルと8月相場

「7」の年の循環から安全な相場というのは7月いっぱいである。米国株式市場は8月にもう1回上げるかもしれないが、相場は不安定な位相に移行しそうだ。筆者はテクニカルが合致しないかぎり、予測だけでポジションはとらないが、こうしたアノマリーやサイクル分析も重視している。しかし、この先、相場が上がろうが、下がろうが筆者にとってはあまり問題ではない。なぜなら、「確率的に危ないところは、相場に入らない」が筆者の相場信条だからだ。

(出所:「ラリー・ウィリアムズのフォーキャスト2017」
ラリー・ウィリアムズおよび国内代理店パンローリングの掲載許可をとって掲載)

FANGやMANT、そしてビッグ指数の驚異的な上昇は。1970年代初頭のニフティ・フィフティ(素晴らしい50銘柄)相場を想起させる。しかし、ニフティ・フィフティ(素敵な50銘柄)相場、1990年代後半のITバブルの暴落は、結局、政策金利の引き上げが原因だった。

S&P495とビッグ5(2013年~2017年)
(ビック5:アップル・マイクロソフト・アマゾン・グーグル・フェイスブック)
「S&P500は2013年中旬以降、年率わずか6.1%に過ぎない。一方、ビッグ5指数は同期間に57.3%とべらぼうに高い評価をされている」

(出所:マーク・ファーバー博士の月刊マーケットレポート The Gloom, Boom & Doom Report・国内代理店パンローリングの掲載許可をとって掲載)

「ゴルディロックスと3匹のくま」(Goldilocks and the Three Bears)は、イギリスの有名な童話である。ゴルディロックスは今の「程良い状況が続く適温相場」の例えによく用いられる言葉だが、ゴルディロックスの童話の本質は、「そういう状況は長くは続かない」ということである。ゴルディロックス相場が続いているが、8月以降の相場、特に秋口の相場には注意が必要であろう。

米国の景気後退期とFFレートの推移
FRBは利下げのバッファがないという丸腰の状態で景気後退期に対応せざるを得ない

(出所:セントルイス連銀)

政策金利が上がるだけでは、株価は暴落しない。株価が暴落するのは米国がインフレになった時である。インフレになれば、中央銀行は利下げも追加緩和もできないからだ。日・米・欧の金融・財政政策ものりしろがほとんど残っていない。米国の景気拡大期は97カ月に及んでいるが、この先到来する景気後退期に、米国は1%の利下げののりしろしかない。おそらく、QE4で対処せざるを得ないであろう。それも、インフレになったら不可能となる。

ドルは年前半に上げやすい商品?年後半相場は要注意!?

下のグラフは、Dr. Gloomマーク・ファーバーの「The Gloom, Boom & Doom Report」の昨年の7月号に掲載されていた「金(ゴールド)の季節性」のグラフである。これを見れば、ゴールドは年後半に上げやすい商品であることが判るだろう。逆に言えば、ゴールドと逆相関になりやすいドル/相場は年前半に上げやすい傾向があるということだ。

金(ゴールド)の季節性

(出所:マーク・ファーバーThe Gloom, Boom & Doom Report 2016年7月号「概して米国人の暮らし向きが今ほど良いときはないというのは本当か?」)

ドル/円とユーロ/ドルの週足を観てみよう。ドル/円相場は昨年11~12月相場の買いトレンド相場の後は調整相場となっているが、ユーロ/ドルは2年間の保合相場を上にブレイクしてユーロ高・ドル安トレンド相場が進行中である。ドル/円もPKOで支えているとはいえ、年後半はドル安に注意した方がよいかもしれない。

ドル/円(週足)
上段:14週修正平均ADX(赤)・26週標準偏差ボラティリティ
下段:21週ボリンジャーバンド±1シグマ(緑)

(出所:石原順)

ユーロ/ドル(週足) 外為市場の投機筋の興味はユーロ/ドル相場の長期の保合離れに・・
上段:14週修正平均ADX(赤)・26週標準偏差ボラティリティ
下段:21週ボリンジャーバンド±1シグマ(緑)

(出所:石原順)

週足相場を映して、日足はドル/円は調整相場、ユーロ/ドルは買いトレンド相場となっている。ユーロに加えて、直近の相場では豪ドル/ドルが強い買いトレンド相場となっている。しかし、豪ドルは8月相場で下げることが多く、ここから先は注意が必要かもしてない。

ドル/円(日足) 調整相場
上段:ボリンジャーバンド(21)±1シグマ=赤のバンド
中段:標準偏差ボラティリティ(26)
下段:新値3本足の売買シグナル

(出所:MT4 テンプレート 『DVD相場で道をひらく7つの戦略「トレード戦略編」 石原順』)

ユーロ/ドル(日足) 買いトレンド相場
上段:ボリンジャーバンド(21)±1シグマ=赤のバンド
中段:標準偏差ボラティリティ(26)
下段:新値3本足の売買シグナル

(出所:MT4 テンプレート 『DVD相場で道をひらく7つの戦略「トレード戦略編」 石原順』)

ユーロ/円(日足) 調整相場
上段:ボリンジャーバンド(21)±1シグマ=赤のバンド
中段:標準偏差ボラティリティ(26)
下段:新値3本足の売買シグナル

(出所:MT4 テンプレート 『DVD相場で道をひらく7つの戦略「トレード戦略編」 石原順』)

豪ドル/ドル(日足) 買いトレンド相場
上段:ボリンジャーバンド(21)±1シグマ=赤のバンド
中段:標準偏差ボラティリティ(26)
下段:新値3本足の売買シグナル

(出所:MT4 テンプレート 『DVD相場で道をひらく7つの戦略「トレード戦略編」 石原順』)

豪ドル/円(日足) 調整相場
上段:ボリンジャーバンド(21)±1シグマ=赤のバンド
中段:標準偏差ボラティリティ(26)
下段:新値3本足の売買シグナル

(出所:MT4 テンプレート 『DVD相場で道をひらく7つの戦略「トレード戦略編」 石原順』)

豪ドル/円(月足) 8月は豪ドルが下げやすい(青は8月陰線)

(出所:石原順)

米国株の転換ポイントは7月31日あたりか?

日経平均は為替の円高傾向を反映して横這い相場が続いているが、ナスダック100やS&P500の相場は買いトレンド相場になっている。ただし、8月相場には注意が必要だろう。過去20年のNYダウと日経平均の月別騰落率をみると、8月相場は鬼門である。米著名投資家ラリー・ウィリアムズのフォーキャストラインをみると、大幅な下げは想定していないものの、7月31日前後が相場のターニングポイントとなりやすい。

NYダウ・日経平均 月別騰落率(過去20年)
歴史的に5月・9月・10月はボラティリティが上がるが、近年の相場は8月が危ない!?

(出所:石原順)

日経平均CFD(日足)
上段:ボリンジャーバンド(21)±0.6シグマ=赤のバンド
中段:標準偏差ボラティリティ(26)
下段:新値3本足の売買シグナル

(出所:MT4 テンプレート 『DVD相場で道をひらく7つの戦略「トレード戦略編」 石原順』)

ナスダック100CFD(日足)
上段:ボリンジャーバンド(21)±0.6シグマ=赤のバンド
中段:標準偏差ボラティリティ(26)
下段:新値3本足の売買シグナル

(出所:MT4 テンプレート 『DVD相場で道をひらく7つの戦略「トレード戦略編」 石原順』)

S&P500CFD(日足)
上段:ボリンジャーバンド(21)±0.6シグマ=赤のバンド
中段:標準偏差ボラティリティ(26)
下段:新値3本足の売買シグナル

(出所:MT4 テンプレート 『DVD相場で道をひらく7つの戦略「トレード戦略編」 石原順』)

ラリー・ウィリアムズのS&P500先物のフォーキャストライン

(出所:ラリー・ウィリアムズの週刊マーケット分析(ラリーTV)
7月18日・ラリー・ウィリアムズおよび国内代理店パンローリングの掲載許可をとって掲載・有料レポートのため画像の一部を隠してあります)

トランプは選挙公約通りに動いている

トランプ政権の閣僚や幹部の人事が大幅に遅れている。上院の承認を得たのは33人のみで、120のポストが空席のままになっている。オバマ政権では、オバマ就任半年で126人の上院承認を得ており、トランプの人事は極端に遅れている。これは、トランプの指名が異例に遅いのが原因だという。トランプは軍産複合体や旧体制に絡め取られないように、わざと遅らせているのだろう。

トランプはエリート層や軍産複合体から政治を大衆に取りかえすことを選挙で謳って大統領になったが、半年間、何もしていない。しかし、トランプは内政も外交も「やるやる」と言いながら、何もしないことによって既得権者の利権やこれまでのパワーバランスを結果的に弱体化させているのだ。

中国と和解したのは民主党ではなく、共和党のニクソンで、ソ連との冷戦を終わらせたのも共和党のレーガンだ。トランプもそういう系譜に入る大統領なのである。日米金利差で円安が進むとの観測が多い中、ファンドの運用者の間では、「トランプはアメリカ建国の歴史および共和党政治の原点に回帰しようとしている。いますぐではないが、いずれ第二のプラザ合意をやるだろう」という見方が多い。下のニクソンショック(金ドル兌換停止)時のニクソンの発言読んでほしい。トランプの現状認識は昔のニクソンと全く同じである。

「……第二次大戦が終わった時、欧州とアジアの主要工業国の経済は疲弊していました。彼らのためにアメリカは過去25年間にわたり1,430億ドルの対外援助を行いました。それは正しいことでした。今日彼らは我々の援助に大きく助けられて活気を取り戻しました。彼らは我々の強力な競争相手であり我々は歓迎しています。しかし他国の経済が強くなった今、彼らが世界の自由を守るための負担を公平に分担すべき時期が来たのです。為替レートを是正して主要国は対等に競争する時です。もはやアメリカが片手を背中に縛られたまま競争する必要はないのです。……」(金ドル兌換停止発表後のニクソン大統領のコメント)

米国政府の債務増加 米国の借金を半分にするにはドルを半値にすればよい

(出所:マーク・ファーバー博士の月刊マーケットレポート The Gloom, Boom & Doom Report・国内代理店の掲載許可をとって掲載)

「トランプ政権が孤立主義やドル安を標榜するなか、ドル/円相場が8年サイクルのボトムである2015年6月の125円81銭を下回ることは容易ではない」という声が、ファンド運用者の間では増えている。為替の歴史は、米国の政治の歴史でもある。ひとたび、米国の為替政策が変われば、米日の金利差などは焼け石に水となってしまうのは、為替の歴史が証明している。

ドル/円(月足) 目盛を逆転(インバース)表示させてあります

(出所:石原順)