進む米ドル離れ

 実は、ここ数カ月、BRICSやASEAN、中東を中心に急速にドル離れが進んでいる。米ドルが基軸通貨であるということは、米国のメリットであると同時に、世界の公共財を提供する責務も負っている。しかし、ここ数年の米国は、自国の利益や国内の党派争いのために米ドルを利用し過ぎた。その代表例がドル決済の制裁利用や債務上限にかかる瀬戸際戦略だ。

「米国の金融制裁の実施がドルの国際的覇権を弱体化させつつある」とはイエレン財務長官の発言だ。こうして愛想をつかした人々が米ドルに代わるものを模索し始めている。そうした中で、BTCもその役割の一部を担いつつあり、これが次のBTCブームのメインエンジンとなりそうだ。

景気は減速

米ISM製造業・政策金利・非農業部門雇用者数・CPI

出典:Bloombergより楽天ウォレット作成

 金融政策を見ると、FRB(米連邦準備制度理事会)は7月に予想通り25bp利上げ、明言は避けているが利上げのペースを2会合に1回にペースダウンした。このペースで言えば次は11月となり、市場は3割程度織り込んでいる。

 一方で、7月のISM製造業、雇用統計、CPI(消費者物価指数)はいずれもインフレ鎮静化を示唆するものであった。市場ではこれを受けて、インフレを抑制しつつ、景気の後退を避ける、バラ色のシナリオが浮上している。

米大中企業向けローン基準を厳格化した銀行の割合(FRB調査)

出典:Bloombergより楽天ウォレット作成

 ただ、経験的に、人類が景気循環を克服しただの、ニューエコノミーだの、ゴルディロックスだの言い始めると早晩クラッシュが到来しがちだ。ゴルディロックスの検索数は2007年と2018年に増加したが、リーマンショックとコロナショックで終焉(しゅうえん)した。

 問題はいつ景気後退が来るかだが、FRBは第2四半期の融資担当者調査で貸出審査を厳しくした割合が5割を超えたとした。直近で5割を超えたのは2001年1月、2008年4月、2020年7月といずれも景気後退期と重なっている。

 銀行が融資を絞った結果、景気が後退したのか、景気悪化を先取りして審査を厳しくしているのか、両方だと思われるが、いずれにせよコロナショックが人類が経験する最後の景気後退でない限り、いずれリセッションは到来するし、既に米2-10年国債金利が逆転して1年経過したが、サンフランシスコ連邦準備銀行の調査によれば第2次大戦後、9割以上の確率でこの逆イールドが発生してから6カ月から2年以内にリセッションが到来している。

 ただ、景気後退はそれが来るまでいつ来るかが分からないのが問題で、そうした動きが実際の指標で確認されるのはもう少し後かもしれない。

暗号資産を巡る米政界の三つ巴の対立

 ブラックロックらが申請しているETFの行方や暗号資産に強硬姿勢を見せるSECと業界の争いも長期戦の様相だ。SECは7月13日ブラックロックらのBTC現物ETFの申請を受理、19日に官報に掲載された。一応、審査の期限は45日とされているが、最大で210日まで延長可能だ。

 官報掲載日を起点とすれば最初の期限が9月2日、最終期限が2024年3月30日となる。SECはコインベースに対しBTC以外の暗号資産全てを上場廃止するように迫っていたもようで、XRPを証券に該当しないとした判決にも不服を持っている様子。

 一方、共和党のデサンティス・フロリダ知事はバイデン政権の暗号資産に対する「戦争」を終わらせることを公約に掲げ、マクヘンリー議員などは暗号資産を定義・規制する法案を下院で通過させた。

 このように、暗号資産の取り扱いは、民主党VS共和党ないし民主党左派VS民主党中道派といった高度に政治的な問題となりつつあり、ゲンスラー委員長などはEウォーレン議員など民主党左派を後ろ盾にしているといわれている。その結果、来年11月の選挙まではこうした対立に決着がつかず、暗号資産をどう取り扱うかも宙に浮いてしまう可能性がある。 

 このように、ドル離れの動きや金融引き締めの終焉がBTC相場を下支えしそうだが、新値水準は戻り売り圧力が強く、本格的に上昇するにはまだ時間がかかりそうだ。