何かに左右されない考え方を持ち、道なき道を進むのが成功の秘訣

 欧米ではビジネスに哲学を活用する動きが増えているという。正解のない時代に突入し、多くの世界的企業が哲学コンサルティングを導入する動きが広がっている。

 企業内に専属の哲学者を抱える企業も出始めているという。グーグルやアップルは企業専属の哲学者をフルタイムで雇っている。こうした専属の哲学者は、CEOやCIOのようにCPO(Chief Philosophy Officer:最高哲学責任者)と呼ばれているそうだ。

 成功した起業家の中には哲学を学んだ人物も多く、その代表格はペイパルマフィアのドン、ピーター・ティールだ。彼はスタンフォード大学で著名な哲学者、ルネ・ジラールから教えを受け、多大な影響を受けた。

 ルネ・ジラールは「模倣と競争」を研究テーマとしていた哲学者であり、これがティールの投資と起業における哲学となっている。人間の行動は模倣に基づいており、そこから逃れることはできない。しかし、模倣は競争を生み、本来の目標や利益すらも置き去りにしてしまうというものである。

 つまり、争いのない独占市場を築くのが最も賢いビジネスであり、競争は負けの始まりであるというのが彼の思想だ。

 細やかな神経を持って、これまで誰もつくらなかった何かをつくることができれば、初めて持続的な価値が生まれ、勝者となる。「何かに左右されない考え方」を持ち、道なき道を選んでこそ、成功をおさめることができるという考えだ。

 投資に関しても王道の答えなどはない。巷にはウォーレン・バフェットの投資に関する記事や本があふれているが、そっくりそのまま真似をしたところで勝てるわけではない。誰もウォーレン・バフェットにはなることはできない。 

 マイケル・ルイスの「ビッグ・ショート」で一躍有名になった投資家のマイケル・バーリはウォーレン・バフェットを研究し、その結果、バフェットが投資家として驚異的な成功を収めた鍵は、ベンジャミン・グラハムから投資に関する教えを受け、影響を受けてきたが、その教えから離れようとするバフェットの意欲だと指摘している。

 ビジネスインサイダーの記事「ビッグ・ショートの投資家マイケル・バーリはウォーレン・バフェットを研究したが、彼のようには決してなれないし、自分自身のスタイルが必要であることに気づいた」でバーリは次のように語っている。

「ウォーレン・バフェットはベン・グラハムから学ぶメリットがあったが、ベンジャミン・グラハムを真似するのではなく、自分の道を歩み、自分のルールでお金を稼いだ。偉大な投資家になるつもりなら、あなたは自分が誰であるか、それにスタイルを適合させなければならない」

 バフェットは投資のタイミングや銘柄を見定めることについて「相談して決めようと思う時、私は鏡を見るんだ」、つまり答えは市場にはない。「なぜこの会社を買収するのかという題で1本の小論文を書けないなら、100株を買うこともやめた方がいい」と言っている。

 相場の世界においては、世間を眺めて判断していては正しい判断ができない。世間と「逆」が富を生み出すのである。

「チャンスと絵は少し離れて見たほうがよく見える」、「株は単純。みんなが恐怖におののいているときに買い、陶酔状態の時に恐怖を覚えて売ればいい」、「時代遅れになるような原則は、原則ではない」、「近視眼的(マイオピック)な投資では理性を失い、結果としてお金と時間を失う」、「リスクとは、自分が何をやっているかよくわからない時に起こるものだ」というウォーレン・バフェットの言葉を、我々は今一度考えなくてはいけない投資環境の中にいる。

 世代交代によってバークシャーの投資ストラテジーは変化しつつあるものの、バフェットの投資哲学は時代を経ても決して風化せず、我々に多くのヒントを与えてくれる道標になるであろう。

「変化に対応した者だけが生き残る」はダーウィンの進化論である。企業も生物同様、変わり続けることが重要だ。次世代が主体的な役割を担いつつある新生バークシャーからも目が離せない。

「人生の主な仕事とは、簡単に言えば、物事を区別し、分類することだ。どれが自分の力の及ばない外的なもので、それが自分の意志にかかっている選択なのかを、自分自身にはっきりと言えるようになること。ならば、善悪はどこに探せばよいのか?自分ではどうにもならない外的なものには、善も悪もない。自分自身の中、自分の選択の中に、それはあるのだ・・・・」

エピクロス『語録』