私は26歳だった1987年に、投資顧問会社で、日本株ファンドマネジャー兼アナリストとなりました。その時、アナリストとして最初に担当したのが半導体産業でした。その後いろいろな業種を調査してきましたが、半導体業界について常に考え続けてきました。
今日は、半導体関連株への投資を考える時、知っていた方が良いと私が思う三つのポイントについて解説します。
【1】半導体産業は成長産業
【2】好不況の波が大きい(「シリコン・サイクル」といわれる)
【3】半導体関連株はシリコン・サイクルを1年近く先取りして動く傾向がある
半導体は成長産業だが、好不況の波が大きい
半導体産業は、グローバルな成長産業です。ただし、安定成長する産業ではありません。「シリコン・サイクル」といわれる「ブームと不況」を繰り返しながら、成長しています。だから、半導体関連株への投資は面白く、かつ難しいのです。
【1】半導体への需要拡大続く
半導体産業は、成長産業です。IT革命→インターネット革命→生成AI革命と、呼び名は変わり続けています。人類の情報処理技術は急ピッチで進化を遂げていますが、そのインフラ構築に不可欠な基幹部品が「半導体」なので、その需要は拡大し続けています。
半導体の能力は、幾何級数的に拡大しています。つまり、前に数倍する勢いで増大・変化し続けます。半導体回路の線幅は、どんどん縮小して、最先端では3ナノ(1ナノメートル=10億分の1メートル)を切る開発競争となっています。
トランジスタ、ダイオード、抵抗器、コンデンサーなどの電子部品を小さなチップ上に集約する「集積化」も進み、半導体素子(電気信号を増幅・変換・制御する電子回路)から、IC(集積回路:さまざまな種類の半導体素子を一つのシリコン半導体基板の上に集めた部品)、GPU(画像処理装置:主にグラフィックスの処理装置)に進化しています。
エヌビディアの最新GPUは、かつてのスーパーコンピュータ並みの高い能力があります。これからも需要拡大に伴い、最先端の半導体は進化を続けると考えられます。
【2】半導体産業は好不況の波が大きい
半導体産業は、1980年代以降、ブームと不況を繰り返してきました。なぜ、そのようなサイクルが起こるか、かつて半導体産業の中核を占めていた「半導体メモリ」を例にとって説明します。
1980年代の半導体の用途は、PC向けがほとんどでした。PCの頭脳となるCPU(MPU)と、データを記憶保持する「DRAM」や「フラッシュメモリ」という半導体メモリが重要な役割を果たしていました。
CPUでは米国のインテル(INTC)が圧倒的に強く、独壇場でしたが、半導体メモリでは、東芝・日立製作所(6501)・NEC(日本電気:6701)など日本メーカーが激しい競争を繰り広げていました。その激しい競争が、シリコン・サイクルを作りました。
CPUもDRAMも、3~4年ごとに世代交代してきました。新世代になるたびに、PCの性能が拡大し、新たな需要を掘り起こしてきました。
DRAMは、世代交代するたびに、能力が4倍に拡大していきました。世代交代するたびに、トップメーカーが入れ替わることもありました。誰もがトップメーカーになろうとして競争するために、供給不足と供給過剰を繰り返すことになりました。
新世代DRAMは、開発当初、旧世代品の4倍以上の値段がつきます。どのメーカーも、価格の高いDRAMを誰よりも早く量産したいと思いますが、技術的に難しく、歩留り(良品比率)がなかなか上がりません。そのうちに、1社が量産に成功すると、その会社は値段の高いDRAMを大量に生産して、莫大(ばくだい)な利益を上げます。
そのうち他社も歩留りが上がり始めます。そうなると、新世代DRAMの価格は急速に下がり始めます。量産に遅れた会社は、価格が大幅に下がってからの販売になるので、開発にかかったコストをほとんど回収できなくなります。
このように世代交代を繰り返すたびに、どの企業がトップになるかを巡って、熾烈な競争が行われます。各企業が新世代でトップになろうとして過剰な投資を行います。各社の歩留まりが低いうちは、半導体の価格が高いのでブームが続きますが、各社の歩留まりが一斉に上昇した時に、半導体は供給過剰となり、価格が急落します。そこで、半導体産業は、不況に転落します。
以上が、1980年代のシリコン・サイクルの仕組みです。今は、半導体の種類も用途も格段に広がり、半導体メモリは、半導体産業の中心ではなくなりました。好不況の波がない、安定成長する半導体分野も増え、かつてほど激しい山谷はなくなりました。
そうした環境変化を受けて、「半導体スーパーサイクル説」(半導体産業はもはや不況に陥ることなく永続的に成長していく産業になった、という説)が時々出てきます。
それでもシリコン・サイクルはなくなりません。今でも、最先端の半導体で、供給不足と供給過剰の波は、どうしても起こります。「半導体スーパーサイクル説」が語られるようになる時は、往々にして半導体ブームのピークで、その後、半導体産業はしっかり下り坂に入る、ということもあります。