「私のキャリアの中で最もインフレ抑制の危機に瀕している」というラリー・サマーズの警鐘

 クリントン政権、オバマ政権において政府の要職を務めたハーバード大学のラリー・サマーズ教授は、国際金融研究所が主催するバーチャル会議で講演し、米国やその他の国の金融政策立案者が社会問題に注意を払いすぎており、1970年代以降のインフレに対する最大のリスクに十分注意を払っていないと警告した。

 サマーズは、いわゆる「進歩主義者」は、自分たちの美徳や、より大きな政府への依存をこれまで以上に誇示しようとしているが、それは元財務長官にとっては余計なことだろう。

 彼は、米国やその他の国の金融政策立案者が社会問題に注意を払いすぎており、1970年代以降のインフレに対する最大のリスクに十分注意を払っていないと警告した。

「自分たちがどれだけ社会的に関心を持っているかで自分たちの存在感を出そうとしている中央銀行家たちばかりだ」、「彼らは自分がどれだけ社会的に関心があるかで自分の存在感を出そうとしているのだ」、「米国では、私のキャリアの中で最もインフレ抑制の危機に瀕している」と、サマーズは語っている。

 サマーズは、現在の労働力不足が賃金を上昇させ、すでに新しいテナントの月々の家賃が、以前のテナントが支払っていた家賃よりも平均して17%上昇していることを説明し、「QE(量的緩和)の有害な副作用」が政策担当者に認識されていないと指摘した。

 人種の「公平性」や気候変動という"Woke"(覚醒)が大流行だが、FRBは専門である金融政策に集中するべきだ。

 緩和的な財政および金融政策は、今のところ労働者の収入のシェアを増やすのに役立つかもしれない。しかし、時間の経過とともに、同じ要因がより高いインフレまたはスタグフレーションを引き起こす可能性がある。

 インフレに対処するために非伝統的な政策を段階的に廃止し、政策金利を引き上げれば、大規模な債務危機と深刻な不況を引き起こすリスクがある。

 しかし、緩い金融政策を維持すれば、二桁台のインフレに陥り、次の負の供給ショックが発生したときに深いスタグフレーションに陥るリスクも高い。

 中央銀行は事実上独立性を失っており、債務危機を回避するために巨額の財政赤字をマネタイズするしかなくなっている。公的債務も民間債務も急増しており、債務の罠に陥っている。今後、インフレ率が上昇するにつれ、中央銀行はジレンマに直面する。

 QEではインフレにならなかったが、MMTという給付金経済をやれば、企業は生産しない。インフレを促すのは自明のことであろう。

 この過剰流動性相場の終わりのシグナルはインフレ(スタグフレーション)だ。株価が暴落するのは、スタグフレーションになったときである。

 そうなれば、中央銀行は利下げも量的緩和もできない。この先到来する景気後退期に、米国は追加緩和とMMTで対処せざるを得ないであろう。だが、それもインフレになったら不可能となる。

 資本主義社会というのは利益(プラス)の分配もするけれど負債(マイナス)の分配もするのである。株価の下落・増税・リストラ・賃金カットなどは負債の分配の過程であって最終段階ではない。

 古今東西、歴史が教えてくれることは、「膨大なマイナスの分配にはインフレが必要」なのだ。そして、いつもインフレの犠牲になるのは政府や企業でなく個人である。我々が資産運用をする究極の目的はインフレへのヘッジに他ならない。