その他のリスク

 ロシア事業の他にも、JTが抱えているリスクはあります。財務への影響が大きくなる可能性のあるものとして、以下三つがあります。

【1】国内で喫煙者減少が続いている

 受動喫煙(他人の喫煙で出たタバコの煙を吸入してしまうこと)を防止するための法律が強化されつつあります。2018年7月に健康増進法の一部が改正されたことにより、2019年7月には学校・病院などの敷地内が原則禁煙となりました。
 全面施行となった2020年4月からは、全ての建物の屋内が原則禁煙となりました。喫煙が可能なのは、喫煙を主目的とする店舗(バー・スナック)や公衆喫煙所、屋内に設けた喫煙スペース(喫煙室)に限られます。
 東京都は国の規制をさらに強化した「東京都受動喫煙防止条例」を制定し、2020年4月1日に全面施行となりました。小規模の外食店で実質的にほとんど喫煙ができなくなりました。
 ただ、店内での喫煙を引き続き可能にするために、新たに「シガーバー」の登録を受ける外食店が増えているので、当初懸念されたほどに、禁煙が進んだとは言えません。それでも、一連の規制強化を受けて、国内の喫煙人口がどんどん減少していく流れは変わりません。
 ただし、私は、国内の喫煙者が減ること自体は大きなリスクと考えていません。なぜならば、喫煙者が減っても値上げによって利益の落ち込みを小さくすることができるからです。独占に近い事業で値上げを発表すると、通常は公正取引委員会から独占禁止法違反の嫌疑をかけられます。
 タバコ事業は、独占に近い事業なのに値上げをすることができる珍しい事業です。それが、世界各国のタバコ企業が高い利益をあげ続けられる理由となっています。

【2】次世代タバコでJTの「プルーム」が米フィリップモリスの「アイコス」に劣後

 米国や日本などで、紙巻きタバコに代わって次世代タバコ(加熱式タバコや電子タバコ)を吸う人が増えています。紙巻きタバコではタバコの葉を燃やしてその煙を吸うため、副流煙が周囲に広がる問題がありますが、次世代タバコは、火を使わないので副流煙が出ません。世界的に禁煙や分煙が進む中で、特に米国と日本では、次世代タバコに乗り換える人が増えています。
 JTは次世代タバコ「プルーム」シリーズを国内で販売していますが、日本ではフィリップモリスの「アイコス」の方が人気で、プルームはシェアが低迷していました。次世代タバコで苦戦していることが、JTの将来の不安材料となっていました。
 私は、将来全てのタバコが加熱式に置き換わる可能性もあると考えられる中、加熱式での苦戦は、JTにとって重大なリスクと考えています。ただし、苦戦の原因はわかっています。吸い応えがアイコスほど強くないことが原因と考えられます。
 そのため、JTは吸い応えを強めるなどの変化を加えた新商品「プルーム X」などを出して、巻き返しをはかっているところです。プルーム Xの国内加熱式たばこ市場でのシェアは、同社推定では2021年に約4%だったのが、2022年9月には7.9%まで上昇しています。

【3】健康被害に対する訴訟

 世界のタバコ大手はかつて、喫煙による健康リスクを十分に知らせずに喫煙を助長する販売活動を行っていたとして、巨額の賠償を科せられました。現在は、タバコのパッケージに健康への悪影響を明確に記載するなどの対策を取ることで、健康被害に対する損害賠償訴訟は減りました。
 ただし、まだ続いている訴訟もあります。JTは、有価証券報告書にて偶発事象として訴訟の被告となっている事例を開示しています。
 JTのカナダ子会社は、現地のタバコ会社とともに、集団訴訟で巨額の賠償を命ぜられています。ケベック州での集団訴訟の一つで、JT子会社が命ぜられた負担分は約1,584億円ですが、支払い能力がないため、企業債権者調整法の認可を受けて執行が停止されたまま事業を継続しています。最終的な負担がどうなるか、合理的に見積もることができない状態が続いています。