アドバンスト・マイクロ・デバイス(AMD)

1.2022年12月期4Qは16.0%増収、営業損失1.49億ドル

 アドバンスト・マイクロ・デバイス(以下AMD)の2022年12月期4Q(2022年10-12月期、以下前4Q)は、売上高55.99億ドル(前年比16.0%増)、営業損失1.49億ドル(前年同期は12.07億ドルの黒字)となりました。

 前4Qの主にザイリンクス買収(2022年2月に買収成立)にかかる買収関連無形固定資産の償却は原価段階で4.43億ドル、販管費で6.01億ドル、計10.44億ドルでした。これがなければ、8.95億ドルの営業黒字でした。

 また、ザイリンクス買収や新型CPU開発に伴い、研究開発費が2021年12月期4Q8.11億ドルから13.66億ドルに増加しました。

 この結果、2022年12月期通期は、売上高236.01億ドル(同43.6%増)、営業利益12.64億ドル(同65.4%減)となりました。買収関連無形固定資産の償却は、原価段階14.48億ドル、販管費21.00億ドル、計35.48億ドルであり、これがなければ営業増益でした。

 また、研究開発費は2021年12月期28.45億ドルから2022年12月期50.05億ドルに増加しました。

表6 AMDの業績

株価    88.31ドル(2023年2月2日)
時価総額    142,444百万ドル(2023年2月2日)
発行済株数    1,618百万株(完全希薄化後)
発行済株数    1,613百万株(完全希薄化前)
単位:百万ドル、%、倍
出所:会社資料より楽天証券作成
注1:当期純利益は親会社株主に帰属する当期純利益。
注2:EPSは完全希薄化後(Diluted)発行済株数で計算。ただし、時価総額は完全希薄化前(Basic)で計算。
注3:会社予想は予想の高安平均値。

2.セグメント別動向

データセンター:前4Qのデータセンター・セグメントは、売上高16.55億ドル(前年比42.3%増)、営業利益4.44億ドル(同20.3%増)となりました。前3Q比では増収減益となりました。データセンター投資が堅調で、今のサーバー用CPUの主力である第3世代EPYCプロセッサに前3Qに発売された第4世代EPYC(開発名「Genoa(ジェノア)」)が加わり売上高は好調でしたが、営業利益率は前3Qから低下し、増益率は鈍化しました。新型CPU等の開発にかかる研究開発費の増加が負担になりました。また、Genoaは好調でしたが販売費用も増えたと思われます。

 今1Q(2023年1-3月期)、今2Qは、一部の大手クラウドサービスのサーバー用CPUの在庫水準が上昇しているため、サーバー用CPUの出荷が鈍化する見込みです。そのため、データセンター・セグメントの今1Qは小幅ながら前4Q比減収減益になる可能性があります。本格的に回復するのは今3Qからで、今下期のデータセンター向けサーバー用CPUの市場は強いというのが会社側の見方です。

 Genoaの次の世代でより高性能な「Bergamo(ベルガモ)」の発売は2023年前半になる見込みであり、収益貢献は今下期からになると予想されます。従来のサーバー用CPUの性能を大きく上回るものになると思われるため、売れ行きが注目されます。

クライアント:前4Qのクライアント・セグメント(パソコン用CPU、CPU内蔵型GPUとそれらのチップセット)は、売上高9.03億ドル(同50.6%減)、営業損失1.52億ドル(前年同期は5.30億ドルの黒字)となりました。パソコン市場の減少に伴うパソコン用CPU、GPUの在庫調整が続いており、前3Qに続き前4Qも消費量を下回る出荷を行いました。その結果、前3Q比でも減収となり、赤字幅が拡大しました。

 会社側の見方では、AMDにとってのパソコン市場の大底は今1Qになる見込みです。そのため、今1Qまではパソコン用CPU、GPUの出荷削減を行う模様です。その後は今2Qから緩やかな回復が見込まれますが、本格回復は今下期または来期に入ってからと思われます。

ゲーミング:前4Qのゲーミング・セグメント(独立型GPU、ゲーム機用チップセットなど)は、売上高16.44億ドル(同6.7%減)、営業利益2.66億ドル(同34.6%減)となりました。前3Q比では増収増益となりました。ゲーミングPCと仮想通貨マイニングの減少に合わせてゲーム用GPUも在庫調整に入っていますが、ゲーム機用チップセット(主にプレイステーション5、Xbox series X/S向け)は増加しました。

 ゲーム機向けはソニーの増産体制が整ってきたため、今後も増加が予想されます。ゲーミングPC向けは、前4Qに5ナノのデザインルールとチップレット設計を採用した最新型の「Radeon 7900 シリーズ」が発売されました。この新型GPUを搭載したノートブックPCが2023年前半に発売されるため、その成果が注目されます。会社側では今1Qのゲーミング・セグメントは前年比減収になると見ています。

エンベデッド:前4Qのエンベデッド(組み込み)・セグメント(買収したザイリンクスの事業が中心)は、売上高13.97億ドル(同19.7倍)、営業利益6.99億ドル(同38.8倍)となりました。通信、自動車、産業、ヘルスケア、航空宇宙・防衛、テスト、エミュレーション(特定のハードウェアやOS向けのソフトウェアを、本来の仕様とは異なる動作環境で実行させるためのソフトウェア、ハードウェア)向けが好調でした。

 また、今年1月にAI 推論エンジンであるRyzen AIを搭載した最初のパソコン用CPU 「Ryzen 7040シリーズ」が発売されましたが、このRyzen AIにはザイリンクスの技術が組み込まれており、パソコン分野でのAMDとザイリンクスの統合の成果が注目されます。会社側ではAIの搭載が今後全ての製品で進むと予想しています。

その他:その他のセグメントは他のセグメントに配分できない費用を計上したものであり、前4Qは14.06億ドルの営業損失でした。このうち、10.44億ドルが主にザイリンクス買収に伴う無形固定資産の償却、残りが株式報酬等の費用、弁護士費用等の買収関連費用などです。

 その他・セグメントの損失は、全社業績に影響を与える大きなものですが、今の時点では2023年12月期にこれが減るのか同じなのか不明です。これについては、今1Q以降の数字を観察する必要があります。

表7 AMD:セグメント別業績(四半期)

単位:100万ドル
出所:会社資料より楽天証券作成

3.2023年12月期楽天証券業績予想を下方修正するが、中長期で再成長期に入ったと思われる

 今1Qの会社側ガイダンスは、売上高53±3億ドル(53億ドルの場合、前年比10.0%減)、non-GAAPベース(GAAP(一般に公正妥当と認められた会計基準)から非現金支出項目、評価性項目などを調整したもの)での売上総利益率約50%(前4Qは51%)です。セグメント別売上高は、クライアントとゲーミングが前年比減収となる見込みですが、データセンターとエンベデッドの増収で補うことになります。

 楽天証券では、会社側ガイダンスと業界動向を参考にして、今1Qを売上高53億ドル(前年比10.0%減)、営業損失2億ドル(前年同期は9.51億ドルの黒字)と予想します。また、2023年12月期通期は、売上高251億ドル(同6.4%増)、営業利益20億ドル(同58.2%増)と予想します。前回予想から下方修正になりますが、これは、クライアント・セグメントの在庫調整が今1Qまで続くと予想されること、データセンター・セグメントの今上期の軟化などを織り込んだことによります。

 また、その他の営業損失(ザイリンクス関連の償却、株式報酬費用など)は今期40億ドルと予想しましたが、これが実際にどうなるのかは2023年12月期の不透明要因です。

 来期2024年12月期は、売上高313億ドル(同24.7%増)、営業利益51億ドル(同2.6倍)と予想します。クライアントの回復は緩やかなものになると予想しますが、データセンター、エンベデッドの高成長が全社業績を牽引すると予想します。またゲーミングは、ゲーミングPC向け、ゲーム機向けともに成長が期待できると考えています。

 昨年後半からサーバー向け新型CPUの発売が続き、旧ザイリンクスの事業も好調です。Genoaと今年前半に発売されるBergamoはコア数が多いため上位機種の価格が高く(Genoaの価格は1,083~11,805ドル)、上位機種が好調なら業績に与える影響も大きくなると思われます。AMDの業績は再成長期に入りつつあると思われます。

表8 AMD:セグメント別業績(通期)

単位:100万ドル
出所:会社資料より楽天証券作成

4.今後6~12カ月間の目標株価を前回の80ドルから120ドルに引き上げる

 AMDの今後6~12カ月間の目標株価を、前回の80ドルから120ドルに引き上げます。

 AMDの業績は中長期で再成長期に入りつつあると思われます。そのため、楽天証券の2024年12月期予想EPS2.74ドルに、長期的な成長性とリスクを考慮して想定PER40~50倍を当てはめ、今後6~12カ月間の目標株価を120ドルとしました。

 中長期で投資妙味を感じます。

<参考>
2022年10-12月期、2022年11月-2023年1月期決算発表スケジュール

出所:各種資料より楽天証券作成
注:表中の予定は予告なく変更されることがある。

本レポートに掲載した銘柄:レーザーテック(6920、東証プライム)アドバンスト・マイクロ・デバイス(AMD、NASDAQ)