李強首相の手腕を展望する

 上記の背景を含め、ベールに包まれてきた李強の素顔や手腕を占う上で、極めて重要だったと私が捉えたのが、全人代閉幕直後に行われた李強による記者会見です。全人代では毎年、閉幕後に首相が中外記者と会見を行うのが慣例ですが、李強にとっては当然今回が初めてで、実質のお披露目式となりました。

 約80分間(逐次通訳あり)の会見で、李強は計10の質問に答えましたが、私も全過程を注意深く見ながらメモを取っていました。

 国務院で仕事をしたことのない李強ですが、特に緊張したり、ナーバスになっていたりということもなく、リラックスして、そつなくこなしているなという印象を持ちました。何より、自分の言葉で語るスタイルで、習近平への忠誠心は随所で垣間見せていましたが、聞きなれない言葉、難しい表現を使うわけでもなく、実体験を交えながら、強弱をつけながら、これから中央政府として何をしていくかを実直に語っていたと私は理解しました。

 特に印象に残っているのが、新華社の記者から投げかけられた、「新政府としてどうありたいか?何が求められるか」に関する最後の質問への答えです。李強は回答の中で次のように語っています。

「調査研究の作風を大々的に振興したい(中略)。私は長年地方で仕事をしてきたが、深い感想がある。オフィスに座っていると直面するのは問題ばかりだが、現場に深く入っていくと、そこにあるのは解決方法ばかりだ。やり手は民間にこそいるということだ。我々は各レベルの幹部に第一線の現場に行くよう促し、民間に問い、民間に学ぶことで、現場レベルの問題を真に解決する術を身に付けないといけない。特に、大きな組織で長年仕事をしている若い同志たちは、心身を携えて現場の奥深くに入っていくことで、より地に足のついた仕事ができるのだ」

 李強の施政スタイルを体現する言葉であると感じました。実際、17歳で社会に出た李強はまず工場労働者として2年間働き、その後浙江農業大学で機械農業を4年間学びました。卒業後は生まれ故郷の瑞安で共青団書記を務め、浙江省の民政局に就職し、そこでも農村問題を中心に仕事をしています。2002年から2年間党委員会書記を務めた温州市の商人は「中国のユダヤ人」と称されるほど、世界中を股にかけたビジネスをしてきた経緯があります。

 浙江省という沿岸部の、経済が栄えた地域で長年仕事をしてきた李強は、中国が真に貧しかった時期、貧しかった地域を知る現場主義者であり、経済を真に作り上げる、立て直すには何が必要かを現場レベルで実感してきた、問題解決型の政治家なのでしょう。

 お披露目式におけるパフォーマンスを眺めながら、李強のそんな一面を垣間見た気がしました。ただ言うまでもなく、地方の首長と中央の首長では求められる能力も力量も全く異なるでしょう。極端なたとえですが、剛腕の大阪府知事にいきなり内閣総理大臣をやれと言って務まるかどうかは少なくとも不確実であるように。

 李強首相の手腕と力量を判断するには、少なくとも3カ月から半年くらいのプロセスが必要だと思う今日この頃ですが、お披露目式を経て、私が今思うのは、習近平国家主席が自らとの距離(忠誠心と信頼関係)だけに依拠して李強を首相に抜擢したわけではないということ、李強の蓄積してきた経験や能力を我々は漠然と過小評価すべきではないということ、です。今後の展開が楽しみです。