MMT(現代貨幣理論)時代の「新しい投資ルール」とは?

 長期的に成功する投資家にとってルールは重要だ。長年にわたりウォール街でストラテジストをつとめてきたボブ・ファレル氏は、バランスシートと収入よりも株価を分析することに重要性を見いだし、ファンダメンタルズ分析からテクニカル分析に転向し、感情を研究しつつ、市場心理学のパイオニアとなった人物だ。

 投資に関する彼の10のルールは、50年以上の時間をかけて強気の市場、弱気の市場、バブル、そして暴落に直面した個人的な経験に由来したものである。

ボブ・ファレルの10の投資ルール

出所:リアルインベストメントアドバイス

 しかし、ボブ・ファレルでさえ、過去これまでにないほどに膨らんだQEを経験したことはなかっただろう。QE時代には彼のルールは古いとみなされ、ルールも変容している。

 リアルインベストメントアドバイスの記事「Bob Farrell’s 10-Investing Rules For A “QE” Driven Market(QEが主導するマーケットにおけるボブ・ファレルの10の投資ルール)」から、「QE主導型の市場におけるルール」について、一部を抜粋してご紹介する。

1)市場は長期的な平均から逸脱したままである

 ボブは、最終的に株価は移動平均に修練されると考えていた。しかし、今や必要なのは、新鮮な「刺激」といくつかの「ロケット絵文字」だけ。それさえあれば、ブルマーケットに必要なすべての材料はそろっている。FRB(米連邦準備制度理事会)プットはマイナス面を制限することを保証するため、どんな落ち込みも「買い」の機会となっている。

2)一方向(上向き)の過剰はより多くの過剰につながる

 ボブの時代遅れの概念では、市場は上向きにも下向きにもオーバーシュートする可能性があることを指摘している。しかし、今やそれは明らかに間違っている。市場が上向きに振れば振れるほど、市場は上昇していく。低金利、過剰流動性、そしてモバイル取引アプリがあれば、株を買わない理由はない。

3)今回は違うはない–過剰が永続的であるため、今回は違う

 投機的な興味を引き出す「新しいもの」は常に存在する。過去500年間、チューリップの球根から鉄道、不動産からテクノロジー、新興市場から、商品、ビットコインに至るまで、あらゆるものが関係する投機的なバブルが発生した。金利が低い限り、FRBは流動性を提供する。株式市場は上がるのみだ。

4)急速に上昇している市場はあなたが思っている以上に高くなっているが、さらに高くなるが正解

 現在市場で見られているような過剰は、これまでの理論が示すよりもはるかに進んでいる可能性がある。ただし、この過剰は、横ばいで終わることはない。その代わりに、過度に高い価格はさらに上昇するだけである。

5)大衆はトップを購入し、さらに次のトップで購入する

 10年以上にわたりFRBが介入をしているため、投資家は、現在の「トップ」での購入は、次に来るさらに高いトップに比べてお買い得であると信じている。価格は上がるだけ、買い続ける必要がある。

6)恐れ(乗り遅れる)と欲はすべて重要だ

 感情は決定を曇らせ、長期計画に影響を与える。利益が投資家を活気づけ、幸福を高め、楽観主義を促進する一方、損失は悲しみ、嫌悪感、恐れ、後悔をもたらす。こうした恐れは、リスク感を高め、株を避けることで反応する人もいる。しかし、今や投資家が持つべき感情は2つだけ。1つは「FOMO(乗り遅れる恐怖)」、2つ目はグリードだ。今こそ借金を増やし、レバーを引きおろせ。

マージンデット(黒)とフリーキャッシュバランス

出所:リアルインベストメントアドバイス

7)FRBがシステムに流動性を注入している限り市場は最強

 値幅は重要だ。狭い範囲でのラリーは、参加者が限られていることを示しており、下落する可能性は平均を上回っている。ただし、投資家が見るべき必要があるのはFRBの動向だけだ。金融市場とFRBによる介入の相関関係は、市場をナビゲートするために必要な全てである。

FRBのバランスシートとS&P500の推移

出所:リアルインベストメントアドバイス

8)ベアマーケットには、アップ、アップ、アップの3つの段階がある

 ベア市場は存在しない。FRBは何兆ドルもの流動性を注入することによって市場の暴落を止めることを考えている。経済のロックダウンが行われる以前、私たちにはウーバーやリフト、またアマゾンの配達という3つの仕事しかなかった。

 しかし、今、私たちは家のソファに座って株を取引し、「TikTok」で動画を作成している。フォロワーが10万人に達すると、アフィリエイトマーケティングを行うことができるし、フォロワーにロビンフッドで取引してもらうことで収入を増やすこともできる。

9)すべての専門家が同意する場合–彼らが同意したことは何でも起こる可能性が高い

 古い時代の投資家はこんな格言を残している。

「誰もが楽観的だとしたら、どこに買う人が残されているのか?誰もが悲観的だとしたら、どこに売る人がいるのか?」

 QE(量的緩和)時代の今や、「どこに売りたい人がいるのか?」だろう。

10)ベア市場はもう起こらないので、ブル市場はもっと楽しい

 今では誰にでも明らかなことは、12年間の金融介入の後、「ベアマーケット」はもはや起こり得ないということだ。

バフェット指標は214%と2020年以降に爆上げ!金融資産の大膨張が起こっている

出所:gurufocus

*バフェット指標とは、株式の時価総額を名目GDP(国内総生産)で割り、100を掛けてパーセント表示にした数字で、一般に100%を上回れば株価は割高、下回れば割安と解釈される。 著名投資家のウォーレン・バフェットがこれを重視するとされていることから、バフェット指標と呼ばれている。

 ウォール街のすべてのルールと同様に、ボブ・ファレルのルールはシンプルだ。しかし、すべてのルールには常に例外があり、歴史が正確に繰り返されることはないものの、多くの場合、「韻を踏む」ことがある。

 それにもかかわらず、投資家がその時々の「欲」に押し流されるにつれて、こうしたルールは市場の過剰流動性の泡の中に流されていく。「QE時代にはQE時代の常識がある」と思った時点が、終わりの始まりなのかもしれない。