先週の株式市場は、23日(水)発表の米国の高速半導体メーカー・エヌビディア(NVDA)の好決算期待で上昇したものの、実際に好決算が発表されたあとは材料出尽くしで下落。

 24日(木)~26日(土)に開催された中央銀行関係者のシンポジウム「ジャクソンホール会議」を警戒して下げたものの、米国の中央銀行に当たるFRB(連邦準備制度理事会)のパウエル議長の講演が25日に終わると、今度は無事材料を通過したことで米国株が上昇に転じました。

 期待感や警戒感、その結果に対する材料出尽くしの動きで、株価が上下動した1週間でした。

 東京株式市場の日経平均株価(225種)の25日(金)終値は前週末比0.6%高の3万1,624円でした。

 米国株式市場では、機関投資家が運用指針にするS&P500種指数が前週比0.82%の小幅上昇。

 ハイテク株が集まるナスダック総合指数は前週比2.26%高と4週間ぶりに上昇しました。

 今週は31日(木)発表の米国の7月個人消費支出とその価格指数、月が替わる9月1日(金)発表の8月米国雇用統計に注目です。

 8月の株式市場は25日(金)時点で、日経平均株価が7月終値から1,547円安のマイナス4.7%の下落、S&P500種指数が4.0%安、ナスダック総合指数は5.3%安と、日米の主要株価指数が軒並み大きなマイナスになっています。

 週明け28日の東京株式市場の日経平均終値は前週末比545円高の3万2,169円でした。25日のパウエル議長の講演が波乱なく終わり、米国株上昇の流れや円安を受けて、電気機器の業種などで買い戻しの動きが広がりました。中国財務省などが市場活性化策として株式の取引に係る証券取引印紙税を引き下げると発表し、中国株が大幅高となったことも押し上げ要因になりました。

 9月1日(金)に月が切り替わるまでの間、今月の下落幅の一部を取り戻せるか、それともさらに下落するか注目を浴びそうです。

先週:エヌビディアの好決算は材料出尽くしで終了。ジャクソンホール・パウエル講演で株価反発! 

 先週の日本株は、先々週下げ過ぎたことによる自律反発や1ドル=145~146円台の円安もあって、週前半は堅調に推移しました。

 日本時間の24日(木)早朝には、米国高速半導体メーカー・エヌビディア(NVDA)が 2023年5-7月期の決算を発表。

 AI(人工知能)向け半導体の需要急増で売上高が予想を上回りました。現在進行中の2023年8-10月期の売上高も市場予想を大きく上回る約160億ドル(約2兆3,360億円)まで伸びる見込みであると公表しました。

 この好決算を受けて、日本でも半導体製造装置メーカー・東京エレトクロン(8035)が24日に前日比3.3%上昇するなど、半導体株が大きく値上がりしました。

 しかし日本時間の夜間に始まった24日(木)の米国市場で、エヌビディア株は急激に失速して前日比0.1%高で終了。

 好材料に対する期待感で上昇した株が、実際に好材料が発表されると「もう、これ以上の好材料は出ないだろう」と売られる、典型的な「材料出尽くしの売り」となりました。

 エヌビディアの失速や25日(金)のジャクソンホール会議でのFRBのパウエル議長の発言に対する警戒感から、25日の日経平均は3万2,000円の大台をあっさり割り込み、前日比662円安の3万1,624円で先週の取引を終えました。

 主力半導体株の東京エレクトロン(8035)にいたっては25日に5.9%も下落し、前日24日(木)までの上昇をほぼすべて打ち消す前週比0.7%安で取引終了。

 最高値圏での「行って来い」の動きは投資家の見切り売りの結果といえ、生成AIブームで沸いた日米半導体株は今後、一定期間、調整下落局面入りする可能性も出てきました。

 また、24日(木)に福島第1原発の処理水の海洋放出が始まったことで、当事者の東京電力ホールディングス(9501)の25日終値が前週末比4.4%上昇するなど、電力・ガス業が週間の業種別ランキング首位になりました。

 一方、24日に中国が日本の水産物の全面禁輸を発表したことで水産加工大手ニッスイ(1332)は25日に前日比2.4%下落しましたが、週間では前週末比0.2%高でした。

 同じく水産大手のマルハニチロ(1333)も前週末比3.3%高と、影響は軽微でした。

 一方、米国では21日(月)に米国格付け会社のS&Pグローバルが金利の急上昇で資金調達やお金の流れが圧迫されているとして、複数の米中堅銀行の信用度を格下げ。

 これは、8月7日(月)の格付け会社ムーディーズによる米国地方銀行格下げに続く動きです。

 米国金融機関の信用性に対する不安感が台頭する中、市場では高金利政策の長期化懸念で米国債が売られ、米国の長期金利の代表的指数である10年国債の金利が22日(火)に一時4.366%と16年ぶりの高水準に達しました。

 そして、25日(金)には、米国カンザスシティ地区連邦準備銀行がワイオミング州ジャクソンホールで毎年開催する「ジャクソンホール会議」でFRBのパウエル議長が講演。

 講演内容は「今のインフレ水準は高すぎる。今後も金利を引き上げる用意がある」と金融引き締めに積極的なタカ派寄りでしたが、「(利上げに関しては)慎重に判断していく」と、9月20日(水)終了の次回FOMC(連邦公開市場委員会)での利上げ休止をほのめかす発言も行いました。

 特にパウエル議長の講演に大きなサプライズがなかったこともあり、25日(金)の米国株は反転上昇しました。

今週: 米7月PCEデフレーター&8月雇用統計が高過ぎると株価急落も!?

 25日(金)のニューヨーク外国為替市場の円相場が、パウエル議長の発言を受けて1ドル=146円40~50銭の円安水準で終了したこともあり、28日(月)週初の日経平均は反発し、終値は前週末比545円高の3万2,169円でした。

 今週は29日(火)に米国の民間調査会社コンファレンス・ボードの8月消費者信頼感指数、31日(木)には日本の製造業の稼働状況がわかる7月鉱工業生産が発表されます。

 31日(木)には、米FRBが物価指標として最重要視する7月の個人消費支出の価格指数(PCEデフレーター)も発表されます。

 前回6月のPCEデフレーターは前年同月比3.0%の伸びと、2021年3月以来の低水準となりましたが、今回7月のPCEデフレーターは3.3%上昇、変動の激しいエネルギーと食品を除くコアPCEデフレーターは4.2%上昇と高止まりが予想されています。

 25日(金)のジャクソンホール会議でパウエル議長は最近のコアPCEインフレ率の低下はインフレ率の持続的低下の「始まりにすぎない」と述べています。

 31日発表の7月PCEデフレーターでインフレ率の高止まりが確認されると、再び株安に見舞われる恐れがあります。

 そして、株安の続いた8月が終わり9月最初の取引日となる1日(金)には、早くも8月の米国雇用統計が発表になります。

 市場の見立てでは、農業部門以外の雇用者数は前月比16.8万人増に7月(18.7万人増)から伸びが鈍化し、平均時給の伸びも0.3%増に縮小する予想となっています。

 25日のジャクソンホール会議の講演でパウエル議長は、現在のGDP(国内総生産)や個人消費、雇用市場は非常に良好だと米国経済に対する自信を表明した上で、「トレンド以上の(経済)成長だとさらなる利上げを正当化する可能性もある」と、景気を犠牲にしても利上げを続ける可能性を示唆しました。

 しかし、どうして、これほど高金利なのに米国経済の高成長が続くのかは大きな謎です。

 コロナ禍に蓄えられた過剰な貯蓄が年率4~5%に達する高金利でますます増えて個人消費が活発化し、米国への移民流入の制限や米中の政治的対立による人手・モノ不足で物価が高止まりする状況が一過性のものではなく「構造的な問題」である可能性もあります。

 その場合、米国が1970~1980年代に苦しんだ長期のインフレ・高金利とそれにともなう「株式の死」を追体験する可能性もないとはいえません。

 その意味で、9月の先陣を切って発表される米国の8月雇用統計には大きな注目が集まりそうです。

 また、このところ株価下落の原因となっている米国の長期金利が、再び4.3%台を突破して上昇するかどうかにも引き続き注意が必要でしょう。

 一方、25日(金)のニューヨーク外国為替市場では一時1ドル=146円60銭台をつけるなど、約9カ月ぶりとなる円安水準となりました。

 23日(水)の経済産業省の発表では、21日時点のレギュラーガソリン1リットル当たりの全国平均小売価格は183.7円でした。14週連続で値上がりし、過去最高だった2008年8月の185.1円に迫っています。

 物価高に対する厳しい世論を背景に岸田政権が円買いの為替介入に踏み切る可能性もないとはいえず、その場合は日本株が急落してもおかしくないでしょう。

 例年9月は株価が下落しやすい季節ですが、逆の見方をすると、通常は9月に底値を付けた後、年末に向けて上昇に転じることが多いもの。

 株価が下がりやすい9月は、年内で新規の買い付けが終了となる現行NISA(ニーサ:少額投資非課税制度)で駆け込み投資をするなら、株や投資信託を底値になるのを狙って買い、長期非課税保有するのにいい時期といえるかもしれません。