物議を醸してきた李強・首相人事。背景にあった三つの理由

 今回の全人代で、私が最も注目していた人物が李強氏(以下敬称略)です。李克強の後を継いで国務院総理(首相)に就任するのは既定路線でしたが、この人事が内定した昨秋の党大会以降、「李強首相就任」は国内外で物議を醸してきました。李強が党内序列2位、首相として国務院(内閣・中央政府)を率いていくことに、疑問がかけられてきたということです。

 三つの理由・背景があったと思います。

 一つ目が、李強に国務院で働いた経験がない点。1959年、浙江省瑞安県で生まれた李は、2016年まで終始浙江省に勤務。その後江蘇省、上海市で党委員会書記を歴任しましたが、首都・北京での勤務経験は皆無と言っていい。

 また、改革開放(1980年代)以降首相を務めた趙紫陽、李鵬、朱鎔基、温家宝、李克強は、例外なくまずは副首相を務め、将来的に中央政府を率いていくための経験と人脈を蓄積した上で、首相に就任しています。ただ、そもそも国務院で働いた経験がない李強には当然副首相を歴任していません。そんな人物に、いきなり首相という重役を任せられるのかという疑問です。

 二つ目が、李強は習近平の「子飼い」でしかないという点。二人は浙江省時代に約5年間(2002~2007年)、上司と部下として一緒に働いた経緯があります。習は自らに忠誠を誓う李を心底信頼し、故に中央入りの登竜門であり、自らも中央入り前に歴任した上海市書記に引き上げました。能力ではなく、習近平との距離の近さという一点で首相に就任したのではないか、という疑問です。

 三つ目が、李強は上海を二カ月以上のロックダウン(都市封鎖)に追いやったという点。確かに、実質GDP(国内総生産)が3.0%増という結果に終わり、目標に届かなかった中、上海市(同市は昨年マイナス成長)を率いていた李強の責任が追及されてもおかしくはありません。そんな李強が何事もなかったかのように中央入りし、しかも序列2位の首相に就任するという人事はおかしいのではないかという疑問です。

 これら三つの理由に関しては、私から見て、的を射ているもの(1)もあれば、議論の余地があるもの(2)もあれば、そこが本質ではないと思うもの(3)もあります。ここでは深入りしませんが、今後、機会を見つけて詳細に分析したいと思います。