一過性というインフレが永久的な間違いにつながる…

 米国の消費者物価が跳ね上がっている。米労働省が13日に発表した9月の消費者物価指数(CPI)は、前年同月比の上昇率が5.4%と、2008年7月以来の最高を更新した。5カ月連続で5%以上に高止まりしている。

 変動の大きい食品とエネルギーを除くと上昇率は前年同月比で4.0%と、前月と変わらない水準であったが、世界的なサプライチェーンの混乱や異常気象などによって供給制約が起き、エネルギーを中心とした商品価格が上昇、物価に影響を及ぼしている。

CPIの推移

出所:米労働省HP

 CPIを項目別に見ると面白いことが浮かび上がってくる。個別に値上がりが目立つのは、エネルギー(41.7%)、中古車価格(24.4%)、そして肉、鶏肉、魚、卵などの食品価格(10.5%)である。全体のCPI(5.4%)からこの3項目を除くと、上昇率は2.7%にとどまる。

 つまり、中古車を購入する予定がなく、ビーガン(完全菜食主義者)であれば、なんとか3%未満のインフレにとどまっているということになる。FRBは、8月に開催したFOMC(米連邦公開市場委員会)において、2%の物価上昇率を目指す政策指針を修正した。

 新たな金融政策の目標として「当面の間は2%を上回るインフレ率を目指す」とした。喜ばしいことに目標は今のところ達成されている。

 次のグラフは、2000年以降のCPIにおける食品のインフレを示したものである。2000年から2013年にかけて、循環的な食品インフレがあった。

 循環的とされているのは、経済成長とともに上昇してきたからである。2014年から2020年にかけて、食品インフレは約2%前後を推移していた。

 現在の食品インフレは、先の2つとは異なり構造的なインフレだ。コロナウイルスのパンデミックによって経済が閉鎖されたことでサプライチェーンが一時的に停止を余儀なくされた。

 経済の再開に伴い、再びサプライチェーンは動き始めたものの、あらゆるところに歪みは残り、2021年5月に2.1%だった食品インフレはわずか4カ月で二桁台に上昇している。食品価格の高騰は消費者のインフレ期待に直接影響を及ぼす要因だ。

食料品価格の消費者物価指数

出所:DataTreck

 FRBはサプライチェーンの問題に直接対処することができない。米国の社会的風潮に便乗して“Woke”(覚醒)したFRBは、この食料インフレをどのように抑えていくのだろうか。

 FRB設立前の100年間に起きたインフレは、設立後の100年間に起きたインフレの半分に満たなかったのである。米国がインフレ(スタグフレーション)にならない保証はないだろう。