一斉に開発速度を一段引き上げようとしているAI関連セクターに注目!

 今回の注目セクターはAI関連です。ChatGPTに刺激されて本土のAI関連企業は一斉に開発速度を一段引き上げようとしています。

注.市場コンセンサスは2月17日現在、楽天証券HPより

注目株1:百度(09888)

 中国最大のインターネット検索エンジンを運営する企業で、子会社の愛奇芸とともに、ナスダック市場にも上場しています。

 収益の柱はオンライン情報検索サービスに絡むオンラインマーケティングで売上高全体(2021年12月期)の59%を占めています。クラウドビジネスが12%、自動運転技術などその他の中核業務が5%を占めています。非中核業務として、ナスダック市場に上場する子会社「愛奇芸」の売上高が25%あり、部門間相殺が▲1%です。

 愛奇芸は動画サイトを運営する企業で、有料会員へのサービス、オンライン広告などを収益源としています。

 2022年12月期業績の市場コンセンサスは▲1%減収、▲20%減益です。2023年12月期は10%増収、97%増益です。目先の利益を追求するのではなく、研究開発を全力で行い(2022年7-9月期の売上高研究費率は18%)、規模の拡大を優先する経営方針です。

 また、総資産に占める投資勘定(2022年7-9月期の総資産に対する長短投資勘定は50%)が相対的に高いことで、利益の変動は大きいといった特徴があります。現状では、競争激化による広告収入の伸び悩みが気になるところです。ただ、この会社を評価するには長期的な将来性をどう見るかが重要だと考えています。

 同社はAIに対する投資を長年続けており、技術レベルでは世界でもトップクラスです。2月7日の複数のマスコミ報道では、同社はChatGPTに類似した「文心一言」と命名したAIを開発、3月中には内部での試験運用を終え、一般公開すると報じています。中国ではChatGPTは開放されていません。そのことが同社にとっては逆に大きな商機をもたらす可能性があります。

 Apollo自動運転ソリューションシステムについては、フォード、トヨタ、BYDなど30以上の自動車会社で採用されており、搭載されている車両数は700万台を超えています。化石燃料自動車から電気自動車への転換が進むにつれて、需要は急拡大すると予想します。

百度の週足

期間:過去2年(2021年2月17日~2023年2月17日)
出所:楽天証券ウェブサイト

注目株2:飛天雲動科技(06610)

 AR、VR技術を利用した企業向け広告サイトの開発、マーケティングなどを行っている民営企業です。創業者である汪磊会長は2005年7月、北方工業大学を卒業、ゲーム会社に就職、そこで2年半、オンラインゲームの運営にかかわった後に独立、2008年にゲーム開発を目的に同社を創業しました。その後、3Dゲームの開発技術を発展させる形でAR、VR、メタバース関連事業に参入し、現在に至っています。

 娯楽、文化・旅行、新小売、不動産、メーカー、職業訓練などの企業に拡張現実(AR)、仮想現実(VR)、メタバースを使ったソリューションを提供したり、SaaS(クラウドサーバーにあるソフトウエアをインターネットを通じて提供)の形式で営業の場(宣伝広告)を提供したりしています。

 観光地、博物館の観覧や不動産の内覧、店舗での買い物を、インターネット上のサイトで行えてしまうようなコンテンツ・サービスを思い浮かべていただけば、この会社の事業内容はわかりやすいのではないかと思います。

 2021年における中国のAR/VRコンテンツ、サービス市場における同社のシェアは2.6%で業界トップ、AR/VRサービスに限ればシェアは13.5%で、業界トップです。

 同社は2022年10月18日に上場したばかりで、アナリストによるレーティングはまだ、ありません。

 上場目論見書によれば2021年12月期の業績は76%増収、19%増益でした。

 株価は今年に入り値固めが進んでいます。AI技術の発展は、AR/VR業界に対して、質の向上、需要の拡大を促します。艾瑞コンサルティングの調査によれば、2021年におけるAR/VRコンテンツ、サービスの市場規模は217億元ですが、2022年には357億元に増加、2026年には1,302億元に成長する見通しで、この間の年平均成長率は38.2%に達すると予想しています。

飛天雲動科技の日足

期間:過去6カ月(2022年8月17日~2023年2月17日)
出所:楽天証券ウェブサイト

注目株3:ネットイース(09999)

 中国国内ではテンセントに次ぎ規模の大きなゲーム会社でナスダック市場にも上場(ティッカーコード:NTES)しています。

 部門別売上高(2021年12月期)ではオンラインゲームが72%、ニューヨーク市場に上場する有道(DAO)が展開するオンライン教育事業が6%、香港市場に上場するクラウドミュージック(09899)が手掛ける音楽配信事業が8%、広告サービス、EC、新規事業、その他が14%です。

 2022年1-9月期業績は13%増収、41%増益、7-9月期は10%増収、111%増益でした。ゼロコロナ政策や人民元安がむしろポジティブに働き、好業績となりました。2022年12月期業績の市場コンセンサスは10%増収、21%増益。2023年12月期予想は9%増収、1%増益です。

 ChatGPTは、ネット上に存在するブログや広告など、さまざまなコンテンツを拾い上げて、それをもとに深層学習させ、テキストを作り出すといったAI技術ですが、同社は2月9日、このALGC技術を使ったAIについて、教育現場で実験を行っていると発表しました。AI英会話教師、国語(作文)の評価や添削といった学習現場で使うそうです。

 中国は国土が広いために学校が分散していて、一部の地域では教師の量、質ともに不足しています。こうした中国の国情を考えると、ターゲットとする市場は十分大きいとみられます。

ネットイースの月足

期間:過去3年(2020年2月17日~2023年2月17日)
出所:楽天証券ウェブサイト

注目株4:柏能集団(01263)

 民営の電子部品メーカーです。主力製品はグラフィックカードで売上高(2022年6月中間期、以下同様)は全体の87%を占めています。そのほか、ATM、POSシステムなどの受託生産が6%、PCやPC関連部品などが7%を占めています。

 グラフィックカードでは世界的な大手であるNVIDIA、AMDと業務関係があり、これが同社の低価格・高性能製品の開発やソリューション能力の強化に役立っています。最近では自社ブランド品(ZOTAC、Inno3D、Manli)が伸びています。

 販売先はグローバルに広がっていて、アジア(中国、インドを除く)が37%、北米、南米が21%、中国が18%、EU、中東、アフリカ、インドが24%です。

 2022年6月中間期の業績は▲4%減収、▲14%減益でした。グラフィックカードは主にパソコン、ゲーム機などに使用されますが、地政学リスクの高まり、ドル高による影響から多くの国で需要が鈍化しました。そのほか、暗号資産マイニング需要の減少、中国のゼロコロナ政策の影響もあり、減収減益となりました。

 なお、アナリストたちによるコンセンサスデータはありません。

 同社に注目する理由はネットイースでコメントしたAI技術の利用が増えれば画像を処理するための高性能のグラフィックカードに対する需要が増えると予想されるからです。また、AIの発展は、メタバースの発展につながり、グラフィックカード需要の拡大につながると予想します。

柏能集団の月足

期間:過去5年(2018年2月17日~2023年2月17日)
出所:楽天証券ウェブサイト

注目株5:美図(01357)

 265上網導航(検索サイト、2008年にグーグル中国が買収)を創業するなど、著名な企業家、エンジェル投資家である蔡文勝氏が会長を務める美顔アプリの開発会社です。美顔編集アプリの「美図秀秀」、美顔カメラアプリの「美顔相機」、「美顔相機」の海外版アプリである「Beauty Plus」などを主に若者向けに提供しています。

 部門別売上高(2022年6月中間期)では、アプリ上の広告から得られる収入が26%、VIP会員から得られる収入が35%、化粧品小売店向けの流行の把握や価格設定に対するコンサルティングとか、美容整形医院、美容院などに提供するAIを用いた皮膚分析などのSaaSおよびその関連業務が23%、その他が16%です。

 2022年6月中間期業績は20%増収、2億6,625万元の赤字(前年は1億2,867万元の赤字)でした。ゼロコロナ政策の影響で広告収入が落ち込む中、サービスの多様化、質の向上によりVIP会員収入が増加。化粧品小売店、美容整形医院、美容院など事業者向けにサービスを拡大したことで大幅増収を確保しました。

 粗利益率は52%と高いものの、研究開発費に売上の27%、販売費に19%かけるなど、事業拡大を追求する経営を行っています。ただ、暗号資産の評価減などの影響もあり、赤字幅は拡大しています。

 なお、アナリストたちによるコンセンサスデータはありません。

 同社は美顔アプリを収益の柱にしていますが、中核技術はAIです。現在は個人を対象としたビジネスが中心ですが、美顔を切り口として、法人向けビジネスの開拓を進めています。技術的にはVR/ARとの相性も良く、長期的な発展の余地のある企業であるとみています。

美図の月足

期間:過去5年(2018年2月17日~2023年2月17日)
出所:楽天証券ウェブサイト