※この記事は2018年8月10日に掲載されたものです。
 

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第5章 分散投資は、個人投資家を堕落させるか、成功させるか

<第4話>積立投資なら、ショック相場を歓迎できる?

 先生は、ひとしきり隆一が投資や経済の基本をとらえたと考え、具体的な実践方法を伝えることにした。
「資本主義、バブル、行動心理といった、長期投資に必要な体系的な考えが身についた後は、投資を習慣化、仕組み化する必要があります」
「投資の習慣化、ですか」

「そう、習慣になっているほど強いものはありません。野球選手のイチローは毎打席同じルーティンで打席に入ることで有名ですよね。投資もルーティンにすることが必要で、その一番いい方法が、毎月の積み立て投資です。」

「積み立て投資ですか?」
 隆一は、積み立て投資という言葉は聞いたことがあったが、詳しくは知らなかった。

収入ギリギリまで使ってしまう…そんな人が継続投資をできる?

「そうです、長期的な資産形成には、積み立て投資が有効です。積み立て投資がどういう仕組みかと言えば、証券会社や銀行の口座から毎月一定の金額を天引きし、そのお金で金融商品を買い付ける仕組みです。投資信託の積み立てもあります。まず、この天引きというのが、絶対条件になります。」と先生はそこを強調します。

「先生、わかります。銀行の普通口座に現金があると、どうしても使いたくなって、つい無駄なものを買ってしまいます。そこをきっちり、切り分けるんですね」
「そうです、人間の意志というのはかくも弱いもの。<パーキンソンの法則>というものがあるのですが、これは“支出の額は、収入ギリギリまで膨張する”というものです」
「はは、あんまり笑えないですが、ギリギリを超えちゃうこともありますね」

「そうですね、そういう方も少なくないですね。心のブレーキなんて言うものを信じてはいけないのかもしれません。だからこそ、天引きのような強制力が必要なんです。さらに、積み立て投資のいいところは、下がったときの方がメリットが発揮されるということです」
「先生、下がったほうがいいというのは、どういうことですか。株価が下がって儲かるというのがピンと来ません」をする

「確かに言葉だけだと、違和感があるでしょうね。それでは、具体的に過去の事例を使って説明をしていきます。たとえば、2004~2014年の期間を取って考えたいと思います」

「どうして、その10年間を使うんですか」
 隆一は、ある期間に区切るということに、どことなく説得する人の都合のよい期間になるようで、気持ちが悪く感じていた。
 

 

リーマンショックのような相場の乱高下を味方にできるか

 そんな隆一の曇った表情を見て、先生は続けた。
「ふむ、簡単に言えば、いいときと悪いときが、混在している期間だからです。2004~2014年というのは、ちょうど真ん中の2008年にリーマンショックがあり、多くの人が投資をしていてもあまり儲からなかった10年だと思います。100年に一度と言われる暴落があったのですから、現金で持っていた人が一番いいのではと思いがちですが、本当にそうでしょうか。実際は積み立て投資をしている方にとっては、このリーマンショックを挟んだ10年間はとてもいいマーケット環境だったのです。長期的に見れば」

 隆一は自身もデイトレをしていてこっぴどくやられたことを思い出し、リーマンショックを挟んだ10年間が、いいマーケット環境とは到底思えなかったが、先生の話の続きを聞くことにした。

「では、わかりやすくするために、日経平均の動きで説明をします。2003年4月、小泉政権の時は日経平均は8,000円割れまでいきました。そして、竹中大臣がりそな銀行の国有化を決めたところから株価が上がり始め、為替が円安にふれていったこともあり、そこから4年間で日経平均は18,000円まで一気に上がります。

ところが、海の向こうのアメリカでリーマン・ブラザーズが破綻し、他の金融機関もサブプライム問題で次々に潰れるのではと噂が飛び交い、リーマンショックが起こります。そして、当然ですが日経平均も18,000円から7,000円までつるべ落としのように1年間で下がります。

その後、当時のFRB(米連邦準備制度理事会)議長ベン・バーナンキ氏による金融機関救済策により、日経平均も一度は10,000円まで戻りますが、その後に今度はヨーロッパからギリシャ発の嵐が押し寄せてきて、日経平均はまた10,000円を割り込んでいきます。そして、2012年末に民主党から自民党に政権が変わり、アベノミクスによって日経平均はようやく反発。2013年の1年間で57%の上昇をみせ、16,000円まで上がります。このジェットコースターのような変動こそが、Mr.マーケットの真骨頂です。この10年に区切った意味は、この乱高下を例としてお見せしたかったからですね」

「確かに、Mr.マーケットの変動幅は強烈ですね」と隆一が相槌をうつ。

積み立て投資なら、10年で120万円が155万円になる?

「では、実際の投資の成果をみていきます。2003年の日経平均10,000円のときに100万円を投資した人が、そのまま10年間持ち続けることができたなら、100万円は160万円になっています。しかし、多くの方は最初の4年間で180万円までになったときには、まだまだだと売りそびれ、リーマンショックで一気に80万円になった時に怖くなって売ってしまうか、買値の10,000円に戻ったときにやれやれと売り、元本の100万円を確保したと思います。

それに比べて、ただ単に日経平均を毎月1万円ずつ年間12万円投資し、10年間120万円投資をし続けた人はどうなったかというと、120万円が155万円になっています。

ちなみに、この図にあるNYダウも日経平均と同じような動きをしました。日経平均と違うのは、リーマンショック前の高値を抜いて、最高値を更新しているところです。海外株に投資する投資信託に毎月1万円で10年間年をした場合は、120万円が約170万円になります。日経平均に投資をした場合の155万円よりも上乗せがありますね。

このように、積み立て投資を10年単位で区切った場合、じつはリーマンショックのように途中で下がって最後にまた上がるという値動きが一番理想なのです」

「なるほど、最後の<また上がる>というところが、資本主義経済と長期投資のポイントですね。先生が仰っていたように、バブルは繰り返すので、一括で投資をするより積み立てで投資をし、時間も分散をしておくのがいいんですね。その10年はともかく、これからもそのようなマーケットの波ができると考えると」

 隆一がバブルや資本主義経済、マーケットの歴史に触れると、先生はコーヒーに口をつけた。そしてうなずいて話を続けた。

「そう、歴史は繰り返します。バブルとその破裂を繰り返しながらも、マーケットという生き物は、右肩上がりで上がっていきます。ただ、途中の下げに振り落とされてはいけない。だからこそ、仕組みを使うのです。積み立て投資であれば、株価が安くなったときにも、強制的に毎月天引きで買い続けられます。これを習慣にできた人が、将来的にプラスのリターンをとることができるのです」

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