中国実質GDP1-3月、堅調なスタート
中国の2022年の実質GDP(国内総生産)は、前年比5.5%前後という目標を掲げながら、3.0%増という結果に終わりました。その最大の原因は、新型コロナウイルスの感染拡大を徹底的に抑え込もうとする「ゼロコロナ」策、特に上海などでとられたロックダウン(都市封鎖)が、サプライチェーン(供給網)や個人消費、投資、物流、貿易といった経済活動に与えた打撃でした。だからこそ、ゼロコロナ策が解除される中で迎えた2023年1-3月期の経済情勢には平時以上の注目が集まったといえます。
中国の欧米発の金融不安への対応を扱った先週のレポートでも言及しましたが、中国国家統計局が4月18日に発表した2023年1-3月期のGDPは、前年同期比4.5%増と、市場予想の4.0%を上回りました。
中国政府が3月の全人代で掲げた2023年の成長率目標は前年比5.0%前後ですから、「なんだ、目標以下ではないか」というツッコミが入りそうですが、四半期の実績でみると堅調なスタートとみることができます。
一方、2023年4-6月期においては、前年同期の伸びが0.4%増と通年で最も低迷したため、反動でどれだけ大きく伸ばせるかに注目が集まります。
実際に、1-3月期の成長率が発表される前後、以下の図表に整理したように、大手金融機関は軒並み中国経済の成長見通しを上方修正しています。欧米発の金融不安などを背景に、世界経済の見通しが下方修正される中(IMF[国際通貨基金]は2.8%と予測)、欧米の金融機関は、昨年世界経済にとっての「トラブルメーカー」と化した中国経済への期待を高めているのが現状のようです。
修正前 | 修正後 | |
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JPモルガン | 6.0% | 6.4% |
シティグループ | 5.7% | 6.1% |
BofAグローバル・リサーチ | 5.5% | 6.3% |
ゴールドマンサックス | 5.5% | 6.0% |
UBS | 5.4% | 5.7% |
回復基調にある消費、不安が残る雇用、不動産市場は?
ここからは、同じく4月18日に発表された、1-3月期の主要経済指標を見ていきましょう。一覧表に整理してみました。
2023年1-3月 | 2022年10-12月 | |
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GDP実質成長率 | 4.5% | 2.9% |
工業生産 | 3.0% | 2.7% |
小売売上高 | 5.8% | ▲2.7% |
固定資産投資 | 5.1% | 5.1%(2022年通年) |
不動産開発投資 | ▲5.8% | ▲10.0%(2022年通年) |
住宅販売面積 | ▲1.8% | ▲24.3%(2022年通年) |
住宅販売売上高 | ▲4.1% | ▲26.7%(2022年通年) |
貿易 | 4.8%(輸出8.4%:輸入0.2%) | 0.6%(輸出▲0.5%:輸入2.2%、2022年12月) |
失業率(除く農村部) | 5.5% | 5.6% |
失業率16~24歳 | 19.6%(3月) | 16.7%(2022年12月) |
投資や製造業はまだ弱い感じですが、個人消費には明らかな回復が見られ、昨年歴史的に低迷した不動産関連の指標にも好転の兆しが見受けられます。
一方、特に若年層における雇用には不安要素があり、需要不足という構造的問題も解決とはいえないのが現状だと思います。これらの数値と同時に、国家統計局は次のコメントを発表しています。
「第1四半期は新型コロナウイルスの感染拡大が収まり、平穏な状況に転換していくに伴い、成長、雇用、物価を巡る安定化政策が功を奏し、前向きな要素が蓄積、増加していった。国民経済は安定的に回復しており、2023年の開局は良好である。ただ、国際環境は複雑で流動的である。内需における不足や制約も顕著であり、経済回復に向けた基礎は強固ではない」
「コロナフリー」下における中国経済の回復に期待を高ぶらせる欧米の大手金融機関と比べて、中国政府は現状と先行きを楽観視していないスタンスが垣間見られます。これらの統計発表後、私が意見交換を行った中国政府の関係者も「5.0%という成長目標の達成は容易ではない。昨年の教訓もある。不動産市場がどこまで活気づくか。中国の消費者マインドが前向きになるか。欧米の景気後退が中国経済にどこまで波及するかなど、国内外における不確定要素は山積している」との見方を示していました。
民間経済を重視する李強首相。経済政策を習近平から権限譲渡
2023年を通じて中国経済が回復していくかを占う上で、成長を促すためのマクロ政策をどれだけ打ち出すかも重要ですが、日本や欧米の機関投資家などがより注目しているのは、景気の下振れ圧力となるようなネガティブな政策を出さないこと、だと思います。一時期、教育やIT(情報技術)業界に科した規制強化策などがその典型例です。
この問題を考える上で、私が注目する最近の動向が、4月21日に行われた第20期中央改革深化委員会(主任:習近平総書記;副主任:李強首相、王滬寧全国政治協商会議主席、蔡奇中央書記処書記)第一回会議で採択された、「民営経済の壮大な発展を促進させるための意見」です。この公文書は、次のようにうたっています。
「民営経済の発展を支持するのは党中央の一貫した方針」
「民営経済の壮大な発展を促進するために、民営経済の発展環境を最適化する」
「民間企業の公平な市場競争への参加の制約になっている制度的障害を取り除く」
まさに民間企業、民間経済への依存度が高い浙江省で長年経済に携わってきた李強氏が、「民営経済の壮大な発展」が経済成長、国民生活にとっていかに重要かを肌で感じてきたのは想像に難くありません。首相、すなわち国民経済の統括者となった李強氏は、習近平総書記を後ろ盾に、自らの地方での経験を国レベルで実践していく姿勢と気概を持っているように現時点では見受けられます。
そしてより重要なのは、習氏は浙江省で部下だった李氏のことを心底信頼しており、故に、少なくとも経済政策の権限を譲渡し、極力介入や干渉は避ける可能性が高いことです。「私は君を信頼している。好きにやってくれ」という雰囲気が、経済政策を巡る習近平、李強両氏の間には流れているのではないかと推察しています。
そしてこの点は、中国の経済成長や構造改革にとって有利に働くというのが私の見方です。
「成長」と「改革」は、中国経済を持続的に発展させるための両輪といえますが、本稿で検証してきた1-3月期の各経済統計結果を含め、習近平第3次政権本格始動から一カ月の動向を見る限り、経済面のスタートダッシュはまずまずといったところだと思います。
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