先週の株式市場は日本株も米国株も史上最高値更新のオンパレードになりました。
7月4日(木)には、日経平均株価(225種)だけでなく、東証プライム市場を中心にした上場企業全体の値動きを反映したTOPIX(東証株価指数)も1989年12月18日に付けた最高値を34年半ぶりに更新しました。
歴史的な1日になりました。
5日(金)も取引時間中、そろって最高値を更新。終値は小反落したものの、日経平均は前週末比1,329円(3.4%)高の4万0,912円まで値上がりしました。
TOPIXは2,884.18ポイントまで2.7%高でした。
一方、米国では5日(金)に6月雇用統計が発表。非農業部門新規雇用者数が20.6万人増と市場予想より多かったものの、平均時給の伸びは前月比0.3%増と前月5月より伸びが鈍化。失業率が4.1%に上昇するなど、早期利下げの条件と言える米国の強すぎる雇用市場の鈍化が確認されました。
これを受け、機関投資家が運用指針にする米国のS&P500種指数の5日終値は前週末比1.95%も急伸。ハイテク株が集まるナスダック総合指数も3.5%上昇となり、そろって最高値を更新しました。
日米の株価急騰劇は6月27日(木)夜、11月5日の米国大統領選挙に向けて開かれた、民主党のバイデン現大統領と共和党候補のトランプ前大統領のテレビ討論会直後から始まっています。
この討論会では、高齢のバイデン現大統領が言葉に詰まるなど精彩に欠き、トランプ前大統領が今回の大統領選で勝利するのではないかという思惑が広がりました。
トランプ前大統領は中国からの輸入品に対してさらに高額な追加関税をかける強硬な政策を掲げています。「もしトラ(もしトランプ氏が大統領になったら)」が実現すれば、不動産バブル崩壊や個人消費の落ち込みで低迷する中国株にとって、さらなる大打撃です。
4月以降、割高な日本株を売って超割安な中国株に乗り換える動きが、日本株の上昇停滞につながってきました。
「もしトラ」実現なら中国株は買えないと判断した外国人投資家が大挙して日本株の買い戻しに動いたことが、今回の日本株上昇の一因になったようです。
まさに「トランプ相場」の先取りと言えるでしょう。
また、先週の上昇相場では日経平均先物をカラ売りしていた外国人投資家が損失確定の買い戻しを行う「ショートカバー(カラ売り玉の買い戻し)」が発生したともいわれています。
米国市場では、2日(火)のECB(欧州中央銀行)開催のフォーラムで、米国の中央銀行に当たるFRB(米連邦準備制度理事会)のパウエル議長が「ディスインフレ(物価高沈静化)の軌道に戻りつつある」と発言したことも相場の下支え役になりました。
週明け8日(月)の日経平均終値は前週末比131円安の4万0,780円でした。5日(金)の米国株上昇が好材料となり、午後に一時、取引時間中の最高値を更新する場面もありました。日経平均の値上がり幅がこの2週間ほどで2,000円を超え、高値警戒感から利益確定売りに押されました。
今週は、パウエルFRB議長の半期に1度の米国議会証言が9日(火)、10日(水)に開催されるなど、2024年の米国利下げの開始時期や回数に再び注目が集まりそうです。
11日(木)には米国の6月CPI(消費者物価指数)、12日(金)には6月PPI(卸売物価指数)も発表されます。
先週:日経平均、TOPIXがそろって最高値更新の快挙!トランプ相場を先取りし過ぎの面も?
先週は6月30日(日)のフランス下院第1回選挙で極右の国民連合が勝利したものの、7月7日(日)の第2回選挙では中道与党との選挙協力で左派連合が議席を伸ばし、第一党になりました。大幅賃上げを求める左派連合の勢いが増すことは、それはそれで株式市場にとってはネガティブです。
4日(木)のイギリス下院総選挙では労働党が単独過半数を獲得し、14年ぶりに保守党からの政権交代が実現。現実的な親EU(欧州連合)路線を掲げる労働党党首のスターマー氏が新首相に就任したため、欧州の金融市場にはむしろ追い風と言えるでしょう。
6月27日(木)の討論会の失態で、トランプ前大統領に支持率で差をつけられたバイデン現大統領は「私は去らない」と選挙からの撤退を完全否定しています。しかし、カマラ・ハリス副大統領への候補者交代が取りざたされるなど、米国大統領選の行方は今後も株式市場に影響を与えそうです。
日本株に関しては、上昇相場の主役に変化が見られました。
週間の業種別上昇率ランキングでは、イスラム過激派の攻撃で紅海航行の混乱が続いていることやコンテナ船運賃の高騰を好感して、典型的な割安株と言える海運株が上昇率トップに浮上。
海運大手3社の一角、川崎汽船(9107)が前週末比15.4%高と急上昇しました。
7月に日本銀行が利上げを行うのではないかという観測が台頭していることから、金利上昇が収益増加につながる銀行株も今回の上昇相場の主役に君臨しています。
主力の三菱UFJフィナンシャル・ホールディングス(8306)は先々週の11.8%高に続いて、先週も5.1%上昇しました。
また小売セクターに属する百貨店株が大にぎわい。
インバウンド(訪日外国人)や富裕層の高額消費で潤う高島屋(8233)が28日(金)に今期2025年2月期の経常利益の通期見通しを早くも9%上方修正。株価は週間で前週比9.1%も上昇しました。
絶好調が続く米国株では、電気自動車メーカーのテスラ(TSLA)が27.1%も上昇。「マグニフィセント7」といわれる巨大IT企業の中でも業績悪化で株価の低迷が続いていた出遅れ株の見直し買いが米国株の史上最高値更新に貢献しました。
先週は米国の景気・雇用指標も多数発表。
7月1日(月)に公表されたISM(全米供給管理協会)6月製造業景況指数は3カ月連続で好不況の境目となる50を下回りました。3日(水)の6月ISM非製造業景況指数も50を下回り、4年ぶりの低水準に。
同じく3日発表の給与計算代行会社ADP(オートマチック・データ・プロセッシング)社の6月民間雇用者数も前月比15万人増と予想以下でした。
予想とほぼ同じだった5日(金)発表の6月雇用統計も含め、米国の景気・雇用が緩やかに弱含んでいることが、景気のソフトランディング(軟着陸)期待に火をつけました。
今週:米国物価指標鈍化で上昇パターンの再来に期待!為替介入の警戒感を払拭して続騰?
今週は米国FRBのパウエル議長が9日(火)に米国議会上院、10日(水)に下院で議会証言を行います。
民主党、共和党ともにFRBの高金利政策に対する不満が高まっているため、参加議員の突き上げに対して、パウエル議長がどの程度、2024年中の早期利下げや利下げ回数の上乗せに寛容な姿勢を示すかに注目が集まるでしょう。
11日(木)の米国6月CPIは前年同月比3.1%増まで伸びが鈍化する予想となっています。
12日(金)には6月PPIの他に、7月のミシガン大学消費者信頼感指数の速報値も発表に。同指標では、消費者が抱く1年先、5年先のインフレ期待値も発表されます。
最近は、物価高の鈍化が鮮明な物価指標が発表されたあと、株価が勢いよく上昇するパターンが頻出しており、今回もその再来に期待したいところです。
日本では今週、流通・小売セクターに多い2月期決算企業の2025年2月期第1四半期(2024年3-5月期)決算の発表が集中します。
10日(水)には吉野家ホールディングス(9861)、11日(木)には日経平均株価の値動きに多大な影響を与えるファーストリテイリング(9983)、12日(金)には物価高で安価なPB(プライベートブランド)商品の販売が好調なイオン(8267)などが決算発表。
また、7月末から8月上旬に控える2025年3月期企業の第1四半期(2024年4-6月期)決算を前にして、業績の上方修正を発表する企業も出てくるでしょう。
先述の高島屋のように、2025年2-3月期が決算期末の企業が第1四半期時点で通期見通しを早々に上方修正するのは、業績がとても良い証拠で、株式市場全体を明るくする好材料になるでしょう。
5日(金)のニューヨーク為替市場は1ドル=160円70銭台と小幅な円高で終わりました。
今週9日(火)、10日(水)には今後の金融正常化のために国債買い入れをどの程度、減額するかを具体化するための債券市場参加者会合が開催されるため、その前に為替介入には動きづらい面もありそうです。
また、政府は為替介入の根拠を「過度で投機的な相場急変動」としており、現状のじりじりした小幅な円安トレンドではまだ介入に踏み切れないのかもしれません。
ただ、今週も引き続き為替介入に警戒が必要でしょう。
今回の上昇相場には際立った好材料や確たる大義名分がない面もあります。先週の歴史的な日本の株価指数の上昇が今後も続くか、一過性に終わるか、今週はその真価が試される1週間になりそうです。