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著者の窪田真之が解説しています。以下のリンクよりご視聴ください。
【日本株】中部電力の投資判断 AVOID(見送り)からHOLD(保有継続)へ​

中部電力から選別的に投資して良いと判断

 中部電力について書く前に、電力業界全体への考え方を書きます。電力株の投資判断をする際に避けて通れないのは、原子力発電(原発)事業のリスクについて考えることです。これまで電力9社について私は、Avoid(投資は見送り)の判断を継続してきました。電力9社とは、原発を保有する9社【注】、すなわち、東京電力HD(9501)中部電力(9502)関西電力(9503)中国電力(9504)北陸電力(9505)東北電力(9506)四国電力(9507)九州電力(9508)北海道電力(9509)のことです。

【注】電力9社
沖縄電力(9511)は原発非保有なので、この9社に含まれません。沖縄電力は今日のレポートでの投資判断の対象外とします

 再稼働できないまま原発を保有し続けるコストが高いこと、使用済み核燃料の最終処分方法が決まっていないことが、電力9社に投資しない方が良いと考えてきた理由です。詳しくは後段で説明します。

 今回、中部電力の投資判断を引き上げるのは、私が考える原発再稼働の条件が一部整いつつあると考えるからです。原発再稼働の条件として、私が過去のレポートに記載しているのは以下3つです。

原発を脱炭素の選択肢に入れるために必要と考える条件

【1】十分な安全性を確保する
【2】核燃料サイクルが実現不可能であることを公式に認める
【3】使用済み核燃料の最終処分場を確保する(深度1,000~5,000メートルの地中埋蔵も選択肢)

 中部電力の浜岡原発は【1】の条件を満たしつつあると考えています(あくまでも私見)。【2】【3】についてまだ議論が始まっていませんが、いずれ世界的に議論が始まり、なんらかの結論が出ることになると予想しています。

 原発事業が将来的にどうなるか現時点で見通すことは困難です。ただし、以下で述べる環境変化により、原発が見直される可能性が少し出てきたことを勘案し、電力株の投資判断を変更することとしました。電力株への投資を少しだけ再開しても良いと考えました。

 財務・収益基盤・安全対策進展などを考慮した上で、電力株では中部電力から選別的に投資していって良いと考えました。中部電力の予想配当利回りは、5月10日時点で3.7%です(同社の2023年3月期1株当たり配当金(会社予想)50円を、5月10日の株価1,345円で割って算出)。高配当利回り株として長期保有していく価値があると判断します。

原発見直しの機運

 安定的な電力供給を確保することは、国民生活にとっても日本経済にとっても非常に重要です。もちろん日本だけでなく人類全てにとって重要です。ところが、その安定的な電力供給が2つの環境変化によって脅かされています。

【1】「脱炭素」、特に「脱石炭」

 サステナブル(持続可能)な地球環境を守るために「脱炭素」を進めることが、人類全体にとって重要課題となりました。化石燃料の使用を今すぐ全廃するのは不可能ですが、環境負荷の大きい「石炭火力発電」から廃止の動きが加速しています。

 ところが、世界全体では石炭火力への依存が3割程度あり、急速に脱石炭を進めると電力供給に支障を来します。中国・インドなど新興国で石炭火力発電への依存が6~7割と高いことが問題です。日本も、先進国の中では石炭火力への依存が高い方で、電源の約3割を依存しています。

【2】「脱ロシア」、エネルギー安全保障の確保

 ロシアのウクライナ侵攻を受け、天然ガスや原油のロシア依存度を低下させる必要が生じています。ロシアへのエネルギー依存が高い欧州は苦境にたたされています。日本は欧州ほどロシア依存が高くありませんが、それでも原発がほとんど稼働していない現状で電源確保に苦労する可能性があります。

 脱石炭、脱ロシアを同時に進めると、日本で電力供給が急速に不安定になるリスクがあります。自然エネルギーを拡大する取り組みが進んでいますが、とてもカバーできません。エネルギー安全保障を確保するために、化石燃料でも自然エネルギーでもない第3の電源が必要になりつつあります。その候補に原発が挙がる可能性はあります。福島の原発事故を教訓に、安全性を徹底的に強化した原発から再稼働を検討する必要が生じる可能性があると思います。中部電力の浜岡原発などがその候補に入ると予想しています。

 私は東日本大震災で事故を起こさなかった東北電力の女川原発を調査した経験から、安全性確保にどういう条件が必要か独自の判断基準を持っています。浜岡原発はその条件を満たしていると考えています。その根拠を詳しく書くと長文になり過ぎるので、別の機会に説明します。

電力株への投資を避けるべきとこれまで考えてきた理由

 それでは、これまで電力9社すべて投資すべきでないと判断してきた理由を説明します。その理由は、核燃料サイクル事業の成否と、使用済み核燃料の処分にかかる問題です。

 原発を運営するコスト・廃炉コストとも、安全基準の強化によって、世界的に年々高くなっています。それでも、日本の電力各社は地道な努力を続け、原発の安全性強化に取り組んできました。

 それでもなお、残る大きな問題があります。核燃料サイクル事業が実現不可であることが判明した場合の、財務および収益に及ぼす影響です。日本ではまだ、核燃料サイクル事業が将来実現することを前提として、原発事業が運営されています。そのため、使用済み核燃料の最終処分についての議論が進んでいません。世界を見渡すと、ほとんどの国で核燃料サイクルは実現不可能と考えられ、使用済み核燃料は何らかの方法で最終処分が必要と考えられています。日本は核燃料サイクルが実現可能との考えを公式に変えていませんが、実現は困難と判断せざるを得ない状況に陥っています。

 核燃料サイクル事業について説明しないまま、話を進めていましたので、ここで説明します。
核燃料サイクルとは、使用済み核燃料を再生して燃料を作り、何度も再利用することです。最初にプルトニウムとウランを混ぜた混合酸化物(MOX)燃料を作り、通常の原子炉で発電に再利用します。これをプルサーマル発電といいます。

 さらに、そこから得られるプルトニウムを使って、高速増殖炉で発電を行う計画です。高速増殖炉では、使用するプルトニウムを上回る量のプルトニウムが得られ、何度も発電を繰り返すことができる、とされてきました。

 夢のような核燃料サイクルが実現することを前提としているため、日本の電力会社は、使用済核燃料を資産として計上しています。使用済み核燃料はプルサーマル発電や高速増殖炉で新たに発電を行うための資源という扱いです。

 ところが、日本の核燃料サイクル事業は、現時点でまだ何も実現していません。最近、核燃料サイクル事業は安全性が確保できず、実現不可能との見方が強まっています。使用済燃料から未使用のウランやプルトニウムを取り出してMOX燃料に加工する予定であった青森県六ヶ所村の再処理工場は技術上の問題が次々と出て完成していません。

 高速増殖炉の開発も進んでいません。再処理したプルトニウムで動くはずだった高速増殖炉「もんじゅ」は1995年にナトリウム漏えい事故を起こして以来、稼働が停止したまま、廃炉が決定しました。欧米でも技術的な困難と経済性から、高速増殖炉の開発を断念する国が増えています。

 今の日本は、技術的にまったく完成のメドがたっていない核燃料サイクルが実現することを前提に原発事業を推進しています。核燃料サイクルが実現することを前提に原価を計算するので、原発は低コスト発電で、再稼動が電力会社の財務を改善するとされています。

 ところが、日本政府が核燃料サイクルを断念する場合、国内に積み上がった使用済み核燃料は、最終処分に莫大なコストがかかる「核のゴミ」に変わります。そうなると、原発はコストの高い発電となります。既に大量に抱えている使用済み核燃料の最終処分コスト負担によって、電力会社の財務が悪化する懸念もあります。

<参考資料>使用済み核燃料の処分方法(核燃料サイクルを行う場合と、行わない場合)

<図A>核燃料サイクルを行わない場合:使用済み核燃料を直接処分

<図B>核燃料サイクルを行う場合:プルサーマル発電まで

<図C>核燃料サイクルを行う場合:高速増殖炉まで

 あくまでも私見ですが、日本も公式に核燃料サイクルが実現不可能であることを認めた上で、使用済み核燃料の最終処分方法を議論する必要があります。従来のように地下300メートル程度の地点に処分するのではなく、深度1,000~5,000メートルへの処分についても研究を進める必要があると考えています。発想を転換して、再利用を前提とせずに処分するならば、低コストの処分方法が見つかる可能性もあると思います。ただし、その議論はまだ進んでいません。

 処分しなければならないのは、使用済み核燃料だけではありません。核燃料サイクルが実現不可能と認めると、プルトニウムの処分問題も生じます。日米原子力協定によって、日本は例外的にプルトニウムの大量保有を認められています。ところが核燃料サイクルが実現不可能と表明するとそれが認められなくなるので、その処分に苦慮することになるでしょう。核燃料サイクルを否定した時に起こる諸問題も、詳しく説明すると長文となり過ぎるので、詳細は別の機会にします。

 このように原発事業について、不透明材料が残っていることを考えると、現時点で電力会社への投資は中部電力に絞った方が良いと思います。

 ただし、将来いつの日か原発事業のリスクから解放されれば、日本の電力会社全てを高く評価できるようになります。日本の高い送配電技術は注目に値します。日本は送配電ロスが5%しかない高効率の送配電網を維持しているからです。

 送配電だけでなく、発電でも世界トップとなる技術を数多く有します。日本が持つ高い発送電技術は、新興国に輸出していく価値があります。原発事故がなければ東京電力は海外でのビジネスをもっと拡大させていたと思います。

 ところが、原発事業のリスクに縛られて、日本の電力各社は財務も収益も痛み、思うように海外での事業展開ができなくなってしまいました。とても、残念なことです。

中部電力の業績推移

 中部電力は4月28日、2022年3月期の決算を発表しました。通常だと決算発表と同時に新年度(2023年3月期)の業績見通しを発表するのですが、今回は発表しませんでした。ロシアのウクライナ侵攻の影響などにより、業績見通しの前提となる資源価格や卸電力取引市場価格の動向が現時点で不透明で、電力販売・調達などに与える影響を見通せないことが、業績見通しを未定としている理由です。

 同社の2016年3月期以降の業績と今期業績(市場予想)は以下の通りです。

中部電力の業績推移:2016年3月期~2023年3月期(市場予想)

 それでは、前期(2022年3月期)の決算、続いて今期(2023年3月期)の業績予想を解説します。電力会社は原則赤字に転落しないのに、一時的要因によって赤字に転落したのが前期でした。

【1】期ずれの影響で赤字に転落した2022年3月期

 電力会社は電力供給という社会全体にとってきわめて重要な公共サービスを提供しています。したがって、燃料費など変動費上昇によって業績が悪化してサービス提供(電力供給)に支障が生じることがないように、料金が決まる仕組みが導入されています。つまり、ある程度の地域独占が認められた上で、電力料金は「コスト+α」で決まる仕組みとなっています。一定の利ザヤが確保できるようになっています。

 ところが、コスト(燃料価格)上昇に対応して電力料金が変わるのに一定のタイムラグがあります。そのため、燃料価格が急騰した時は、一時的に業績が悪化します。それが前期(2022年3月期)です。前期は、燃料価格の急騰に料金引き上げが追い付かず、593億円の経常赤字に転落しました。

 燃料価格急騰に料金引き上げが追い付かず、一時的に損益が悪化する影響を、中部電力は「期ずれ」と呼んでいます。同社分析によると、期ずれの影響で、前期の経常損益は1,260億円押し下げられています。期ずれの影響がなければ、前期の経常損益は670億円程度の黒字だったことになります。

 期ずれの影響が逆に出たのが、経常最高益を挙げた2016年3月期です。燃料価格の急落に、料金引き下げがおいついていなかったことで、一時的に利益が拡大しました。

【2】新しい収益認識基準の適用で2022年3月期は見かけ上大幅減収

 前期の売上高にも、特殊要因が働いています。日本の会計基準で、新しい収益認識基準が適用されたことです。同社分析によると、会計基準変更の影響で前期売上高は6,048億円低下しています。基準変更がなければ、前期の売上高は3兆3,099億円で3,745億円の増収だったことになります。

【3】2023年3月期は、期ずれの影響がなくなれば黒字転換へ

 2年連続で燃料価格が急騰し続けなければ、料金引き上げが追い付くので、今期の経常損益は黒字転換します。燃料価格は今期も高止まりすると私は予想していますが、ここからさらに急騰するとは考えていません。そうなると前期の期ずれはなくなります。その効果だけでも今期の経常損益は670億円程度の黒字に改善します。それにコストカットなどの効果も合わせ、808億円程度の経常損益に改善するとの市場予想は妥当だと考えます。

 中部電力の今期予想PERは、市場予想ベースで13.7倍です。また、予想配当利回りは、先に述べた通り、会社予想ベースで3.7%です(同社は業績予想未公表だが配当予想は開示)。株価は割安であり、高配当利回り株として保有していくのにふさわしいと判断しています。

 電力株の投資判断は、以上です。ここから先は、未来のエネルギー循環社会を作るために何が必要か、私見を書きます。

未来のエネルギー源として、人類は何に頼ったら良いか?

 人類は今、主要なエネルギー源を、化石燃料(原油・天然ガス・石炭)に依存しています。ところが、今のペースで化石燃料を使い続けたら、数百年以内に、資源が枯渇する可能性があります。そのために、代替エネルギーの開発が必要となっています。

 主要な代替エネルギー源として、以下3つがあります。

【1】太陽由来のエネルギーを活用
【2】地球内部にあるエネルギーを活用
【3】核エネルギーを活用

 【1】【2】【3】のどれ1つとっても、人間がとても使いきれない莫大なエネルギー量があります。それを人間が使いやすい電気に上手く変えれば良いわけです。ただし、コスト・利便性・安全性すべてを満たし、化石燃料にとって代わることのできる方法が、現時点で見つかっていません。結果的に、化石燃料への依存が続いています。

「エネルギー循環社会」を実現するために越えなければならないハードル

 克服しなければならないハードルは、以下の通りです。

【1】太陽由来のエネルギー活用:地球上に広く薄く拡散しているため、それを集めて効率良く発電する方法を見つけるのが簡単ではない。
【2】地球内部のエネルギー活用:地下深くに熱源が存在するため、そこまで水を送り込んで水蒸気に変えて発電タービンを回すのは簡単でない。
【3】核エネルギーを活用:使用済み燃料の最終処分方法が決まっていない。

 以下、それぞれ簡単に現状を説明します。

【1】太陽由来のエネルギーを活用

 太陽光・風力・水力・潮力などのいわゆる自然エネルギーの活用が進められています。これらは全て、元をただすとほとんど太陽由来のエネルギーです。

 太陽から地球まで、毎日、人間が使いきれない莫大なエネルギーが届いています。そのエネルギーはほとんど地球に留まらず、宇宙に放出されます。このエネルギーのほんの一部だけでも上手く捕らえて人類が利用できるようにすれば、今あるエネルギー問題は全て解決します。

 ところが、太陽から来るエネルギーは、地球上に広く薄く拡散しているため、それを集めて効率良く発電する方法を見つけるのが簡単ではありません。太陽光発電や太陽熱発電は、太陽エネルギーを直接とらえる方法ですが、それだけではとても人類が使うエネルギーに足りません。

 そこで、太陽エネルギーによって生まれる風力・水力・潮力などを使って、大量の電力を得ることも必要になっています。水力を除けば、自然エネルギーを使った発電はこれまで高コストのものが多く、補助金なしには普及が進みませんでした。ところが、近年、技術革新によって急速にコストが低下しています。太陽光を使ったメガソーラーの一部は、補助金なしでも、競争力のある低コスト発電となってきています。

【2】地球内部のエネルギーを活用

 地球内部にも、人類が使いきれない莫大なエネルギーがあります。地球内部へ30キロメートルも掘り進むと、高温のマントルに突き当たります。そこから内側は非常に高温です。地球全体を見渡すと、温度が低いのは私たちが生活している地表(地殻)だけということがわかります。そのエネルギーをうまく活用することも必要です。

 地球内部のエネルギーで発電することにチャレンジしているのが、高温岩体発電です。地球上どこでも、平均すると地下10キロメートルまで掘れば、300℃くらいの高温帯に達します。そこへ水を送り込んで水蒸気に変え、その蒸気でタービンを回せば発電できます。ただし、そこまで深く掘り進んで、水を送り込むには大変なコストがかかります。現時点では、技術的にもコスト面でも、商業利用が可能な発電方法となっていません。

 地球内部のエネルギー活用で、すでに商業利用が可能な低コスト発電が、いわゆる「地熱発電」です。火山地帯などで、地下水が熱せられて水蒸気になり、地下2~3キロメートルの深さに閉じ込められている場所を、地熱資源と言います。そこから水蒸気を噴き出させ、その力を使って発電するのが、地熱発電です。良質の地熱資源が見つかれば、低コストの基盤電源として利用可能です。

 ただし、そのような地熱資源は、世界に遍在しています。日本・インドネシア・米国が、三大地熱資源国と言われています。良質な地熱資源は遍在しており、それだけ使っていても、人類が使うエネルギーは賄えません。

 将来的には、地球内部を20~30キロメートル掘り進む、高温岩体発電を主流にしていく必要があります。

【3】核エネルギー

 ウランから核エネルギーを取り出して発電するのが、原子力発電です。使用済み核燃料からプルトニウムを取り出して行う「プルトニウム発電」まで安全に行うことができれば、莫大なエネルギー量を確保できます。ただし、そこまでやると安全が担保できません。核エネルギーの利用は既存の原発に留め、そこで生じる使用済み核燃料は、地下深くに最終処分するのが現実的の可能性もあります。

 「エネルギー循環社会」を実現するまでに、ハードルはたくさんありますが、それでも私は、未来のエネルギー問題について、楽観的です。化石燃料が枯渇する前に、人類は太陽エネルギーや地球内部のエネルギーを積極的に活用する術を身に付けると、考えているからです。

 近年、代替エネルギーの開発が滞っていたのは、安価な化石燃料が大量に存在していたためです。ウクライナ危機によってエネルギー価格が急騰した今は、自然エネルギーの活用が進みやすくなったと考えています。