対中依存度を利用、透ける中国の野心

キーワード4:依存度とデカップリング

 鄧氏の言葉を借りれば、誰もが持っているわけではない石油という戦略的資源を外交カードとしてレバレッジし、地政学を自国有利に展開し、国益の拡大につなげている中東に学び、遅ればせながら、中国もレアアースという戦略的資源を外交カードとしてレバレッジすべき。これが習氏率いる共産党指導部の政治的意思だと言えるでしょう。

 近年、米国、欧州、日本はそれぞれの需要と立場から、レアアースの対中依存度を下げるべく自助努力をしてきていますが、レアアース磁石技術の禁輸は、産業界、企業活動にとっては小さくない打撃となるのは必至です。例として、2014~2017年、米国が輸入したレアアースの約8割が中国からだったという統計があります。EU(欧州連合)も、レアアースの98%を中国に頼っています。

 米国が対中デカップリング(切り離し)をもくろむ一方、中国との経済関係を切り離すことは不可能と考えるEU諸国の多くは「デリスキング」(リスク低減)を唱えています。いずれにせよ、資源、市場、サプライチェーン(供給網)を含め、対中依存度を減らす方向で、(程度や速度の差はあれ)欧米は動いていますし、日本も半導体の分野などを中心に進めています。

 一方、上記の資源ナショナリズムにも関係しますが、「そっちがそう来るなら、こっちも行かせてもらう」という観点から、中国も、欧米日の対中依存度が極端に高く、かつ環境対策や産業保護の観点からも規制の必要に迫られているレアアースの禁輸に踏み切ったという流れです。そこには、「やれるものならやってみろ」という大国としての野心が作用しているようにも思われます。

キーワード5:武器化

 レアアースという戦略的資源を外交カードとしてレバレッジする、というのは、比較が若干極端ですが、3月下旬、日本のアステラス製薬社の現地法人幹部がスパイ容疑で中国当局に拘束された事件に反映される「人質外交」をほうふつとさせます。

 2010年9月、尖閣諸島沖で中国漁船が海上保安庁の船に衝突し、中国人船長が逮捕される(のち釈放)という事件がありました。当時、中国は報復措置の一環として、レアアースの対日輸出を全面的に停止し、日本政府や産業界の度肝を抜きました。そこには、レアアースという資源を「武器化」し、状況次第では「人質」を用意する形で、相手国に圧力をかけ、自国の政治的、外交的目的を達成するという立場、方策が見て取れるのです。

 今回中国政府が禁輸に踏み切ろうとしているのは、精製までの技術までで、レアアースを用いた磁石も含めた製品は対象にならない見込みです。要するに、一定の抜け道をあえて残しておくことで、対外的な交渉材料にしようという意図が作用しているのでしょう。

 今後、レアアースを武器に、輸出してほしいならXXをよこせ、してくれという外交的攻勢が中国側からかけられる局面は想像に難くないと言えます。その時、日本はどうするか。

キーワード6:米中対立

「中国のレアアースで製造した商品を使って、中国の発展を抑え込もうとする国家、やり方には断固反対する」

 トランプ政権の末期、米中貿易戦争が本格化した頃から、中国政府関係者から頻繁に聞かれるようになった言葉です。

 米国の軍事力を構成する戦闘機や衛星、レーダー、ミサイルなどは、中国のレアアースなしには造れない。レイセオン・テクノロジーズ、ロッキード・マーティンといった軍事企業は、中国のレアアースなしではやっていけない。そして、これらの軍事技術や企業は、米国政府が中国の発展を封じ込めるために使われている。そうであれば、レアアースを米国に輸出しなければいい。

 これが中国政府の戦略的立場であり、資源ナショナリズムに刺激される中国の関連企業や一般民衆も、それに賛同しているというのが私の見方です。今回のレアアース禁輸は、特定の国や地域を対象としたものにはならない見込み(実践の過程で差別化される可能性は大いにあり)ですが、米国に対する不信感と警戒心が強く影響していると見るべきでしょう。