今後の成長期待三つの柱

 イオンは、構造改革が進み、成長への期待が見えてきたと評価しています。筆者が期待する三つの成長の柱についてコメントします。

【1】イオンリテールの構造改革のさらなる進展、利益拡大

 イオングループは、金融(カード事業)、ディベロッパー(テナント収入)、ドラッグストア(ウエルシア)で高い利益をあげる一方、イオンリテールの総合スーパー、その他スーパー、低価格スーパー事業の利益率が低いことが、重大な構造問題として意識されてきました。

 イオンリテールは、収益性を高めるための構造改革を続けてきましたが、その成果が、前期に表れました。前期は、イオンの総合スーパー、その他スーパー、低価格スーパー事業の収益回復が大きく、営業利益の構成比が31%に達しました。

 イオンリテールの利益成長はこれからも続くと予想しており、金融・ディベロッパー・ドラッグストアに次ぐ、四つ目の成長の柱として期待が持てるようになりました。

(参考)イオン2024年2月期の事業セグメント別営業利益

出所:同社決算説明資料より作成 注:事業セグメントに「国際」があるが、これは小売業の海外利益だけ示す。総合金融・ディベロッパー・セグメントの中にも海外利益が含まれている

 セブン&アイ・ホールディングス(3382)傘下のスーパーストア「イトーヨーカ堂」の収益改善が遅れる中、イオンのスーパーストア事業の収益改善が顕著で、明暗が分かれました。

 イオンはグループ内にセブン‐イレブンのような巨大コンビニを持たないので、コンビニと勝負できるようなビジネスを次々と立ち上げて、成功させることができました。それが、小型スーパー「まいばすけっと」や、ドラッグストア「ウエルシア」などの成功につながっていると思います。

 また、小売業の競争力強化には、プライベートブランド(PB)強化が必須です。イオンは、食料品や衣料品で価値訴求型PBを立ち上げて成功させ、スーパーストア事業の粗利拡大に成功しています。セブン&アイもPB開発では大きな成果を出していますが、「セブンプレミアム」などコンビニのPB強化により大きな成果が出ています。

 イオンリテールは、価格訴求PBに加え、価値訴求PBを拡大することで、さらに利益を拡大していけると予想しています。旧ダイエーなど低採算店舗のさらなる構造改革も含めて、イオンリテールの今後の利益拡大に期待しています。

【2】ヘルス&ウエルネス・総合金融・ディベロッパー事業での成長期待

 イオンの前期営業利益の64%を占めているのが、ヘルス&ウエルネス(ウエルシア中心のドラッグストア事業)・総合金融(カード・銀行事業)・ディベロッパー事業(テナント収入)です。この三つの柱を活用することで、総合小売業として生き残り、成長するビジネスモデルを確立したと判断しています。

 総合スーパーはかつて、専門店(ユニクロや無印良品、ABCマートなど)に押されて衰退していった時代がありました。しかし、それは過去の話です。今は、郊外に作られたイオンの巨大なショッピングモールは、地域でもっとも競争力の高い小売業の一つになっています(セブン&アイの「セブンパーク」も同様に高い競争力を持つ)。

 イオンは、競争力の高い専門店はテナントとして積極的に取り込んで、モールの魅力を高めるとともに、テナント料をとって稼ぐ形としています。テナントとして取り込まない専門店に対しては、プライベートブランド品を強化することで逆に反撃に出ています。

 イオンの巨大なショッピングモールで高収益を稼いでいるのは、イオンリテール(小売業)ではなく、総合金融(カード事業など)、ディベロッパー事業(テナント料)で高い利益をあげています。小売・金融・ディベロッパーの3事業を合わせて、競争力の高いショッピングモールを作って稼ぐビジネスモデルを、国内でも海外でも確立しています。

 モール外では、ドラッグストア「ウエルシア」が高収益を稼ぎ、調剤部門が利益成長に貢献しています。ドラッグストアの利益は、ヘルス&ウエルネス部門に含まれています。

 前期は、ヘルス&ウエルネス・総合金融・ディベロッパーの3部門で、イオンの営業利益の64%を稼いでいます。イオンリテールの収益が低くても、3事業を合わせて、高収益を実現しています。

 総合金融・ディベロッパー事業については、海外展開も含め、今後さらに成長余地があると考えています。

【3】アジアでの成長期待

 イオンのアジア事業は、日本と同様、コロナ禍のロックダウン(都市封鎖)で一時大きなダメージを受けました。今は、日本と同様、リオープンが進む中で利益が回復しています。

 ただ利益が回復するだけではなく、売上収益の一段の成長が見えてきました。特にベトナム事業の成長加速が期待されます。ホーチミン・ハノイに加えて中部の中核都市フエに出店したことが、貢献すると考えられます。

(参考)イオン2024年2月期の地域別営業利益

出所:同社決算補足資料

 イオンの営業利益の海外構成比は、前期は23%でした。海外構成比は一時3割に迫っていましたが、前期は国内の利益拡大が大きかったために、海外構成比が低下しました。

 小売企業の海外利益構成比が3割を超えると、投資家の見る目が変わります。海外で成長する小売企業として見られるようになります。イオンはまだ、ドメスティックな(国内中心の)小売業と見なされています。海外の利益がもっと拡大し、営業利益の3割以上を占めるようになれば、海外で成長する小売業と見られるようになると考えています。

 なお、上記の地域別利益は、イオンリテール(小売事業)だけでなく、総合金融・ディベロッパー(テナント収入)事業の利益を加えたトータルでの海外利益の構成比です。海外も国内と同様、小売事業だけでは収益性が高くないですが、総合金融、ディベロッパー事業を加えて、収益性を高めるスタイルを確立しつつあります。

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