電力株への投資を避けるべきとこれまで考えてきた理由

 それでは、これまで電力9社すべて投資すべきでないと判断してきた理由を説明します。その理由は、核燃料サイクル事業の成否と、使用済み核燃料の処分にかかる問題です。

 原発を運営するコスト・廃炉コストとも、安全基準の強化によって、世界的に年々高くなっています。それでも、日本の電力各社は地道な努力を続け、原発の安全性強化に取り組んできました。

 それでもなお、残る大きな問題があります。核燃料サイクル事業が実現不可であることが判明した場合の、財務および収益に及ぼす影響です。日本ではまだ、核燃料サイクル事業が将来実現することを前提として、原発事業が運営されています。そのため、使用済み核燃料の最終処分についての議論が進んでいません。世界を見渡すと、ほとんどの国で核燃料サイクルは実現不可能と考えられ、使用済み核燃料は何らかの方法で最終処分が必要と考えられています。日本は核燃料サイクルが実現可能との考えを公式に変えていませんが、実現は困難と判断せざるを得ない状況に陥っています。

 核燃料サイクル事業について説明しないまま、話を進めていましたので、ここで説明します。
核燃料サイクルとは、使用済み核燃料を再生して燃料を作り、何度も再利用することです。最初にプルトニウムとウランを混ぜた混合酸化物(MOX)燃料を作り、通常の原子炉で発電に再利用します。これをプルサーマル発電といいます。

 さらに、そこから得られるプルトニウムを使って、高速増殖炉で発電を行う計画です。高速増殖炉では、使用するプルトニウムを上回る量のプルトニウムが得られ、何度も発電を繰り返すことができる、とされてきました。

 夢のような核燃料サイクルが実現することを前提としているため、日本の電力会社は、使用済核燃料を資産として計上しています。使用済み核燃料はプルサーマル発電や高速増殖炉で新たに発電を行うための資源という扱いです。

 ところが、日本の核燃料サイクル事業は、現時点でまだ何も実現していません。最近、核燃料サイクル事業は安全性が確保できず、実現不可能との見方が強まっています。使用済燃料から未使用のウランやプルトニウムを取り出してMOX燃料に加工する予定であった青森県六ヶ所村の再処理工場は技術上の問題が次々と出て完成していません。

 高速増殖炉の開発も進んでいません。再処理したプルトニウムで動くはずだった高速増殖炉「もんじゅ」は1995年にナトリウム漏えい事故を起こして以来、稼働が停止したまま、廃炉が決定しました。欧米でも技術的な困難と経済性から、高速増殖炉の開発を断念する国が増えています。

 今の日本は、技術的にまったく完成のメドがたっていない核燃料サイクルが実現することを前提に原発事業を推進しています。核燃料サイクルが実現することを前提に原価を計算するので、原発は低コスト発電で、再稼動が電力会社の財務を改善するとされています。

 ところが、日本政府が核燃料サイクルを断念する場合、国内に積み上がった使用済み核燃料は、最終処分に莫大なコストがかかる「核のゴミ」に変わります。そうなると、原発はコストの高い発電となります。既に大量に抱えている使用済み核燃料の最終処分コスト負担によって、電力会社の財務が悪化する懸念もあります。

<参考資料>使用済み核燃料の処分方法(核燃料サイクルを行う場合と、行わない場合)

<図A>核燃料サイクルを行わない場合:使用済み核燃料を直接処分

<図B>核燃料サイクルを行う場合:プルサーマル発電まで

<図C>核燃料サイクルを行う場合:高速増殖炉まで

 あくまでも私見ですが、日本も公式に核燃料サイクルが実現不可能であることを認めた上で、使用済み核燃料の最終処分方法を議論する必要があります。従来のように地下300メートル程度の地点に処分するのではなく、深度1,000~5,000メートルへの処分についても研究を進める必要があると考えています。発想を転換して、再利用を前提とせずに処分するならば、低コストの処分方法が見つかる可能性もあると思います。ただし、その議論はまだ進んでいません。

 処分しなければならないのは、使用済み核燃料だけではありません。核燃料サイクルが実現不可能と認めると、プルトニウムの処分問題も生じます。日米原子力協定によって、日本は例外的にプルトニウムの大量保有を認められています。ところが核燃料サイクルが実現不可能と表明するとそれが認められなくなるので、その処分に苦慮することになるでしょう。核燃料サイクルを否定した時に起こる諸問題も、詳しく説明すると長文となり過ぎるので、詳細は別の機会にします。

 このように原発事業について、不透明材料が残っていることを考えると、現時点で電力会社への投資は中部電力に絞った方が良いと思います。

 ただし、将来いつの日か原発事業のリスクから解放されれば、日本の電力会社全てを高く評価できるようになります。日本の高い送配電技術は注目に値します。日本は送配電ロスが5%しかない高効率の送配電網を維持しているからです。

 送配電だけでなく、発電でも世界トップとなる技術を数多く有します。日本が持つ高い発送電技術は、新興国に輸出していく価値があります。原発事故がなければ東京電力は海外でのビジネスをもっと拡大させていたと思います。

 ところが、原発事業のリスクに縛られて、日本の電力各社は財務も収益も痛み、思うように海外での事業展開ができなくなってしまいました。とても、残念なことです。