三角保合相場が煮詰まってきた

7月11日のレポート「大荒れのドル/円相場にどう対処するか?」で、「ドル/円相場は<ジグザク・フラット・三角形>といった形状の保合(もちあい)日柄調整相場になるのではないかと筆者は考えている」と述べたが、その後現在に至るまでドル/円相場は三角保合相場が続いている。

こういった局面では順張り(トレンド・フォロー)取引は機能しにくく、買ったところが天井、売ったところが底になってしまうという危険性を指摘したが、実際、ドル/円相場はトレンドレスな迷走を続けていると言ってもよいだろう。

同日のレポートで、トレンドのない相場に対応するにはストキャスティクス(パラメータ5.3.3)の80%超や20%以下の相場には乗らない(追随しないで手仕舞う)ことを推奨したが、筆者はストキャスティクスのシグナルや形状をみながら7月以降「逆張り」を続けている。

皆があがると言っている時に売り、皆が下がると言っている時に買うわけだから、この逆張り手法は疲れる。同時に保合ブレイク(トレンド発生)の恐怖もあり緊張を強いられる。これらのストレスを回避するには、ストップ・ロス注文を置いておくしかない。全ての逆張り取引がうまくいくわけではないが、現在の相場に対する筆者なりの悪戦苦闘である。

ドル/円(日足) 三角保合が煮詰まってきた

上段:支持・抵抗線
下段:ストキャスティクス5.3.3


(出所:石原順)

ドル/円(日足) 7月以降大きなトレンドは発生していない

上段:14日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド1シグマ(緑)


(出所:石原順)

8月15日のレポート「ドル/円相場は9月にレンジブレイクか?」で指摘したように、9月相場は三角保合の支持線・抵抗線のいずれかをブレイクするだろう。

ブレイクが起きれば相場が大きく動くのがセオリーだが、そうならない可能性もある。相場が下がると、日経平均には日銀の買い、ドル/円には年金買い(あるいは買いオーダーの噂)といったPKO(プライス・キーピング・オペレーション)が乱発されているからだ。

日経平均(日足)支持・抵抗線 PKOが入り大きな下げは回避されている


(出所:石原順)

日本の当局によるPKOには海外ファンドも辟易している。「PKOが入り値幅での調整とならないので、ダラダラとした日柄調整相場が続く。三角保合をブレイクしてもドル/円は95円~102円程度のレンジ相場に移行するだけではないのか?」と、値幅が拡がったレンジ相場が継続されると予測するファンドも多い。

余談だが、郵貯や年金などの公的資金を信託銀行に委託して株式を購入するというオペレーションは、1992年に宮沢喜一内閣が始めた危機先送り手法だ。日本株が20年間もジリ貧相場を続けたのはPKOで相場の下落を人工的に止めたことが原因の1つである。

シリア情勢より新興国危機やFRB議長人事が問題?

エジプトの問題をみてもわかるように中東情勢が不安定なのは今に始まったことではない。株が上げているときには悪材料は無視される。シリア情勢が大きくクローズアップされているのは、世界的に株が軟調局面だからである。

NYダウ(日足) 売りトレンド継続中

上段:14日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド1シグマ(緑)


(出所:石原順)

米英連合が早ければ8月29日にシリアを空爆すると報道されている。FTの報道をみると、英国はシリア攻撃に積極的であり、攻撃が行われる可能性は小さくない。ただし、攻撃が行なわれたとしても、トマホークやステルス機を使った短期戦で終るだろう。

シリア情勢は軽視すべきではないが、ファンド勢が気を揉んでいるのは新興国危機と新FRB議長人事の方である。米国は毎年夏休みの終わりを告げるレーバーデー(9月2日)明けから動きが出てくるが、オバマ大統領は早ければ9月1週目(遅くても9月中)にFRB議長を指名すると噂されている。オバマ大統領はサマーズを指名するとの報道が多いが、敵の多いサマーズが指名された場合は上院の承認が難航することは必至だろう。「米雇用統計前のFRB議長指名は勘弁して欲しい」というのが投機筋の本音だ。

金融規制緩和によって金融ビジネスを「なんでもあり・やったもの勝ち」の世界に堕落させ、その結果リーマンショックが起きたというのが、今日のサマーズとグリーンスパンに対する評価である。

それでも、ウィリアム・コーハンが8月19日のブルームバーグのコラムで「サマーズ対イエレンの議論は、数十年間続いてきた<ザ・クラブ>に所属するインサイダーと、そこから除外されているアウトサイダーとの主導権争いの一例に過ぎない。ワシントンの有力者、ルービン氏と長らく友人関係にあるおかげで、サマーズ氏はクラブの創立会員だ。オバマ大統領の経済顧問はほぼ全員、ルービン氏の信奉者だ」と述べているように、オバマ大統領はサマーズを指名したいようだ。何度も言うが、筆者が見る限りオバマ政権はクリントン政権のコピーなのである。

バーナンキの量的緩和政策で米国株は7割も上昇したのに人気の上がらないオバマ大統領は、量的緩和よりもサマーズの「本国投資法」政策を高く買っている。仮にサマーズが新FRB議長になれば、「輸出倍増」から「内需主導」へ、その結果としてのドル安からドル高への転換は確実だろう。

クリントン政権とオバマ政権のドルインデックス(月足)

サマーズなら本国投資法による「強いドル」政策への転換は確実?
1期目はドル安政策・2期目はドル高政策?(1期目=黄色・2期目=緑色のゾーン)


(出所:石原順)

深刻な事態となっているのは新興国の経済だ。世界的な景気停滞のなかでドル高や米金利高が進行すると、新興国危機が起こりやすいことを筆者は指摘してきたが、今まさに新興国危機が起きている。米国の「QE縮小観測」とアベノミクスによる円安という「近隣窮乏化政策」が重なっている時期なので、アジアを初めとする新興国経済の動向には今しばらく注意が必要だ。

インドSENSEX指数(左)とドル/インドルピー(右)の日足

上段:26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド1シグマ(緑)


(出所:石原順)

ジャカルタ総合指数(左)とドル/インドネシアルピー(右)の日足

上段:26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド1シグマ(緑)


(出所:石原順)

9月相場は9月6日の米雇用統計・9月18日のFOMC(初回の緩和縮小規模は100~150億ドル程度か?)・米財政問題の審議・9月8日の五輪開催国決定(決選投票ではマドリードが優勢か?)・9月9日の日本のGDP改定値・9月22日の独連邦選挙などイベントが目白押しで、結果もどうなるかわからない。乱高下しそうな予感がする。

消費増税はどうなる? 円高・株安に対する保険は黒田バズーカ第二弾か…

ここにきて市場の一部で、「さんざん迷ったあげく消費税が1年延期されるのではないか?」という観測が出ている。9月9日のGDP改定値が下方修正されれば「延期派」は勢いづく。甘利明経済財政担当相が8月25日に「10月1日に公表される9月日銀短観が消費増税の実施の是非を最終判断する際の最後の材料になってきそうだ」との見方を示したことから、消費増税の決定はさらに後ズレし、10月初旬に決定される模様だ。

8月初旬から中旬までの円高・日本株安は、消費増税に消極姿勢をみせた安倍政権に対する一部米系ファンドの売り仕掛け(改革先送りに対する牽制)であったと言われている。筆者は財務相の悲願である消費増税の「延期はない」とみているが、仮に消費増税が延期された場合は市場の反応に注意が必要だろう。

アベノミクスは米国の出口戦略の補完装置である。安倍政権にコケてもらっては出口に向っている米国も困る。日本の株式市場は相変わらず「円安と金融政策頼み」のなか、秋以降は日銀による黒田バズーカ第2弾や財政出動が出てくるだろう。いずれにせよ、消費増税の決定は10月以降の話だ。10月に日本株やドル/円の大きな押しがあれば、そこは買い場となるだろう。

月別のドル/円の動き

<71年9月から2013年7月までの503カ月間(約42年間)について、ドル/円の4本値(始値、高値、安値、終値)を調べ、月間の変動パターンを始値を100としてグラフ化>


(出所:石原順)

月別の日経平均の動き

<71年9月から2013年7月までの503カ月間(約42年間)について、ドル/円の4本値(始値、高値、安値、終値)を調べ、月間の変動パターンを始値を100としてグラフ化>


(出所:石原順)