利益と損失。カネに色を付けると、投資で失敗する

 隆一の反応に、待ってましたとばかりに先生は話を続けた。
「あなたが投資で稼いだあと、どう使うかはお任せします。ただ、今日はお金を使う目的の話をしたいわけではありません。『カネに色はない』という考えが、投資判断において極めて重要だという話をしたいのです。投資をしていると、同じ金額でも、利益と損失とでは、同じ色、同じ大きさに見えなくなってしまいます。これは、『心の会計』というより『損失回避』の心理に近いのですが」

「えっ、どういうことですか」
「多くの投資家に見られる非合理的な行動として、

〇値上がりした銘柄は早々に手放すのに、損を抱えた銘柄は抱え込んでしまう

ことがあります。結果として、『利益は小さく、損は大きく』なってしまいがちです」

「それは、僕もそうでした。損を抱えたときには損切りができないけど、値上がりした時には、タイミングよく利益確定売りができない、だから注意しろ、という話でしたよね」

「そうです。そこをもっと掘り下げていくと、人は経験や相場、損益の状況によって、お金の色がコロコロと変わってしまう、ということです。値上がりして含み益が出たときの心理は、もっと上がるかもと売り損なって利益を逃すように働く場合もあれば、今、売っておかないと値下がりしてしまうのではという疑心暗鬼に駆られて大きな利益を逃すように働く場合もあります。これはその人の投資の経験によっても、性格によっても違ってくるでしょうが、根本としては心理から発生する表裏一体の非合理な行動です。結果は、相場次第ですが、どちらも儲け損なう投資家の典型です」

「なるほど、人の心理っておもしろいですね。いや怖い話か」