先週の株式市場では、7月18日(木)に共和党の大統領候補指名を正式受諾したトランプ前大統領が次期大統領に就任するに違いないという見通しが台頭。トランプ氏が掲げる政策に沿った有望株を買う「トランプトレード」が市場を席巻しました。
日本時間22日(月)未明には、高齢による衰えが懸念視されていたバイデン現大統領が大統領選撤退を表明。
副大統領で女性のカマラ・ハリス氏がトランプ氏を相手に、11月5日の大統領選を戦うことになりそうです。
バイデン氏撤退で、トランプ大統領誕生確率が低下する可能性もあり、今週はトランプトレードが一段落するかもしれません。
しかし、先週は軍需、インフラ関連の建機メーカー、銀行、住宅関連企業などが「トランプ関連株」として買われた一方、中国や台湾に対する過激なトランプ発言が政治リスクとして不安視され、日米の半導体株が急落しました。
17日(水)に米バイデン政権が中国向けの半導体輸出に対して最も厳格な規制を検討していると報じられたこともあり、日本株では主力の東京エレクトロン(8035)が前週末比12.7%も下落。
米国でもAI(人工知能)関連の花形株である高速半導体メーカーのエヌビディア(NVDA)が週間で8.75%下落。
泣きっ面に蜂と言えばいいのか、19日(金)には米国セキュリティソフト会社のクラウドストライク・ホールディングス(CRWD)の更新ソフトの不具合が原因で、マイクロソフト(MSFT)製品に大規模なシステム障害が発生。
世界各国で航空機が運航停止になるなど大混乱し、まさに半導体株受難の1週間になりました。
「対ドルでの円安や人民元安ははなはだしい」というトランプ発言や17日(水)、河野太郎デジタル相が日本銀行に円高是正のための利上げを求めたと報じられたこともあり、18日(木)の為替市場では1ドル=155円30銭台まで円高が進行。
トヨタ自動車(7203)が前週末比4.3%安となるなど、輸送用機器セクターが週間の業種別下落率のワーストに沈みました。
日経平均株価(225種)の19日(金)終値は前週末比1,126円(2.7%)安の4万0,063円まで急落。
トランプ関連株の銀行など金融株や円高で潤う内需株の影響力が強いTOPIX(東証株価指数)は前週末比1.2%安。下落幅は日経平均ほどではありませんでした。
米国では、「マグニフィセント7」と呼ばれる巨大IT企業の影響力が非常に強いS&P500種指数が19日(金)もシステム障害の影響を受けて前日比0.71%も下落。週間でもマイナス1.97%と大きく下落しました。
一方、トランプトレードで買われやすい銀行株や建機、軍需株が構成銘柄にあるダウ工業株30種平均は前週比0.72%上昇。
18日(木)、19日(金)は半導体株急落で全体相場の市場心理が悪化して下落に転じましたが、17日(水)まで3日連続で史上最高値を更新しています。
19日(金)の米国株急落に加え、バイデン氏の大統領選撤退による先行き不透明感から、週明け22日(月)の日経平均終値は4万円の大台を割り込み、前週末比464円安の3万9,599円となりました。下落は4営業日連続で、半導体関連株の下げが目立ちました。
今週、米国では23日(火)にグーグルの親会社アルファベット(GOOG)、電気自動車のテスラ(TSLA)や半導体メーカー大手のテキサス・インスツルメンツ(TXN)などIT関連企業の2024年4-6月期決算発表があるので要注意です。
日本株では東京エレクトロンなど先週、総崩れとなった半導体株が持ち直すかどうかが焦点になるでしょう。
先週:トランプトレードで建機、防衛株上昇も半導体株の下げきつい!円高やシステム障害響く!
7月13日(土)の銃撃事件から18日(木)の共和党大統領候補の指名受諾演説まで、先週の株式相場の主役はトランプ前大統領でした。
日本株では、トランプ氏の掲げる石油掘削推進政策を受け、建機向け油圧フィルタで世界一のヤマシンフィルタ(6240)が前週末比29.8%も急伸。「トランプ関連銘柄」の主役に躍り出ました。
その他、トランプ大統領誕生が追い風になりそうな防衛関連や北米販売に強い建機、住宅メーカーが買われました。
具体的には建機メーカーのコマツ(6301)が前週末比4.8%高、北米で人気の住宅メーカー・住友林業(1911)が12.2%高、日本の防衛負担増加が収益拡大につながりそうな川崎重工業(7012)が8.9%高。
その一方で、トランプ氏は台湾が「米国の半導体ビジネスを全て奪った」「台湾に防衛費を負担させる」などと過激な発言を連発。
半導体受託製造で世界最大のTSMC(台湾積体電路製造)は18日(木)、AI向け投資の拡大で予想を上回る2024年4-6月期の業績を発表したものの、同社が米国市場に上場するADR(米国預託証券)は前週末比12%も急落。
日本の半導体株も18日(木)発表の2024年7-9月期の業績見通しが市場予想から下振れした半導体研磨装置のディスコ(6146)が15.7%も急落するなど、主力の半導体株の大半が東証プライム市場の週間下落率上位に名を連ねました。
米国では、19日(金)に発生した世界的なシステム障害の元凶になったクラウドストライク・ホールディングス(CRWD)が前日比11%も急落。週間でも前週末比18%下落しました。
システム障害の発生元になったマイクロソフトも週間で3.6%超下落。
S&P500種指数やハイテク株が集まるナスダック総合指数は時価総額加重型(時価総額の大きな企業の影響力が強い)指数のため、米国株の中でも突出した時価総額を誇る「マグニフィセント7」の株が急落すると非常に大きく下落します。
半導体関連株の影響力が非常に強い日経平均株価も同じ。
ここ最近の株式市場では、米国の早期利下げ見通しを好感して、巨大IT企業の株を売り、中小型の成長株を買う流れが鮮明でした。
しかし、株価指数が大きく下落して、全体の投資家心理が悪化したことで、半導体株以外の銘柄が物色される「ローテーション(銘柄循環)」にもストップがかかりました。
米国の中小型の成長株を指数化したラッセル(RUSSELL)2000も週間では前週末比1.68%高とプラスだったものの、17日(水)以降、3日連続で下落しています。
今週:トランプ過激発言やバイデン撤退で政治リスク台頭!?米国企業決算や物価指標で持ち直しも!
今週早々の注目ポイントは、バイデン現大統領が大統領選から撤退し、カマラ・ハリス副大統領が民主党の次期大統領候補に名乗りを上げたニュースに、株式市場がどんな反応を示すか。
バイデン撤退により、11月5日に迫った米国大統領選で共和党候補のトランプ前大統領が勝利する確率は若干、低下する可能性が高いでしょう。
そのため、先週、市場を席巻したトランプトレードが、今週は少し沈静化するかもしれません。急落した半導体株のリバウンド上昇に沸く1週間になるかもしれません。
今週は24日(水)に米国の7月の製造業やサービス部門のPMI(購買担当者景気指数)、25日(木)には米国の2024年4-6月期の実質GDP(国内総生産)の速報値が発表に。
2024年1-3月期の確報値は個人消費が弱含んで下方修正されたため前期比年率換算で1.4%の伸びと低調でした。
しかし、今回は個人消費が多少持ち直すため、1.9%の伸びまで回復する予想です。
26日(金)には6月の米国個人消費支出の価格指数(PCEデフレーター)も発表。
米国の中央銀行に当たるFRB(連邦準備制度理事会)が最重要視する、変動の激しい食品・エネルギーを除いたコアPCEデフレーターは前年同月比2.5%増と前回5月より伸び率が鈍化する予想です。
米国では最近、物価鈍化を示す指標が相次いだことで9月の利下げが確実視され、2024年後半に3度の利下げを予想する声も上がっています。
26日発表の6月PCEデフレーターが予想通り、弱含めば、FRBの早期利下げに対する安心感が広がり、トランプ氏の言動でかく乱された株式市場が平静を取り戻すきっかけになるかもしれません。
トランプ氏の政策は減税や規制緩和、石油掘削や移民流入阻止のためのインフラ整備など、どちらかというと金融や製造業など重厚長大産業の株価にとって追い風です。
トランプ氏本人はドル安への為替誘導やインフレ沈静化を声高に叫んでいます。
しかし、中国に高額な追加関税を課したり、安価な労働力といえる移民流入を阻止したりしようとし、ただでさえ強すぎる雇用市場を圧迫するトランプ氏の政策は、米国の物価再上昇に直結し、金利上昇やドル高を招くリスクがあるのも事実。
矛盾に満ちたトランプ氏の過激な発言が政治リスクとなり、株式市場のけん引役である半導体株などを急落させるリスクは今後も残りそうです。
今週の米国では、IT企業だけでなく主要企業の決算が本格化。
23日(火)にはアルファベットやテスラの他にもコカ・コーラ(KO)やビザ(V)、24日(木)にはフォード・モーター(F)やIBM(IBM)、高金利政策でオフィスビル関連の不良債権増加が危惧される多くの地方銀行も決算発表します。
日本企業の2024年4-6月期決算も週後半から始動。
25日(木)には日産自動車(7201)やキヤノン(7751)、26日(金)には半導体洗浄装置大手で先週、株価が14.4%も急落したSCREENホールディングス(7735)やトランプ関連銘柄の一角でもある日立建機(6305)が決算を発表します。