今週の日本株は2024年の半分が終わる6月最終週ということもあり、需給の面からも上値が重くなりそうです。

 理由の一つは、TOPIX(東証株価指数)や日経平均株価(225種)の値動きに連動するインデックス型ETF(上場投資信託)の分配金の支払基準日(決算期)が7月上旬に集中していること。分配金捻出のための売りは総計すると1兆円を超えるといわれています。

 例えば、日本の中央銀行にあたる日本銀行も大量保有する「NEXT FUNDS TOPIX連動型上場投信」(1306)は6月21日(金)時点の純資産総額が23.2兆円に達していますが、年1回の分配金の支払基準日が7月10日(水)に設定されています。

 また海外では政治がらみの重要イベントが控えており、27日(木)には11月5日に実施される米国大統領選挙を戦う民主党のバイデン現大統領と共和党候補のトランプ前大統領による初のテレビ討論会が開催されます。

 週末30日(日)にはフランスの下院選の第1回投票、来週7月4日(木)には英国でも総選挙が行われます。

 フランス第1回下院選では政治的混乱につながりかねない極右政党が勝利する予想が大勢を占め、英国総選挙でも与党・保守党が労働党に大敗し、現職のスナク首相が議席を失う可能性も取りざたされています。

 欧州の政治的な混乱で欧州株や欧州通貨のユーロが急落し、絶好調の米国株や上昇が停滞気味の日本株に悪影響を及ぼす恐れも高いでしょう。

 28日(金)には、米国の5月個人消費支出の価格指数(PCEデフレーター)も発表。

 特に、変動の激しい食品とエネルギーを除いたコアPCEデフレーターは米国の中央銀行に当たるFRB(連邦準備制度理事会)が最重要視する物価指標です。

 5月の伸び率が市場予想の前年同月比2.6%を下回れば、FRBによる利下げへの期待が高まり、米国株の上昇モードに拍車がかかりそうです。

 先週の日経平均の21日(金)終値は、前週末比218円(0.6%)安の3万8,596円で終了。

 大型株が取引される東証プライム市場では20日(木)の売買代金が3兆1,756億円で今年の最低金額になるなど、売買高が低調な「薄商い」が続いています。

 ひとえに外国人投資家の日本株に対する関心が薄れ、上値が重くなっている証拠といえるでしょう。

 一方、米国株は機関投資家が運用指針にするS&P500種指数が前週比0.61%高。18日(火)に再び史上最高値を更新するなど絶好調です。

 その強力なけん引役になっているAI(人工知能)向け高速半導体メーカーのエヌビディア(NVDA)は18日に時価総額が約3.3兆ドル(約527兆円)に到達。

 マイクロソフト(MSFT)を抜いて一時、時価総額世界一になるなど相変わらず「独り勝ち」が続いています。

 ただ、さすがに上昇し過ぎたのか、20日(木)と21日(金)の2日間にわたって連日3%以上下落。週間でも前週比4.03%安と実に9週ぶりに下落するなど、破竹の急騰は小休止。

 21日(金)のニューヨーク外国為替市場では、FRBが利下げを急がないという観測から、1ドル=159円80銭台まで円安が進行。

 週明け24日(金)の日経平均終値は前週末比208円高の3万8,804円でした。取引開始直後に半導体株が米ハイテク株安から弱含みとなり、下落幅が180円まで広がりました。しかし、1ドル=160円に迫る円安進行で自動車など輸出関連銘柄が買われ、半導体関連の一角も切り返し、一時300円以上値上がりしました。中外製薬(4519)武田薬品工業(4502)など医薬品株も堅調でした。

先週:TOPIX下落!日本の高配当株や割安株が弱い理由、米国景気はまだら模様

 先週は週の後半にかけて米国株の上昇が一服したこともあり、米国株に比べて上値が重い日本株はさらに弱い展開となりました。

 重厚長大産業の大型株の影響力が強いTOPIX(東証株価指数)の21日(金)終値は前週末比0.8%安と、日経平均の前週末比0.6%安よりも下落率が大きくなりました。

 6月に入ってからも、21日終値時点で日経平均が前月末比0.3%高と辛うじてプラスで踏み止まっているのに対して、TOPIXは前月末比1.7%安と大きく下落しています。

 この差は、TOPIXに与える影響力が強いトヨタ自動車(7203)が前月末比9.6%も急落するなど、車両認証の不正問題の発覚で自動車株が大きく下落した影響も大きいでしょう。

 また、通信最大手のNTT(9432)が4.7%安、メガバンクの三菱UFJフィナンシャル・グループ(8306)が不祥事も響いて6.7%安、株主還元策の材料が出尽くした感のある三菱商事(8058)が7.8%安となるなど、配当利回りが3%を超える高配当大型株が大きく下げたことも一因でしょう。

 高配当株は、物価高が続き中央銀行が高金利政策を継続している時期は株価が割高な成長株に比べて相対的に魅力が増すため、資金が流れ込みやすい状況でした。

 しかし、米国では6月発表の物価指標の上昇率が鈍化傾向を示して9月利下げの可能性が高まっているため、AI(人工知能)関連など金利低下が追い風になるハイテク株への資金シフトが起こっています。

 それが割安高配当株の宝庫だった日本株の魅力低下につながっているようです。

 実際、先週20日(木)発表の6月第2週(10~14日)の投資部門別売買動向でも外国人投資家は日本の現物株を4週連続で売り越し。売り越し額は2,494億円でした。

 先週の業種別騰落率ランキングでも、石油・石炭製品、電気・ガス業、海運業、卸売業など比較的、配当利回りの高い割安株が多いセクターが下位に沈みました。

 先週の米国経済指標では18日(火)発表の5月小売売上高が前月比0.1%増と予想を下回り、物価高と高金利で米国の家計が苦しくなってきている状況が明らかになりました。

 しかし、21日(金)発表のPMI(購買担当者指数)は製造業・サービス部門ともに予想を上回る強さを示すなど、景気に過熱感がある指標も発表され、強弱まちまちの結果に。

 米国経済がソフトランディング(軟着陸)して市場の期待通り9月から利下げが始まるのか、それともノーランディング(好景気)が続き利下げが先延ばしになるのかは依然不透明です。

 そのため、米国市場のけん引役だったナスダック総合指数は前週比ほぼ横ばいで、上昇が小休止しています。

今週:バイデンvsトランプ論戦、週末のフランス総選挙を警戒して上値の重い展開!?

 今週から来週にかけては、久しぶりに政治が株式市場を揺さぶりそうです。

 27日(木)には、2024年米国大統領選に向けた初のテレビ討論会が開催予定。

 現職の民主党・バイデン大統領と共和党候補のトランプ前大統領が激しい論戦の火ぶたを切ることで、絶好調の米国株は否が応でも大きな影響を受けそうです。

 半導体や再生エネルギーなどへの巨額の政府支援や富裕層に対する課税強化を公約に掲げるバイデン大統領。

 一方のトランプ前大統領は新たな個人・法人減税や米国への全輸入品に対して10%以上の関税をかける政策などを実行すると述べています。

 最初の討論会ということもあり、両陣営とも国民そして株式市場から支持を得られるような景気対策を口にする可能性が高いため、米国株にとってポジティブかもしれません。

 ただし、高額関税の実施などトランプ氏が新たに過激な政策を発表することで、「もしトラ(もしもトランプが大統領になったら)」リスクが改めて台頭する恐れもあります。

 週末の30日(日)には、フランスで下院議会選挙の第1回投票が実施されます。

 マクロン大統領率いる中道派の与党が大敗し、決選投票となる7月7日(日)の第2回投票前に脱落する与党候補も多く出る可能性も高く、EU(欧州連合)に懐疑的な立場の極右の国民連合か、大幅賃上げ要求を掲げ株式市場にとってネガティブな左派連合のいずれかが議会第一党になる見通しです。

 欧州の政治に対する不安が台頭した17日(月)には日経平均が前週末比712円も下落しているだけに、今週末30日(日)の選挙日以降は世界的な株価乱高下に注意が必要でしょう。

 AIブームを好感して、2023年末から株価が57.1%高(21日時点)となっているソフトバンクグループ(9984)の孫正義会長兼社長は、先週21日(金)の株主総会で、人類の1万倍の英知を持つASI(人工超知能)が10年以内に生まれると高らかに宣言しました。

 そう考えると、米国の物価鈍化にともなう楽観的な利下げ期待を背景に、エヌビディアをけん引役としたAIバブルはまだまだ続きそうです。

 バブルはいずれ崩壊するものの、いつバブルが弾けるかは誰も分からない。これもまたバブルの本質です。

 ただ、エヌビディアなどAI関連株が急落すれば、躍進の続いた米国株も調整せざるを得ず、米国株以上に弱い日本株がさらに大きく下落しても不思議ではないでしょう。

 政治リスクの台頭がAIバブル崩壊のきっかけになる可能性はゼロではないため、今週以降は米国、欧州の政治情勢を注意深く見守りましょう。