トランプ減税と原油価格の上昇

 トランプ米大統領は8日、イランが経済制裁の緩和と引き換えに核開発の制限に同意した2015年の核合意から離脱すると表明した。イラン側は再協議の可能性を否定し、報復に出ると脅している。「北朝鮮をめぐる極東情勢が一服したと思ったら、今度は中東の地政学リスクか?」といった報道が多いが、トランプ大統領は中東からも極東からも手を引いていくということだろう。

 トランプ大統領は軍産や米国のディープステート(裏で権力を握り続ける体制)をひっくり返すことを宣言して大統領になった。したがって、その核となるのは反軍産・反ウォール街という姿勢である。では、なぜトランプ大統領はマクマスター大統領補佐官(国家安全保障担当)の後任に、タカ派のジョン・ボルトン元国連大使を指名したのであろうか?

 トランプ大統領はイラン協定を破棄する作戦をボルトンに立案させたが、その内容は過激すぎて、これにビビった軍産複合体のマクマスター、ケリー、ティラーソンらによって逆に阻止されてきたというのがこれまでの経緯である。トランプ大統領のビジネス手法から考えると、トランプ大統領はネオコンやタカ派といった過激な連中を、軍産複合体という組織(勢力)を内部分裂させる道具として使っているようだ。

 米国が2015年の核合意から離脱したことにより、世界情勢の中でイランやロシアの発言力が上がり、米国の国際的な地位が低下していくということになるだろう。これは、米国の覇権放棄や孤立を促し、トランプ大統領の国内問題第一主義(アイソレーショニズム)と合致する。これが相場にどういう影響を与えるのかは未知数だが、イラン協定の破棄報道によってNY原油価格は70ドルを超える上昇となっている。

 仮に原油価格がもう一段上がるようなら、注意しなければならないのは「インフレ」であろう。現時点ではあまり問題にされていないが、トランプ大統領の減税をはじめとする経済政策は短期的な景気の過熱をもたらすだろう。これに原油高が加わりインフレが加速すると、FRB(米連邦準備制度理事会)は金利の引き締めに動かざるを得ない。この過剰流動性相場の終わりのシグナルはインフレだ。株価が暴落するのはインフレになったときである。インフレになれば、中央銀行は利下げも追加緩和もできないからだ。

NY原油CFD(月足)標準偏差ボラティリティトレードモデル

上段:ボリンジャーバンド(21)±1シグマ
中段:修正平均ADX(14)=赤・標準偏差ボラティリティ(26)=青
下段:赤色の期間=買いトレンド・黄色の期間=売りトレンド
出所:MT4 石原順DVD『石原順のボラティリティトレードシグナル』

NY原油CFD(週足)標準偏差ボラティリティトレードモデル

上段:ボリンジャーバンド(21)±1シグマ
中段:修正平均ADX(14)=赤・標準偏差ボラティリティ(26)=青
下段:赤色の期間=買いトレンド・黄色の期間=売りトレンド
出所:MT4 石原順DVD『石原順のボラティリティトレードシグナル』

NY原油CFD(日足)標準偏差ボラティリティトレードモデル

上段:ボリンジャーバンド(21)±1シグマ
中段:修正平均ADX(14)=赤・標準偏差ボラティリティ(26)=青
下段:赤色の期間=買いトレンド・黄色の期間=売りトレンド
出所:MT4 石原順DVD『石原順のボラティリティトレードシグナル』

 

米国の金利上昇と新興国の苦境

 米国の金利が上昇したことで、いろいろな副作用が生じてきたようだ。米長期金利が3%近辺に上昇してきたことで、運用者のポートフォリオは株式や新興国市場といったリスク資産から、短期の債券に資金を移動させる動きが出ているという。アルゼンチンやベネズエラは通貨安や金利の上昇に見舞われ、経済が回らなくなってきている。

米10年国債金利(日足)

上段:14日修正平均ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド±1シグマ(緑)
出所:石原順

 

 近年はアルゼンチンのようなリスクが高い国でも、FRB、ECB(欧州中央銀行)、日本銀行のQE政策の恩恵で海外から資金が流入していた。しかし、トランプ大統領が大型減税政策を打ち出し、米経済の過熱によって米国の利上げペースが加速するとの思惑から米長期金利が上昇してからは、新興国は通貨防衛のための政策金利の引き上げに追い込まれている。それでも通貨安は止まっていない。新興国は自国通貨が下落すると、ドル建てで借りた債務の返済負担が重くなり、景気に悪影響が及び世界経済全体にもマイナスになる。

 日本でアルゼンチンやベネズエラの金融商品の取引をしている人はほとんどいないと思われるが、筆者のところに照会がくるのはトルコリラの相場についてである。(トルコ中銀は4月下旬に利上げに踏み切ったが、トルコリラの下落が止まらず、4月下旬以降7%、年初から16%の下落となっている)

 質問の内容は以下の2つである。

  1. 「現在、トルコリラが売りトレンドにさらされています。仮に石原さんがトルコリラ円の取引をされるとした場合、現値(最安値近辺)からでも売りでエントリーされるのでしょうか?」
  2. 「トルコリラ/円の買いで大きな損が出ているが、どうしたらいいですか?」

 1.の「現値(最安値近辺)からでも売りでエントリーされるのでしょうか?」というトレードテクニックに関する質問であるが、筆者のトレードは最安値とか最高値といった値ごろ感は一切関係ない。「これからトルコリラが上がっていくのか、下がっていくのか」ということが最重要ポイントで、「現在の相場がトレンド(方向性)を持っているのか、持っていないのか?」という一点が、相場にエントリー(参入)する最大の動機となっている。

 2.の「トルコ/円キャリートレードで損が出ているが、どうしたらいいか?」という質問はどこに行っても聞かれる。筆者がトルコリラ(トルコ国債)のトレードをしたのは、トルコが政情・金融危機に見舞われた1990年代で、金利が跳ね上がり年利で40%もあった。米系S証券が推奨してきたが、これだけ金利があればリスクリターン比で買えると思い少し買ったことがある。

 こうした高金利を当てにした取引には大きな落とし穴がある。高金利を当てにしていると、損切りすることができないからだ。キャリートレードは「元本の損失が増え続けても足抜けできない」という心理的なバイアスが働くことに十分留意することが必要だろう。

 以下は、ドル/トルコリラとトルコリラ/円の月足・週足・日足のチャートである。

ドル/トルコリラ(月足)標準偏差ボラティリティモデル

上段:ボリンジャーバンド(21)±1シグマ
中段:修正平均ADX(14)=赤・標準偏差ボラティリティ(26)=青
下段:赤色の期間=買いトレンド・黄色の期間=売りトレンド
出所:MT4 石原順DVD『石原順のボラティリティトレードシグナル』

ドル/トルコリラ(週足)標準偏差ボラティリティモデル

上段:ボリンジャーバンド(21)±1シグマ
中段:修正平均ADX(14)=赤・標準偏差ボラティリティ(26)=青
下段:赤色の期間=買いトレンド・黄色の期間=売りトレンド
出所:MT4 石原順DVD『石原順のボラティリティトレードシグナル』

ドル/トルコリラ(日足)標準偏差ボラティリティモデル

上段:ボリンジャーバンド(21)±1シグマ
中段:修正平均ADX(14)=赤・標準偏差ボラティリティ(26)=青
下段:赤色の期間=買いトレンド・黄色の期間=売りトレンド
出所:MT4 石原順DVD『石原順のボラティリティトレードシグナル』

トルコリラ/円(月足)標準偏差ボラティリティモデル

上段:ボリンジャーバンド(21)±1シグマ
中段:修正平均ADX(14)=赤・標準偏差ボラティリティ(26)=青
下段:赤色の期間=買いトレンド・黄色の期間=売りトレンド
出所:MT4 石原順DVD『石原順のボラティリティトレードシグナル』

トルコリラ/円(週足)標準偏差ボラティリティモデル

上段:ボリンジャーバンド(21)±1シグマ
中段:修正平均ADX(14)=赤・標準偏差ボラティリティ(26)=青
下段:赤色の期間=買いトレンド・黄色の期間=売りトレンド
出所:MT4 石原順DVD『石原順のボラティリティトレードシグナル』

トルコリラ/円(日足)標準偏差ボラティリティモデル

上段:ボリンジャーバンド(21)±1シグマ
中段:修正平均ADX(14)=赤・標準偏差ボラティリティ(26)=青
下段:赤色の期間=買いトレンド・黄色の期間=売りトレンド
出所:MT4 石原順DVD『石原順のボラティリティトレードシグナル』

 

 筆者はいかなる通貨ペアの取引でも基本はトレンドについていくだけだが、長期保有のキャリートレードを続ける場合でも、月足や週足でトルコリラの売りシグナルが出た場合はいったんポジションを手じまって様子を見るべきだ。最近はメキシコペソのキャリートレードがブームだと聞くが、同様の注意が必要であろう。

ドル/メキシコペソ(月足)標準偏差ボラティリティモデル

上段:ボリンジャーバンド(21)±1シグマ
中段:修正平均ADX(14)=赤・標準偏差ボラティリティ(26)=青
下段:赤色の期間=買いトレンド・黄色の期間=売りトレンド
出所:MT4 石原順DVD『石原順のボラティリティトレードシグナル』

ドル/メキシコペソ(週足)標準偏差ボラティリティモデル

上段:ボリンジャーバンド(21)±1シグマ
中段:修正平均ADX(14)=赤・標準偏差ボラティリティ(26)=青
下段:赤色の期間=買いトレンド・黄色の期間=売りトレンド
出所:MT4 石原順DVD『石原順のボラティリティトレードシグナル』

ドル/メキシコペソ(日足)標準偏差ボラティリティモデル

上段:ボリンジャーバンド(21)±1シグマ
中段:修正平均ADX(14)=赤・標準偏差ボラティリティ(26)=青
下段:赤色の期間=買いトレンド・黄色の期間=売りトレンド
出所:MT4 石原順DVD『石原順のボラティリティトレードシグナル』

 

ドル高トレンド相場と標準偏差ボラティリティモデル

 ジョン・ヘンリーの言葉にあるように、トレンドフォローは売買手法の中でもっとも簡単な戦略である。

「適切な基本哲学を持っていれば、事態が変わることは結局利益になる。最悪でも、長い目で見れば生き残れるだろう。しかし、適切な基本哲学を持っていなければ、そのうち変化に殺されるので成功しない。私は、自分が予測なんてできないと分かっていた。 だからトレンドについていくことにしたし、だからこそ大成功し続けているのだ。私たちはただトレンドについていく。そのトレンドが初めのうちどれほどバカげて見えても、またどれほど続いても、あるいは終わりがどれほど筋が通らないように見えても、私たちはトレンドについていく」 (ジョン・ヘンリー)

 ドル高トレンドの発生で、筆者の標準偏差ボラティリティトレードも好調である。

 筆者は、標準偏差ボラティリティトレードの裁量トレードを、

  1. マーケットテーマ(ファンダメンタルズ)やニュースで銘柄選択
  2. 選択した銘柄のマルチタイムフレーム(複数の時間足)を観察
  3. 標準偏差やADXの過去の循環を見て、トレンドの発生しそうな時間枠を選択
  4. 赤のシグナルで買い、青のシグナルで売り、間違ったらただちに損切りする

 という手順で行っている。

ユーロ/ドル(日足)標準偏差ボラティリティモデル

上段:ボリンジャーバンド(21)±1シグマ
中段:修正平均ADX(14)=赤・標準偏差ボラティリティ(26)=青
下段:赤色の期間=買いトレンド・黄色の期間=売りトレンド
出所:MT4 石原順DVD『石原順のボラティリティトレードシグナル』

ユーロ/ドル(4時間足)標準偏差ボラティリティモデル

上段:ボリンジャーバンド(21)±1シグマ
中段:修正平均ADX(14)=赤・標準偏差ボラティリティ(26)=青
下段:赤色の期間=買いトレンド・黄色の期間=売りトレンド
出所:MT4 石原順DVD『石原順のボラティリティトレードシグナル』

ポンド/ドル(日足)標準偏差ボラティリティモデル

上段:ボリンジャーバンド(21)±1シグマ
中段:修正平均ADX(14)=赤・標準偏差ボラティリティ(26)=青
下段:赤色の期間=買いトレンド・黄色の期間=売りトレンド
出所:MT4 石原順DVD『石原順のボラティリティトレードシグナル』

ポンド/ドル(4時間足)標準偏差ボラティリティモデル

上段:ボリンジャーバンド(21)±1シグマ
中段:修正平均ADX(14)=赤・標準偏差ボラティリティ(26)=青
下段:赤色の期間=買いトレンド・黄色の期間=売りトレンド
出所:MT4 石原順DVD『石原順のボラティリティトレードシグナル』

ドル/スイスフラン(日足)標準偏差ボラティリティモデル

上段:ボリンジャーバンド(21)±1シグマ
中段:修正平均ADX(14)=赤・標準偏差ボラティリティ(26)=青
下段:赤色の期間=買いトレンド・黄色の期間=売りトレンド
出所:MT4 石原順DVD『石原順のボラティリティトレードシグナル』

ドル/スイスフラン(4時間足)標準偏差ボラティリティモデル

上段:ボリンジャーバンド(21)±1シグマ
中段:修正平均ADX(14)=赤・標準偏差ボラティリティ(26)=青
下段:赤色の期間=買いトレンド・黄色の期間=売りトレンド
出所:MT4 石原順DVD『石原順のボラティリティトレードシグナル』

ドル/円(日足)標準偏差ボラティリティモデル

上段:ボリンジャーバンド(21)±1シグマ
中段:修正平均ADX(14)=赤・標準偏差ボラティリティ(26)=青
下段:赤色の期間=買いトレンド・黄色の期間=売りトレンド
出所:MT4 石原順DVD『石原順のボラティリティトレードシグナル』

ドル/円(4時間足)標準偏差ボラティリティモデル

上段:ボリンジャーバンド(21)±1シグマ
中段:修正平均ADX(14)=赤・標準偏差ボラティリティ(26)=青
下段:赤色の期間=買いトレンド・黄色の期間=売りトレンド
出所:MT4 石原順DVD『石原順のボラティリティトレードシグナル』

NZドル/ドル(日足)標準偏差ボラティリティモデル

上段:ボリンジャーバンド(21)±1シグマ
中段:修正平均ADX(14)=赤・標準偏差ボラティリティ(26)=青
下段:赤色の期間=買いトレンド・黄色の期間=売りトレンド
出所:MT4 石原順DVD『石原順のボラティリティトレードシグナル』

NZドル/ドル(4時間足)標準偏差ボラティリティモデル

上段:ボリンジャーバンド(21)±1シグマ
中段:修正平均ADX(14)=赤・標準偏差ボラティリティ(26)=青
下段:赤色の期間=買いトレンド・黄色の期間=売りトレンド
出所:MT4 石原順DVD『石原順のボラティリティトレードシグナル』

 トレードで負けが込んでくると、ほとんどの投資家はシステムを変更するか、自由裁量の投資家に変身してしまう。トレンドフォローというトレーディング戦略で成功するにはシステムの中身が重要であることは言うまでもないが、実際にはそれを継続できるかどうか、その意志が重要であろう。