米国の財務省・企業・家計が膨大な債務残高を抱えているため、インフレは悪い話ではない

 米国はQEインフィニティ(無限大介入)とMMT(現代貨幣理論)で、「資産バブルVSインフレ」の限界を確認する実験中である。FRBはもはや足抜けできない緩和中毒者。さらに拡大する以外に道はない。米国は財政出動と金融緩和の片道切符で、いけるところまでいくという作戦を実施中だ。仮にハイパーなインフレに見舞われようが、米国の財務省・企業・家計が膨大な債務残高を抱えているため、インフレは悪い話ではないのかもしれない。

「信用拡大は政府が市場経済と闘う第一手である」、「資本主義から計画経済に導くすべての歩みが必然的に専制・独裁に近づく歩みとなる」と、ルートヴィヒ・フォン・ミーゼスは述べたが、このMMT作戦が失敗すると、ジョージ・オーウェルの「1984的な監視社会」(AIデジタル共産主義)の方位に世界は動いていくだろう。

 ヘリコプターマネーは、中央銀行または政府が、対価を取らず、国債買い入れで財政資金を供給して、大量の貨幣を市中に供給する究極の経済政策。中銀のバランスシートは債務だけが増え、債務超過の状態になる。その結果、中央銀行や貨幣に対する信認が損なわれる可能性があるため、平時には行われない。

 マーク・ファーバーは、「超低金利と膨れ上がる中銀資産には大変な副作用がある。政府に際限なくおカネを使わせてしまうことだ。これこそまさにMMT派の要求していることのように見える。極端な仮説で経済がどのようになり得るか簡単に検討してみたい。政府が毎月全市民に小切手を渡したとしよう。誰も仕事をする必要がない。毎月小切手を使って株式投機で稼げるからだ。では、このシステムは、どれくらいの間、機能するだろうか?」と、MMTなるものに疑問を呈している。

 MMTでは必然的に、より良い世界(ただし私たち庶民よりもはるかに賢い学者様が計画した世界)を生もうとして、 短絡的な愚策が次々と考案される。 そして、取り返しのつかない大失敗がもたらされるだろう。今後、米国経済は政府支出(主に非生産的な無償の給付あるいは無益な戦争)とFRBの膨れ上がるバランスシートに完全に依存するようになる。

 現在のバブルでカンカン踊りを楽しむのはいいが、将来、どういう結末が訪れるのかを頭に入れておく必要がある。今だけカネだけ私だけの世の中ではあるが、不始末には後始末が待っている。MMTは歓迎され、誰も気にしていないが…。

過去40年の資産バブル

出所:ゼロヘッジ

 大衆は「みんなと同じ」だと感じることに苦痛を覚えないどころか、それを快楽として生きている存在だと、オルテガは指摘した。

【大衆は、急激な産業化や大量消費社会の波に洗われ、自らのコミュニティや足場となる場所を見失い、根無し草のように浮遊を続ける。他者の動向のみに細心の注意を払わずにはいられない大衆は、世界の複雑さや困難さに耐えられず、「みんなと違う人、みんなと同じように考えない人は、排除される危険性にさらされ」、差異や秀抜さは同質化の波に飲み込まれていく。こうした現象が高じて「一つの同質な大衆が公権力を牛耳り、反対党を押しつぶし、絶滅させて」いくところまで逢着するという】

NHKテレビテキスト「100分 de 名著」『オルテガ「大衆の反逆」』 2019年2月

 いずれにせよ、「個人の自由と自由市場」が、美辞麗句の“目的”を並べたてて同調圧力をかけてくる全体主義者たちに破壊される流れにある。

 ポピュリズムもバブルも悲劇しかもたらさない。西部邁氏によれば、大衆という人種は、「わかりやすい単純模型」に簡単に飛びつく愚かな人々である。大量の人間が飛びつくものに、ろくなものがあった試しがないのである。相場の世界では、流行とかブームに乗ると、最後にはしっぺ返しが待っている。

「人生はまことに短いから、命を賭すほどの最高の価値はなかなか見つからないかもしれないが、最高の価値を見つけることが一番好きだと構えてこその人間なんだから、それを見つけるべく暮らしなさい」と。(西部邁)