キーワードで読み解く:禁輸の意図はどこにあるのか?

 ここからは、中国がレアアース磁石技術の禁輸に踏み切る「意図」に焦点を当てつつ、キーワードからそれらを読み解いていきたいと思います。何かと波紋を呼ぶことの多い中国の政策や言動の背後にある意図を解析することは、より正確で客観的な中国理解につながるというのが私の基本的考えです。

キーワード1:国家戦略

 2021年1月、中国工業情報化部が「レアアース管理条例」(意見公募版)を発表しましたが、立法の必要性に関して、同部は次のように説明しています。

「まずは国益と産業安全を切実に守ることが挙げられる。レアアースは重要な戦略的資源であり、再生不可能な資源である。我が国はレアアース大国であり、レアアースの生産や利用といった分野で重要な地位にある」

 そして、立法に向けた考え方として次の点を真っ先に挙げます。

「(レアアースという希少資源の)保護を最優先に据える。レアアースは伝統的産業の改造、新興産業の発展、国防科学技術の進歩に代替不可能な重要な意義を有している。故に、特別に保護しなければならず、レアアースの採掘、精錬、分離プロセスに対して行政許可とプロジェクト審査を実施する」

 中国政府が経済成長、技術革新、軍事力増強、産業保護などを含めた複合的見地から、レアアースという希少資源の管理を国家戦略の高みに据えている経緯と現状が見て取れます。

キーワード2:環境対策

 習近平氏が2012年に党総書記に就任して以来、中国は環境政策やグリーン経済を国家戦略の観点から推し進めようとしています。EVや電気モーターがガソリンエンジンを補助するPHV(プラグインハイブリッド車)など、次世代エネルギーを使った自動車が新車の販売に占める割合を2025年までに25%に上げる、2060年までにカーボンニュートラル(温暖化ガスの排出量実質ゼロ)を実現するといった政策目標は、市場動向や企業活動にも切実なインパクトを与えてきました。

 2021年3月1日、国務院新聞弁公室が主催した記者会見の場で、工業情報化部の肖亜慶部長は次のように語っています。

「レアアースを生産する企業には確かに多くの環境問題が生じており、地元住民の不満も非常に強烈である。レアアース市場の需要が旺盛なため、大量かつ無秩序に採掘、精錬されてきたが、資源の浪費という結果を生んでしまった」

 レアアースの生産量を規制し、かつ輸出禁止にまで踏み切る背景には、環境対策という側面も少なからずあるということでしょう。

キーワード3:資源ナショナリズム

 そして、上記の環境対策と表裏一体の関係にあると私が分析するのが、民族主義、すなわちナショナリズムという要素です。レアアースという分野を考えれば、「資源ナショナリズム」という解釈も可能と思います。

 レアアースは中国語で「稀土」(Xitu)と言います。文字通り、「稀有(けう)な資源」という意味です。この表記を比喩しつつ、前出の肖部長は次のようにも指摘しています。

「中国はレアアース大国で、資源量は最も多いが、輸出も最も多い。実際のところ、中国の稀土で売っているのは『土』の価格だけで、『稀』の部分に付加価値を付けられていない。悪性な競争によって価格が抑えられ、この貴重な資源が浪費されてしまっているのだ」

 この発言には、中国の政府、企業関係者らに蓄積してきた不満が詰まっています。そもそも希少資源であるレアアースを後先考えずに大量に採掘、精錬し、国内の環境問題は悪化、一方で日本を含めた海外勢はそんな中国から輸入したレアアースに付加価値を見いだし、ぼろもうけしている、「そんなことが許されてはならない」、というナショナリズムです。