香港ハンセン指数は押し目を形成!上海総合指数は上値の重い展開

 香港ハンセン指数は昨年10月31日をボトムとして、強い上昇トレンドを形成していましたが、1月27日をピークに足元では押し目を形成しています。上海総合指数は春節休暇明け(1月30日)以降、上値の重い展開となっています。

2022年1月以降の主要株価指数の推移

注:2021年12月最終取引日の値=100。
出所:各取引所統計データから筆者作成(直近データは2023年2月17日)

新型コロナは過去の話!今後の米中関係の動向が重要視される

 昨年12月から今年の1月中旬にかけて、ゼロコロナ政策廃止に伴い感染爆発が起こるのではないかと懸念する声もありましたが、春節が明けるころには、そうした懸念は聞かれなくなりました。集団免疫獲得によって、本土の感染状況はコントロールされています。少なくとも株式市場において、新型コロナは過去の話となっています。

 であれば、中国経済のV字回復を期待して、株価は上昇を続けてもよさそうに思うのですが、実際にはご覧の通りの状況です。新しい悪材料が発生しています。米中関係の悪化です。

 これは決して目新しい材料ではありません。トランプ前大統領が2018年、中国からの一部輸入品に対して懲罰的追加関税をかけて以来、制裁の内容を変えつつ繰り返し中国株市場を圧迫してきた悪材料です。

 バイデン大統領は昨年11月14日、習近平国家主席と会談を行ったことで、米中関係は緊張緩和に向かっていました。この会談でブリンケン国務長官の中国訪問や、米中高官による対話、協議の再開が決まっていました。

 しかし、こうした緊張緩和の雰囲気も、2月に入り突如湧き起こった気球事件で一転、2月3日にはブリンケン国務長官の訪中(予定は2月5~6日)延期が発表されました。気球事件の真相はわかりません。米中双方の言い分にはそれぞれ疑問点があります。

 まず、米国の主張するように偵察を目的としたものであれば、見つかりやすく、制御が難しい気球は偵察用としては極めて不向きです。また、中国が主張するように気象観測など科学研究のために使われる民間の気球であるとすれば、どういう企業、機関で具体的に何を目的としているのかはっきりと発表できるはずです。

 あえて私見を示すなら、米国が言うように本当に偵察を目的とした気球であるのならば、偵察したかったのは米国ではなく、自国だったのではないでしょうか。

 共産党の視線はいつも人民に向けられています。海外勢力による諜報活動を含め政治的な活動の監視を強化するために使われていた気球が制御できなくなり、強い偏西風に流されてしまったのではないかと個人的には推測しています。

 株式市場においては、気球事件の真相よりも、今後の米中関係がどうなるのかの方がはるかに重要です。

 その点を考える上で役に立ちそうなのが、2月7日に行われたバイデン大統領にとって2回目となる一般教書演説です。外交政策に関する内容が最も気になるところだったのですが、終盤にわずかな時間を割くだけでした。

 昨年の演説は、ロシアによるウクライナ侵攻直後であったということもあり、冒頭から外交政策が取り上げられており、今回とは対照的な扱いです。中国については、気球事件を取り上げていますが、昨年あれほど大騒ぎした台湾有事に関する話は皆無でした。

 バイデン大統領の支持率は4割台前半で推移しています。結局、有権者は国内問題を強く意識しています。インフレをしっかりと抑え込み、金利上昇により景気がオーバーキルしてしまうリスクを抑えない限り、再選は難しいでしょう。

 バイデン政権は一部の中国ハイテク企業に対する投資を完全に禁止するとともに、その他の企業に対しても審査を強化しようとしているようですが、できることは限られます。

 商務部(記者会見、2月16日)によれば、米中双方いずれの統計においても、2022年における米中貿易額は過去最大を記録しています。これは、米中経済構造が相互補完的であり、貿易を行うことが両国企業にとって利益になるということです。2018年以来の対中強硬策も、両国の貿易拡大の動向を止めることはできません。

 米国企業だけが中国ハイテク企業への投資を禁止されれば、それを他国が埋めることになるでしょうが、そうさせないためには、同盟国などに対して、米国と同様の投資禁止措置を取らせることが必要です。しかし、これは国家主権の侵害にもつながりかねず、実現は難しいかもしれません。

 中国経済の成長を抑え込めば、米国経済、世界経済への影響は免れません。バイデン政権を支持するグループの中には対中強硬策を推し進めたいグループもあるでしょうが、再選を目指したいバイデン政権としては、今はむしろ対中緩和が得策です。

 欧米機関投資家が主要投資家である香港市場は、揺れ動く米中関係を巡り、弱含む可能性もあるかもしれませんが、中国の経済回復を妨げるほどのインパクトの強い強硬策は打ち出せないでしょう。そうであれば、中国経済のV字回復といった好材料のインパクトは大きく、香港ハンセン指数は深押しすることはないだろうと予想します。

一斉に開発速度を一段引き上げようとしているAI関連セクターに注目!

 今回の注目セクターはAI関連です。ChatGPTに刺激されて本土のAI関連企業は一斉に開発速度を一段引き上げようとしています。

注.市場コンセンサスは2月17日現在、楽天証券HPより

注目株1:百度(09888)

 中国最大のインターネット検索エンジンを運営する企業で、子会社の愛奇芸とともに、ナスダック市場にも上場しています。

 収益の柱はオンライン情報検索サービスに絡むオンラインマーケティングで売上高全体(2021年12月期)の59%を占めています。クラウドビジネスが12%、自動運転技術などその他の中核業務が5%を占めています。非中核業務として、ナスダック市場に上場する子会社「愛奇芸」の売上高が25%あり、部門間相殺が▲1%です。

 愛奇芸は動画サイトを運営する企業で、有料会員へのサービス、オンライン広告などを収益源としています。

 2022年12月期業績の市場コンセンサスは▲1%減収、▲20%減益です。2023年12月期は10%増収、97%増益です。目先の利益を追求するのではなく、研究開発を全力で行い(2022年7-9月期の売上高研究費率は18%)、規模の拡大を優先する経営方針です。

 また、総資産に占める投資勘定(2022年7-9月期の総資産に対する長短投資勘定は50%)が相対的に高いことで、利益の変動は大きいといった特徴があります。現状では、競争激化による広告収入の伸び悩みが気になるところです。ただ、この会社を評価するには長期的な将来性をどう見るかが重要だと考えています。

 同社はAIに対する投資を長年続けており、技術レベルでは世界でもトップクラスです。2月7日の複数のマスコミ報道では、同社はChatGPTに類似した「文心一言」と命名したAIを開発、3月中には内部での試験運用を終え、一般公開すると報じています。中国ではChatGPTは開放されていません。そのことが同社にとっては逆に大きな商機をもたらす可能性があります。

 Apollo自動運転ソリューションシステムについては、フォード、トヨタ、BYDなど30以上の自動車会社で採用されており、搭載されている車両数は700万台を超えています。化石燃料自動車から電気自動車への転換が進むにつれて、需要は急拡大すると予想します。

百度の週足

期間:過去2年(2021年2月17日~2023年2月17日)
出所:楽天証券ウェブサイト

注目株2:飛天雲動科技(06610)

 AR、VR技術を利用した企業向け広告サイトの開発、マーケティングなどを行っている民営企業です。創業者である汪磊会長は2005年7月、北方工業大学を卒業、ゲーム会社に就職、そこで2年半、オンラインゲームの運営にかかわった後に独立、2008年にゲーム開発を目的に同社を創業しました。その後、3Dゲームの開発技術を発展させる形でAR、VR、メタバース関連事業に参入し、現在に至っています。

 娯楽、文化・旅行、新小売、不動産、メーカー、職業訓練などの企業に拡張現実(AR)、仮想現実(VR)、メタバースを使ったソリューションを提供したり、SaaS(クラウドサーバーにあるソフトウエアをインターネットを通じて提供)の形式で営業の場(宣伝広告)を提供したりしています。

 観光地、博物館の観覧や不動産の内覧、店舗での買い物を、インターネット上のサイトで行えてしまうようなコンテンツ・サービスを思い浮かべていただけば、この会社の事業内容はわかりやすいのではないかと思います。

 2021年における中国のAR/VRコンテンツ、サービス市場における同社のシェアは2.6%で業界トップ、AR/VRサービスに限ればシェアは13.5%で、業界トップです。

 同社は2022年10月18日に上場したばかりで、アナリストによるレーティングはまだ、ありません。

 上場目論見書によれば2021年12月期の業績は76%増収、19%増益でした。

 株価は今年に入り値固めが進んでいます。AI技術の発展は、AR/VR業界に対して、質の向上、需要の拡大を促します。艾瑞コンサルティングの調査によれば、2021年におけるAR/VRコンテンツ、サービスの市場規模は217億元ですが、2022年には357億元に増加、2026年には1,302億元に成長する見通しで、この間の年平均成長率は38.2%に達すると予想しています。

飛天雲動科技の日足

期間:過去6カ月(2022年8月17日~2023年2月17日)
出所:楽天証券ウェブサイト

注目株3:ネットイース(09999)

 中国国内ではテンセントに次ぎ規模の大きなゲーム会社でナスダック市場にも上場(ティッカーコード:NTES)しています。

 部門別売上高(2021年12月期)ではオンラインゲームが72%、ニューヨーク市場に上場する有道(DAO)が展開するオンライン教育事業が6%、香港市場に上場するクラウドミュージック(09899)が手掛ける音楽配信事業が8%、広告サービス、EC、新規事業、その他が14%です。

 2022年1-9月期業績は13%増収、41%増益、7-9月期は10%増収、111%増益でした。ゼロコロナ政策や人民元安がむしろポジティブに働き、好業績となりました。2022年12月期業績の市場コンセンサスは10%増収、21%増益。2023年12月期予想は9%増収、1%増益です。

 ChatGPTは、ネット上に存在するブログや広告など、さまざまなコンテンツを拾い上げて、それをもとに深層学習させ、テキストを作り出すといったAI技術ですが、同社は2月9日、このALGC技術を使ったAIについて、教育現場で実験を行っていると発表しました。AI英会話教師、国語(作文)の評価や添削といった学習現場で使うそうです。

 中国は国土が広いために学校が分散していて、一部の地域では教師の量、質ともに不足しています。こうした中国の国情を考えると、ターゲットとする市場は十分大きいとみられます。

ネットイースの月足

期間:過去3年(2020年2月17日~2023年2月17日)
出所:楽天証券ウェブサイト

注目株4:柏能集団(01263)

 民営の電子部品メーカーです。主力製品はグラフィックカードで売上高(2022年6月中間期、以下同様)は全体の87%を占めています。そのほか、ATM、POSシステムなどの受託生産が6%、PCやPC関連部品などが7%を占めています。

 グラフィックカードでは世界的な大手であるNVIDIA、AMDと業務関係があり、これが同社の低価格・高性能製品の開発やソリューション能力の強化に役立っています。最近では自社ブランド品(ZOTAC、Inno3D、Manli)が伸びています。

 販売先はグローバルに広がっていて、アジア(中国、インドを除く)が37%、北米、南米が21%、中国が18%、EU、中東、アフリカ、インドが24%です。

 2022年6月中間期の業績は▲4%減収、▲14%減益でした。グラフィックカードは主にパソコン、ゲーム機などに使用されますが、地政学リスクの高まり、ドル高による影響から多くの国で需要が鈍化しました。そのほか、暗号資産マイニング需要の減少、中国のゼロコロナ政策の影響もあり、減収減益となりました。

 なお、アナリストたちによるコンセンサスデータはありません。

 同社に注目する理由はネットイースでコメントしたAI技術の利用が増えれば画像を処理するための高性能のグラフィックカードに対する需要が増えると予想されるからです。また、AIの発展は、メタバースの発展につながり、グラフィックカード需要の拡大につながると予想します。

柏能集団の月足

期間:過去5年(2018年2月17日~2023年2月17日)
出所:楽天証券ウェブサイト

注目株5:美図(01357)

 265上網導航(検索サイト、2008年にグーグル中国が買収)を創業するなど、著名な企業家、エンジェル投資家である蔡文勝氏が会長を務める美顔アプリの開発会社です。美顔編集アプリの「美図秀秀」、美顔カメラアプリの「美顔相機」、「美顔相機」の海外版アプリである「Beauty Plus」などを主に若者向けに提供しています。

 部門別売上高(2022年6月中間期)では、アプリ上の広告から得られる収入が26%、VIP会員から得られる収入が35%、化粧品小売店向けの流行の把握や価格設定に対するコンサルティングとか、美容整形医院、美容院などに提供するAIを用いた皮膚分析などのSaaSおよびその関連業務が23%、その他が16%です。

 2022年6月中間期業績は20%増収、2億6,625万元の赤字(前年は1億2,867万元の赤字)でした。ゼロコロナ政策の影響で広告収入が落ち込む中、サービスの多様化、質の向上によりVIP会員収入が増加。化粧品小売店、美容整形医院、美容院など事業者向けにサービスを拡大したことで大幅増収を確保しました。

 粗利益率は52%と高いものの、研究開発費に売上の27%、販売費に19%かけるなど、事業拡大を追求する経営を行っています。ただ、暗号資産の評価減などの影響もあり、赤字幅は拡大しています。

 なお、アナリストたちによるコンセンサスデータはありません。

 同社は美顔アプリを収益の柱にしていますが、中核技術はAIです。現在は個人を対象としたビジネスが中心ですが、美顔を切り口として、法人向けビジネスの開拓を進めています。技術的にはVR/ARとの相性も良く、長期的な発展の余地のある企業であるとみています。

美図の月足

期間:過去5年(2018年2月17日~2023年2月17日)
出所:楽天証券ウェブサイト