民間経済を重視する李強首相。経済政策を習近平から権限譲渡

 2023年を通じて中国経済が回復していくかを占う上で、成長を促すためのマクロ政策をどれだけ打ち出すかも重要ですが、日本や欧米の機関投資家などがより注目しているのは、景気の下振れ圧力となるようなネガティブな政策を出さないこと、だと思います。一時期、教育やIT(情報技術)業界に科した規制強化策などがその典型例です。

 この問題を考える上で、私が注目する最近の動向が、4月21日に行われた第20期中央改革深化委員会(主任:習近平総書記;副主任:李強首相、王滬寧全国政治協商会議主席、蔡奇中央書記処書記)第一回会議で採択された、「民営経済の壮大な発展を促進させるための意見」です。この公文書は、次のようにうたっています。

「民営経済の発展を支持するのは党中央の一貫した方針」

「民営経済の壮大な発展を促進するために、民営経済の発展環境を最適化する」

「民間企業の公平な市場競争への参加の制約になっている制度的障害を取り除く」

 まさに民間企業、民間経済への依存度が高い浙江省で長年経済に携わってきた李強氏が、「民営経済の壮大な発展」が経済成長、国民生活にとっていかに重要かを肌で感じてきたのは想像に難くありません。首相、すなわち国民経済の統括者となった李強氏は、習近平総書記を後ろ盾に、自らの地方での経験を国レベルで実践していく姿勢と気概を持っているように現時点では見受けられます。

 そしてより重要なのは、習氏は浙江省で部下だった李氏のことを心底信頼しており、故に、少なくとも経済政策の権限を譲渡し、極力介入や干渉は避ける可能性が高いことです。「私は君を信頼している。好きにやってくれ」という雰囲気が、経済政策を巡る習近平、李強両氏の間には流れているのではないかと推察しています。

 そしてこの点は、中国の経済成長や構造改革にとって有利に働くというのが私の見方です。

「成長」と「改革」は、中国経済を持続的に発展させるための両輪といえますが、本稿で検証してきた1-3月期の各経済統計結果を含め、習近平第3次政権本格始動から一カ月の動向を見る限り、経済面のスタートダッシュはまずまずといったところだと思います。