日本株は自社株買いを増やす財務バッファーが大きい

 日本株が割安と評価するもう一つの理由は、財務的なゆとりが大きいことです。日本企業は、1990年代のバブル崩壊後、一貫して、借金返済・財務的なゆとりの拡大にまい進してきました。その成果から、今、日本では有利子負債が実質ゼロ(有利子負債から現預金を差し引いた残高がマイナス)の上場企業が増えています。

 それだけではありません。持ち合い株式や、賃貸不動産に巨額の含み益を有する企業もたくさんあります。

 もし、株価至上主義の米国経営者が、今の日本企業を経営したら、巨額の含み益のある持ち合い株式や賃貸不動産は売却して、自社株買いに充てるでしょう。自社株買いを続けることによって、発行済み株式を減らし、EPS(1株当たり利益)を増加させ、株価を上昇させます。

 ところが、日本企業の経営者は、財務余力を温存して、危機の時に、従業員をリストラしないで生き残るためのバッファーとすることを優先してきました。その差が、米国株と日本株のこれまでの上昇率の差に表れています。

 一方、米国企業は、めいっぱい自社株買いを実施して株価を上げる経営をしてきたため、これ以上、自社株買いを増やすゆとりはありません。

 自社株買いに消極的ながら、これから自社株買いを増やしていくバッファーの大きい日本企業とは対照的です。

 株価を上げることを重視する経営に転じた場合、株価を上げるための財務バッファーが大きいことが、日本株が割安と私が言うもう一つの理由です。

 日本の上場企業は幅広く株式持ち合いをしています。もし、事業上のつながりが小さい持ち合い株式を全て売却して、その売却代金を使って自社株買いを行えば、私の試算では、日本企業のEPSは約34%上昇します。 全て売却することはあり得ないですが、売却が進む兆しが出ていることに、注目が集まっています。

インフレ復活が日本企業の業績拡大に追い風

 長年にわたって日本にデフレが染み付いてきたことが、日本株が買われにくい理由でした。昨年より、インフレが復活した効果によって、日本の名目GDP(国内総生産)の成長率が高くなっていることが、日本株の見直しにつながっていると考えています。

日本の名目GDP成長率の推移:1981~2023年

出所:IMF・総務省より作成

 足元上昇ピッチが速すぎて、短期的にはスピード調整の可能性もあります。投資する場合はリスク管理が大切です。割安な日本株を、時間分散しながら買い増ししていくことが、長期の資産形成に寄与すると考えています。

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