テスラの業績をも左右するビットコイン

 テスラ(TSLA)が2021年第1四半期の決算を発表した。売上高は103億8,900万ドル(前年同期比74%増)、営業利益は5億9,400万ドル(前年同期比110%増)と大幅な増収、増益を達成した。

 収益性についてのサマリーコメントとして次の記載がなされていた。

「前年比における販売数量の増加、規制クレジット収益の増加、さらなる製品コストの削減による粗利益の改善、また、ビットコインの売買によるプラスの影響(関連する減損を差し引いた1億100万ドルのプラスの影響)に支えられている」

テスラ(日足)

出所:石原順

テスラ(週足)

出所:石原順

 テスラはビットコインの売買を通じてこの四半期に1億ドルを超える収益を上げた。テスラは今年2月にビットコインを15億ドル購入したことを発表していたが、そのうち2億7,200万ドル相当を売却したことによるものである。ビットコインの保有を含め、この四半期末の「現金および現金同等物」は171億ドルと前年同期比112%増加している。もし、ビットコインの価格が大きく下落した場合、テスラの業績に部分的にではあるものの、影響を与えかねない。

 史上最高値をつけたビットコインは一転、下落局面に入りつつある。先週末にかけて急落したビットコインはいったん反発しているが、5万ドルを割り込むところもあり、基調としてはあまり強いとは言えない。

ビットコイン/ドル(日足)

出所:石原順

ビットコイン/ドル(週足)

出所:石原順

 グッゲンハイム・インベストメンツのCIO、スコット・マイナード氏がCNBCの番組に出演し、ビットコインの価格は「非常に泡立って」おり、短期的には「大幅な修正」が見られる可能性があると語った。暗号資産は2万ドルから3万ドルまで押し戻されるとする見方である。

 ビットコインは2020年に始まった壮大なラリーの中にあり、現在、年初からの上昇率は約90%にまで高まっている。テスラがビットコインに投資しているだけではなく、マスターカードは暗号資産による決済を加盟店が利用できるようにする他、ゴールドマン・サックスは富裕顧客向けにビットコインなどの暗号資産サービスを始めるなど、ビットコインなどの暗号資産が広く流通する素地は徐々に整えられつつある。

 マイナード氏はインタビューの中で、「1カ月の間に資産価格が2倍になると、後退する傾向がある。」と説明した。ただし、「ビットコインの興味深い点は、この種の減少が以前にも見られたことだ」と述べ、「長期的な強気相場とは何かにおける通常の進化」の一部であり、ビットコインの価格は最終的に1ユニットあたり40万ドルから60万ドルに達すると考えていると述べた。

 ビットコインの価格推移を予測するのは簡単ではない。地球環境への負荷を減らし、持続可能なエネルギー社会への移行を加速させることを目的とするテスラが、採掘するのに多大なエネルギーを必要とするビットコインに投資を行なっていることについての整合性はどう説明されるのであろうか。

カナダドルは金融政策の転換で強気相場入りか?

 前述のマイナード氏であるが、為替市場についてはドルを弱気に見ている。その理由として、FRB(米連邦準備制度理事会)による流動性向上を目的とした終わりのない債券購入プログラムを指摘した。主要通貨に対するドルの動きを示すドルインデックスは90前後まで落ち込んでいる。

ドルインデックス先物(日足)

出所:石原順

 2020年3月の暴落以降、ビットコインは上昇を続けている一方、ドルインデックスは下落の一途をたどっている。今年3月に米国の長期金利が上昇した際にドルは強含む場面もあったが、金利の動きが落ち着きを示したのに合わせ、ドルも低下傾向にある。

 そうした中、カナダでは、2022年後半にも金利の引き上げを開始する可能性があることが伝えられ、カナダドルは堅調な動きとなっている。シーズナリーから見てもカナダドルは4月下旬から上昇する傾向にある。

カナダドルのシーズナリー 4月から上昇基調に…

出所:エクイティクロック

 ドル/カナダドルとカナダドル/円は日足でカナダドル買いのシグナルが点灯している。

カナダドル/円(週足)順張りの標準偏差ボラティリティトレードモデル

出所:楽天MT4・石原順インディケーター

ドル/カナダドル(日足)順張りの標準偏差ボラティリティトレードモデル

出所:楽天MT4・石原順インディケーター

 米国とカナダの経済はいずれも力強く回復しており、回復状況はどちらかと言えば米国の方が勝っている。だが米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長は、量的緩和縮小(テーパリング)をいち早く決めたカナダ銀行(中央銀行)のマックレム総裁とは異なる政策運営の道筋を選びつつある。

 マックレム氏は、成長見通しの明るさが増したことで来年後半には需給ギャップが解消し、物価圧力が生じると想定してテーパリングに踏み切った。対照的にパウエル氏は、持続的な物価上昇局面が実現するのを待ち、これまで物価上昇率が目標の2%を下回って推移してきた状況を勘案して、今後しばらく2%を超えても容認しようとしている。

 こうした姿勢は、FRBが昨年打ち出した新たな金融政策運営の枠組みを実践していることを意味する。政策転換の要は、より積極的な雇用最大化の追求だ。FRBは長年にわたって十分な物価上昇を生み出すことに苦戦してきた経験から、もはや失業率の低下が自動的に賃金上昇に、そして物価上昇にはつながらないと見なしている。だからこの頑健な景気回復を利用して、米社会で最も不利な条件に置かれたグループの失業率までも押し下げる態勢を強化しているところなのだ。

「パウエルFRB議長が進める、前例なき金融政策運営」(ロンドン 27日 ロイター)

「40年前のレーガン政権は減税と小さな政府を柱とするサプライサイド経済学を唱えたが、バイデン政権の経済政策は「大きな政府」に方向転換する形となる」(29日 ブルームバーグ)と報道されているが、米国は「インフレ街道」へかじをきったということである。

米国の財務省・企業・家計が膨大な債務残高を抱えているため、インフレは悪い話ではない

 米国はQEインフィニティ(無限大介入)とMMT(現代貨幣理論)で、「資産バブルVSインフレ」の限界を確認する実験中である。FRBはもはや足抜けできない緩和中毒者。さらに拡大する以外に道はない。米国は財政出動と金融緩和の片道切符で、いけるところまでいくという作戦を実施中だ。仮にハイパーなインフレに見舞われようが、米国の財務省・企業・家計が膨大な債務残高を抱えているため、インフレは悪い話ではないのかもしれない。

「信用拡大は政府が市場経済と闘う第一手である」、「資本主義から計画経済に導くすべての歩みが必然的に専制・独裁に近づく歩みとなる」と、ルートヴィヒ・フォン・ミーゼスは述べたが、このMMT作戦が失敗すると、ジョージ・オーウェルの「1984的な監視社会」(AIデジタル共産主義)の方位に世界は動いていくだろう。

 ヘリコプターマネーは、中央銀行または政府が、対価を取らず、国債買い入れで財政資金を供給して、大量の貨幣を市中に供給する究極の経済政策。中銀のバランスシートは債務だけが増え、債務超過の状態になる。その結果、中央銀行や貨幣に対する信認が損なわれる可能性があるため、平時には行われない。

 マーク・ファーバーは、「超低金利と膨れ上がる中銀資産には大変な副作用がある。政府に際限なくおカネを使わせてしまうことだ。これこそまさにMMT派の要求していることのように見える。極端な仮説で経済がどのようになり得るか簡単に検討してみたい。政府が毎月全市民に小切手を渡したとしよう。誰も仕事をする必要がない。毎月小切手を使って株式投機で稼げるからだ。では、このシステムは、どれくらいの間、機能するだろうか?」と、MMTなるものに疑問を呈している。

 MMTでは必然的に、より良い世界(ただし私たち庶民よりもはるかに賢い学者様が計画した世界)を生もうとして、 短絡的な愚策が次々と考案される。 そして、取り返しのつかない大失敗がもたらされるだろう。今後、米国経済は政府支出(主に非生産的な無償の給付あるいは無益な戦争)とFRBの膨れ上がるバランスシートに完全に依存するようになる。

 現在のバブルでカンカン踊りを楽しむのはいいが、将来、どういう結末が訪れるのかを頭に入れておく必要がある。今だけカネだけ私だけの世の中ではあるが、不始末には後始末が待っている。MMTは歓迎され、誰も気にしていないが…。

過去40年の資産バブル

出所:ゼロヘッジ

 大衆は「みんなと同じ」だと感じることに苦痛を覚えないどころか、それを快楽として生きている存在だと、オルテガは指摘した。

【大衆は、急激な産業化や大量消費社会の波に洗われ、自らのコミュニティや足場となる場所を見失い、根無し草のように浮遊を続ける。他者の動向のみに細心の注意を払わずにはいられない大衆は、世界の複雑さや困難さに耐えられず、「みんなと違う人、みんなと同じように考えない人は、排除される危険性にさらされ」、差異や秀抜さは同質化の波に飲み込まれていく。こうした現象が高じて「一つの同質な大衆が公権力を牛耳り、反対党を押しつぶし、絶滅させて」いくところまで逢着するという】

NHKテレビテキスト「100分 de 名著」『オルテガ「大衆の反逆」』 2019年2月

 いずれにせよ、「個人の自由と自由市場」が、美辞麗句の“目的”を並べたてて同調圧力をかけてくる全体主義者たちに破壊される流れにある。

 ポピュリズムもバブルも悲劇しかもたらさない。西部邁氏によれば、大衆という人種は、「わかりやすい単純模型」に簡単に飛びつく愚かな人々である。大量の人間が飛びつくものに、ろくなものがあった試しがないのである。相場の世界では、流行とかブームに乗ると、最後にはしっぺ返しが待っている。

「人生はまことに短いから、命を賭すほどの最高の価値はなかなか見つからないかもしれないが、最高の価値を見つけることが一番好きだと構えてこその人間なんだから、それを見つけるべく暮らしなさい」と。(西部邁)

4月28日のラジオNIKKEI「楽天証券PRESENTS 先取りマーケットレビュー」

 4月28日のラジオNIKKEI「楽天証券PRESENTS 先取りマーケットレビュー」は、土居雅紹さん(楽天証券株式会社 常務執行役員)をゲストにお招きして、「黄金の180日間の終わりと秋までの戦略」・「注目の米国株は!?」というテーマで話をしてみた。ぜひ、ご覧ください。

4月28日の投資アイデア

出所:YouTube

 ラジオNIKKEIの番組ホームページから出演者の資料がダウンロードできるので、投資の参考にしていただきたい。

4月28日: 楽天証券PRESENTS 先取りマーケットレビュー

出所:YouTube

ゴールデンウイークの音楽番組、ラジコのタイムフリーでぜひお聞きください♪

 4月29日(木・祝)昭和の日にラジオNIKKEIで音楽番組が放送されました。ラジコのタイムフリーでぜひお聞きください♪

Music Voyage Anthology 『80’s POP ROCK』特集
出演:
楠雄治(楽天証券社長)
松﨑裕美(楽天証券広報)
津田麻莉奈(先取りマーケットレビューアシスタント)
石原順

Music Voyage Anthology 『矢沢永吉』特集
出演:
永倉弘昭(楽天証券 FX事業部長)
津田麻莉奈(先取りマーケットレビューアシスタント)

Music Voyage Anthology 『安室奈美恵 懐かしの隠れた名曲』特集
出演:
松﨑裕美(楽天証券広報)

『石原順の日々の泡』 音楽と出会った日
出演:
石原順
大里希世(先取りマーケットレビューアシスタント)