利上げ打ち止め観測

 一つには利上げ打ち止め観測が挙げられる。2020年から2021年にかけて米ドルの代替投資先として米機関投資家がBTCを買い始めて以降、BTCはFRBの金融政策によく反応するようになった。

 2021年11月のテーパリング開始時にピークを迎え、2022年11月の利上げ幅縮小時にボトムを迎えた。さらに今年1月に利上げ幅がさらに縮小されると上昇に転じ、3月の金融危機で利上げ打ち止め観測が浮上すると3万ドル台に乗せた。

BTC/JPYと米金融政策

出典:Trading Viewより楽天ウォレット作成 

 結局5月利上げで打ち止め観測は空振りに終わりBTCは失速したが、6月の据え置きで今度こそと利上げ打ち止めを織り込みに行き、3万2,000ドル手前まで上昇した。しかし7月の利上げでまたしても空振りに終わり、8月の急落につながった。

 今回、9月、11月と2会合連続での据え置きとなり、3度目の正直で利上げ打ち止めを織り込みに行く相場となった。ちなみに、上記の利上げ縮小は昨年12月と今年の2月となりBTCの値動きと1カ月程度ずれている。

 これはBTC(に限らないが)が期待をベースに前倒しで動くことからで、今回も11月のFOMCの前に織り込みに行った格好だ。すなわち、追加利上げの織り込みはすでに1割程度まで低下、利上げ打ち止めはほぼ織り込まれており、ここから先、この材料でのBTCの上昇は限定的かもしれない。

「質への逃避」

 もう一つ、今回の上昇で大きかったのはラリー・フィンク氏の発言だ。前述の通りBTCは戦争に弱い。不測の事態が発生すると投資家はポジションを小さくしようとする。ポートフォリオのリスク量を小さくするには、ボラティリティの高い資産を売却するのが近道だからだ。

 しかし、同氏がBTCを逃避先と名指ししたことで雰囲気が変わった。というのは、今回は「質への逃避」の筆頭であるはずの米国債が大きく売られ、また伝統的に安全資産といわれていた日本円もさっぱりで、投資家が逃避先に困っていたからだ。それゆえ、スイスフランや金が買われたが、前者は市場規模が小さく、後者は値動きが鈍い。

 そうした中、同氏の指摘でBTCが逃避先として認識されるに至った。とはいえ、まだそうした認知が一般的になったわけではないが、中東情勢が好転すればリスクオンで、悪化しても逃避フローで、どちらに転んでもBTC買いといった状況が生まれた。

どちらに転んでもBTC買い

 どちらに転んでもBTC買いという構図は米長期金利との関係でも生じた。パウエル議長らは米長期金利上昇による引き締め効果により追加利上げが不要になったと説明している。この結果、長期金利が上昇すれば利上げ打ち止め観測が高まり、低下すればリスクオンで、どちらに転んでもBTC買いといった状況が生まれた。

米10年債金利(橙:左軸)とFF先物2023年12月(白:右軸)

出典:Bloombergより楽天ウォレット作成

 ただこうした、どちらに転んでもBTC買いといった状況は長続きするわけではない。すでに追加利上げの織り込みが1割程度に低下した中、次は利下げが見えてくるまでは、この材料での上値余地は限定的だろう。

 米長期金利の上昇、米国債価格の低下は代替投資であるBTCの買い要因となったが、利上げ打ち止め観測が浮上する中、米債金利は急低下している。投資家は金利が上昇している間は長期債を買おうとしないが、いったん金利が低下に転じると、4%台の10年国債は魅力的に映るだろう。

ETF承認時の上昇余地

 ETFの承認の可能性はどうだろうか? 具体的にいつSECが承認するかを占うのは難しい。すでにSECの論理は破綻しており、後は政治的な判断となる。ただ、あとどれだけ上昇余地があるかのめどは立てられるかもしれない。

 前述のGBTCは、ファンドが保有しているBTCの価値と市場で流通しているファンドの株式の時価総額とのマイナスかい離に苛まれている。6月のブラックロックのETF申請時にはおよそ4割のマイナスだったものが、SECへの勝訴などもあり1割程度に縮小している。この間、BTCは2万6,000ドルから3万5,000ドルに3割強上昇している。

 この上昇にはETF期待だけでなく、利上げ打ち止め観測分があるために、ある程度割り引かなければならないが、仮にGBTCがETFとして認められ、ファンドの純資産価格と流通価格が一致するようになれば、GBTC価格はあと1割上昇する計算となり、BTCも最大でおおよそ1割程度の上昇余地があるか。

 すなわち、3万8,000ドルから3万9,000ドル、円貨で580万円程度までの上昇が見込めそうだ。ただし、実際にETFがローンチした後はSell the Fact(うわさで買って事実で売れ)で利食い売りが出るので注意が必要だ。

GBTCプレミアム(市場価格/純資産価格-1)とBTC/USD価格

出典:Bloombergより楽天ウォレット作成