中部電力の業績推移

 中部電力は4月28日、2022年3月期の決算を発表しました。通常だと決算発表と同時に新年度(2023年3月期)の業績見通しを発表するのですが、今回は発表しませんでした。ロシアのウクライナ侵攻の影響などにより、業績見通しの前提となる資源価格や卸電力取引市場価格の動向が現時点で不透明で、電力販売・調達などに与える影響を見通せないことが、業績見通しを未定としている理由です。

 同社の2016年3月期以降の業績と今期業績(市場予想)は以下の通りです。

中部電力の業績推移:2016年3月期~2023年3月期(市場予想)

 それでは、前期(2022年3月期)の決算、続いて今期(2023年3月期)の業績予想を解説します。電力会社は原則赤字に転落しないのに、一時的要因によって赤字に転落したのが前期でした。

【1】期ずれの影響で赤字に転落した2022年3月期

 電力会社は電力供給という社会全体にとってきわめて重要な公共サービスを提供しています。したがって、燃料費など変動費上昇によって業績が悪化してサービス提供(電力供給)に支障が生じることがないように、料金が決まる仕組みが導入されています。つまり、ある程度の地域独占が認められた上で、電力料金は「コスト+α」で決まる仕組みとなっています。一定の利ザヤが確保できるようになっています。

 ところが、コスト(燃料価格)上昇に対応して電力料金が変わるのに一定のタイムラグがあります。そのため、燃料価格が急騰した時は、一時的に業績が悪化します。それが前期(2022年3月期)です。前期は、燃料価格の急騰に料金引き上げが追い付かず、593億円の経常赤字に転落しました。

 燃料価格急騰に料金引き上げが追い付かず、一時的に損益が悪化する影響を、中部電力は「期ずれ」と呼んでいます。同社分析によると、期ずれの影響で、前期の経常損益は1,260億円押し下げられています。期ずれの影響がなければ、前期の経常損益は670億円程度の黒字だったことになります。

 期ずれの影響が逆に出たのが、経常最高益を挙げた2016年3月期です。燃料価格の急落に、料金引き下げがおいついていなかったことで、一時的に利益が拡大しました。

【2】新しい収益認識基準の適用で2022年3月期は見かけ上大幅減収

 前期の売上高にも、特殊要因が働いています。日本の会計基準で、新しい収益認識基準が適用されたことです。同社分析によると、会計基準変更の影響で前期売上高は6,048億円低下しています。基準変更がなければ、前期の売上高は3兆3,099億円で3,745億円の増収だったことになります。

【3】2023年3月期は、期ずれの影響がなくなれば黒字転換へ

 2年連続で燃料価格が急騰し続けなければ、料金引き上げが追い付くので、今期の経常損益は黒字転換します。燃料価格は今期も高止まりすると私は予想していますが、ここからさらに急騰するとは考えていません。そうなると前期の期ずれはなくなります。その効果だけでも今期の経常損益は670億円程度の黒字に改善します。それにコストカットなどの効果も合わせ、808億円程度の経常損益に改善するとの市場予想は妥当だと考えます。

 中部電力の今期予想PERは、市場予想ベースで13.7倍です。また、予想配当利回りは、先に述べた通り、会社予想ベースで3.7%です(同社は業績予想未公表だが配当予想は開示)。株価は割安であり、高配当利回り株として保有していくのにふさわしいと判断しています。

 電力株の投資判断は、以上です。ここから先は、未来のエネルギー循環社会を作るために何が必要か、私見を書きます。