今週は6月12日(水)(日本時間13日(木)未明)に終了する米国のFOMC(連邦公開市場委員会)で、2024年の利下げ開始時期や回数について、どんな見通しが打ち出されるかで株価が乱高下しそうです。

 12日には米国の5月CPI(消費者物価指数)も発表されます。市場予想では前年同月比3.4%上昇で4月と変わらないものの、前月比では0.1%上昇まで伸び率が鈍化すると見込まれています。

 ただ、米国のしつこい物価高の一因になっている強すぎる雇用市場や賃金の上昇はなかなか止まりません。

 先週7日(金)発表の米国の5月雇用統計では、農業部門以外の新規雇用者数が予想をはるかに超える前月比27.2万人増となり、物価高に直結する平均時給も前年同月比4.1%増と伸び率が加速する結果になりました。

 機関投資家が運用指針にするS&P500種指数の7日終値は前週末比1.32%の上昇と引き続き史上最高値圏にありますが、今週12日の5月CPIやFOMC次第では高値圏から大きく下落する展開もありそうです。

 一方、先週の日本株は、日米金利差の縮小で週初に1ドル=157円20銭台だった為替レートが4日(火)に一時154円50銭台まで円高に振れたこと、またトヨタ自動車(7203)をはじめ大手自動車メーカー5社が国の認証試験で不正を行っていたことが判明し、全体的に見ても低調な展開でした。

 米国では機関投資家が運用指針にするS&P500種指数やナスダック総合指数が5日(水)に史上最高値を更新する一方、日経平均株価(225種)の7日(金)終値は前週末比196円(0.5%)高の3万8,683円の小幅高で終了。

 時価総額の大きな企業の影響を受けやすいTOPIX(東証株価指数)は逆に0.6%下落しました。

 認証不正が発覚したトヨタ自動車が週間で5.4%下落。

 三菱UFJフィナンシャル・グループ(8306)が2.1%下落するなど、国内金利の上昇を好感して調子が良かった銀行・保険関連株も下落。

 原油価格下落でINPEX(1605)が4.1%下落するなど、株価が割安なバリュー株の一角を占める資源株もさえませんでした。

 日本株は為替が円高に振れると、途端に値動きが悪くなってしまう傾向があります。

 先週の「利下げ期待で絶好調の米国株、円高進行で弱い日本株」という構図が今週も続くかどうかに注目です。

 幸い、7日(金)発表の米国の5月雇用統計が非常に強すぎる結果になったため、7日のニューヨーク外国為替市場は1ドル=156円70銭台で終了。

 大幅な円安回帰を受けて、7日の米国株が下落したにもかかわらず、10日(月)の日経平均終値は前週末比354円高の3万9,038円まで上昇しました。

 日銀の金融政策決定会合を13~14日に控える中で長期金利が1%台に上昇し、金利上昇が収益拡大につながる銀行や保険株が堅調でした。認証試験の不正で先週、軟調だったトヨタなど自動車株も上がりました。

先週:米国株はエヌビディア躍進で絶好調、日本株は認証不正の自動車株が急落

 先週の日本株は、物言う株主や不祥事に翻弄(ほんろう)された1週間でした。

 株式市場の話題をさらったのが、5日(水)に米国の空売り専門の投資集団として知られるスコーピオン・キャピタルが、半導体検査装置の人気株レーザーテック(6920)に対して不適切会計を行っているというリポートを公表したことでした。

 レーザーテックは即座に「不正会計の疑惑について明確に否定する」とコメントを出したものの、7日(金)終値は前週末比10.6%安まで値下がりしました。

 同じ5日(水)にはソフトバンクグループ(9984)に対して、米国ヘッジファンドのエリオット・マネジメントが150億ドル(約2.35兆円)の自社株買いを要求していると報じられ、同社の株は週間で5.0%も上昇。

 アクティビスト(物言う株主)の動きで日本の主力株が大きく動くトレンドが鮮明になりました。

 ただし、米国ではAI(人工知能)関連の超人気株エヌビディア(NVDA)が10.3%も続伸し、アップル(AAPL)を抜いて時価総額が3兆ドル(約470兆円)に達しました。

 一方で、日本の半導体株は主力の東京エレクトロン(8035)が2.5%高、半導体切断装置のディスコ(6146)が2.7%安と、いまひとつ、エヌビディア熱狂の波に乗り切れませんでした。

 日銀の植田和男総裁が6日(木)の参議院財政金融委員会で、国債の買い入れ額について「今後、減額することが適当だ」と発言。

 日銀は現在、長期金利の上昇を抑える目的で月間6兆円程度のペースで長期国債の買い入れを行っていますが、保有する国債の満期到来による償還額とおおむね同額の水準です。

 そのため、このところ日銀の長期国債の保有残高は横ばいが続いていました。買い入れ額を減らすことは保有残高を減らす方向にかじを切ることになるため、長期金利を上昇させ、円高の要因となります。

 今週14日(金)に終了する日銀の金融政策決定会合で減額の具体的スケジュールが示されることへの警戒感が強まりました。

 ECB(欧州中央銀行)が6日に、米国や英国に先駆けて4年9カ月ぶりに政策金利の0.25%利下げを発表。

 利下げは株価にとって朗報ですが、ECBのラガルド総裁は「段階的な利下げサイクルに入ったとは確信できない」と発言。

 市場では、さらなる金融緩和に消極的な「タカ派的利下げ」と見なされています。

 ECBと同様に、米国の中央銀行に当たるFRB(連邦準備制度理事会)が仮に市場の期待通り今年9月に利下げをしたとしても、その後の市場は再び様子見に徹する可能性が高まったといえるでしょう。

 米国では、3日(月)発表のISM(全米供給管理協会)の5月製造業景況指数が予想以上に低下し、利下げに対する期待より景気後退懸念が台頭しました。

 逆に5日(水)発表のISM非製造業景況指数は好不況の境である50を大幅に上回り、同指標の価格指数は低下。

 同日に給与計算代行サービス会社のADP(オートマチック・データ・プロセッシング)社が発表した5月の民間雇用統計も予想を下回り、米国株は勢いよく上昇しました。

 しかし、7日(金)発表の5月雇用統計は大幅な雇用増と平均時給の伸びを示すものとなり、米国の景気と雇用に関する指標はまだら模様、ちぐはぐな結果になっています。

 今後のベストシナリオは、景気指標が比較的良好な中で雇用が減速して賃金の伸びが鈍化し、物価高も鈍化すること。

 一方、景気・雇用指標がともに大幅減速すると、利下げよりも景気後退懸念が強まるのでマイナス。

 景気・雇用が絶好調の場合も、FRBが利下げ開始時期を遅らせる懸念が出てくるのでマイナスです。

 さらに日本株は、米国の景気が良すぎて金利が高止まりするようなら円安トレンドが続くので追い風。

 米国の景気・雇用が減速して利下げの必要性が高まると為替が円高に振れるため逆風と、米国株以上に難解な値動きになる可能性が高そうです。

今週:米国の年内利下げ回数見通しの引き下げ必至!?日銀会合に注意!

 今週はなんといっても12日(水)の米国5月CPI(消費者物価指数)とFOMC(連邦公開市場委員会)の結果次第で相場が乱高下しそうです。

 特にFOMC終了後には、参加理事たちが今後の政策金利の水準を予想した「ドットチャート」が発表されます。

 前回3月発表時は、米国景気は「依然として強い」という判断ながら、それでも2024年中に3回の利下げを行う見通しが維持されました。

 しかし、そのためには市場が利下げ開始を期待する9月18日終了のFOMC以降、年内全ての会合で利下げを行う必要があります。

 現在の米国の強すぎる景気・雇用の状況から考えると、今回発表のドットチャートでは2024年の利下げ回数の見通しが3回から2回もしくは1回に引き下げられる可能性が高いでしょう。

 絶好調の米国株がドットチャートの利下げ回数引き下げにどのような反応をするかが焦点になります。

 翌13日(木)には、米国の5月PPI(卸売物価指数)も発表。

 前回の4月PPIは前年同月比2.2%上昇、前月比では0.5%上昇と予想を上回る伸び率で米国の物価高止まり懸念を生んだだけに、今回も要注目です。

 14日(金)には日銀の金融政策決定会合が終了。

 12日終了の米国FOMCのドットチャートで年3回利下げ見通しが維持され、しかも日銀が14日の会合終了後に国債買い入れ額の減額スケジュールを具体的に示すようだと、為替市場で円高が進み、「円高に弱い日本株」がさらに際立つ恐れもあります。

 先週は物言う株主の登場が目を引きましたが、それは日本株全体が方向感を失い、上昇トレンドに陰りが出ているからという面もあります。

 自動車メーカーの認証不正問題の影響は今後も長引く可能性が高く、トヨタ自動車をはじめとした自動車株、ひいては全体相場の低迷につながりそうです。

 ただ、日本株が急転直下、いきなり下降トレンド入りするとも思えません。

 米国で金利の低下が進むようなら、3月以降、低迷の続いた東証グロース市場250指数が2週連続で上昇し、下げ止まりの兆しが出ていることもあり、大型株が材料難のときに物色されやすい東証グロース市場の中小型成長株に日が当たる展開もありうるでしょう。