ウォーレン・バフェットは変節!?バークシャーもIPOへ投資!

 ウォーレン・バフェット率いるバークシャー・ハサウェイは3日、2021年の年次総会を2021年5月1日に開催すると発表した。コロナウイルスの感染拡大に対する懸念を完全に払拭(ふっしょく)することはできないと判断し、今年同様、バーチャルでの開催となる。

 年次総会には例年、世界中から数万人が集まり、別名「投資家のためのウッドストック」とも呼ばれている。実際、リアルで開催された2019年には4万人の投資家がネブラスカ州のオマハに集まった。

 バフェットとそのビジネスパートナーである副会長のチャーリー・マンガーがユーモアを交えながら株主のあらゆる質問に答えていくのが名物でもあるが、今年は例年と異なり、マンガーは会場に姿を見せなかった。

 マンガーの代役を務めたのが20年にわたりバークシャー・ハサウェイ・エナジーを率いてきたグレッグ・アベルだった。アベルは50歳代後半、1992年にバークシャーに加わった。バークシャーで上場株投資を手がけているトッド・コームズ、テッド・ウシュラーと並び、有力後継者の一人とされている。

バークシャー・ハサウェイ(日足)

出所:石原順

 今年の年次総会においてバフェットは「決して米国に逆らって投資してはならない」とした上で、米国は過去に「より困難な問題に直面し」、それを克服しているとして、1962年のキューバ危機や2001年9月の米同時多発テロ、2008年の金融危機を克服した経緯を「米国の奇跡」と表現した。そして「私は残りの人生を米国にかける」と話した。

 その言葉に後押しされるかのごとく、米国株式市場は3月の安値から急速に持ち直し、2020年も終わりに近づく現在、最高値圏で推移している。株式市場のラリーは米国のみならず、世界的に広がっており、先進国と新興国の大型株、中型株から構成されるMSCI All Country World Index(ACWI)は最高値をつけている。背景にあるのはもちろん世界の主要中央銀行による金融緩和がもたらしたバブル=過剰流動性である。

MSCI All Country World Index(ACWI)の推移

出所:MSCI

 とりわけ米国株式市場の過剰流動性を象徴する事象がある。それは企業が2020年に実施したIPO(新規公開株)や増資など株式の売り出しを伴う資金調達の額が約5,100億ドル(約53兆円)と、前年比で50%増を記録したことだ。

 ブルームバーグの記事「株式市場、今年は異例の供給過剰-相場の転換点を警告する声も」に掲載されていたインフォーマ・ファイナンシャル・インテリジェンス傘下のEPFRがまとめたデータによると、その額は、2009年の危機以降で初めて、企業が自社株買いや買収などによって消却した額と並んだ。

企業による自社株買い(緑)と公募増資(青)

出所:EPFR

 過去10年間は、調達額1ドルに対して平均3ドルの自社株買いが行われており、それが株価上昇の原動力となっていた。しかし今年は年後半にかけて株価が自社株買いを正当化できるレベルから大きく逸出し、結果として企業による自社株買いが抑制された。にもかかわらず5,000億ドルを超える資金調達をこなしつつ、株価は史上最高値を更新し続けている。

 バークシャーでさえ、今年はIPOへの投資を行った。しかも赤字のハイテク企業に対する投資である。9月に上場したクラウドデータプラットフォームのスノーフレーク(SNOW)だ。

 これまでバフェットは、ハイテク業界のように変化のスピードが速く、事業内容に対する理解が難しいものには投資しないと公に発言しており、不採算のテクノロジー企業やIPOへの投資を避けてきた。したがって、スノーフレークへの投資は違和感が強い。

 バークシャーはIPO直後にスノーフレーク株、約210万株を2億5,000万ドルで購入、さらにその後、元スノーフレークCEOから、4億8,500万ドルで約400万株を取得した。いずれもIPO価格で取得し、合計約7億3,500万ドルを投下した。

 バークシャーが9月28日にSEC(米証券取引委員会)へ提出した書類によると、発行済株式の約15.2%にあたる約612万株のスノーフレーク株を保有していることが確認できる。スノーフレークの株価はIPO価格の3倍近くになっており、このIPOへの投資は現時点では成功だといえよう。

スノーフレーク(日足)バフェットが「興味がない」と言っていたIPOに投資

出所:石原順

 よわい90歳のバフェットは、投資に関する決定の多くを「後継者」に引き継いでおり、今回のスノーフレークへの投資を決めたのも、前出のトッド・コームズとテッド・ウシュラーだと言われている。

 バークシャーは明らかにここ数年でバフェットの伝統的な投資アプローチから距離を置きつつある。これまでにもハイテク株の代表であるアマゾンに投資をした他、アップルに関しては、バークシャーのポートフォリオで最大シェアを占めている。

投資ストラテジーの変化はバークシャーの世代交代を裏付け?

 バフェットは一般的に、現在の価格がその本質的価値よりも安い場合は投資を行い、じっくりとその株が本来の価格に値上がりしていくのを待つバリュー株投資であると見なされている。しかし、イメージとは異なり、実際には買った銘柄の3分の2を5年以内に売却するなど、「短気」投資家の側面もある。

 9月末に公表された株式保有状況からも、バフェットが保有銘柄の入れ替えを頻繁に行っていることが分かる。バークシャーがSECに提出した書類(Form13F)によると、9月末までにファイザー(PFE)やメルク(MRK)といったヘルスケア株とTモバイル(TMUS)の株式を新たに購入した一方、会員制卸売り大手コストコ(COST)を全て売却するなどのポートフォリオの入れ替えを行った。

 11月26日のレポート「ウォーレン・バフェットによるビッグな投資が近々明らかになる!?」でも取り上げたように、今回提出されたForm13Fには「コンフィデンシャルな情報は公開されたフォーム13Fレポートから省略され、別途、米証券取引委員会に提出された」との記載があり、Form13Fで公表されていないコンフィデンシャルな投資を行っていることも明らかになった。

 過去、バークシャーは2011年のIBM(IBM)への投資や2015年のフィリップス66(PSX)などへの投資をコンフィデンシャル扱いにしていたことがあり、今回も公開企業に対する大きな投資を行っているとの思惑が浮上している。

 では、バフェットは、いや新生バークシャーはどの株式を買っているのであろうか。

 バークシャーの決算発表資料によると、9月末時点の株式ポートフォリオはクラフトハインツを除いて約2,450億ドルである。これに対して、バークシャーが提出したForm13Fには米国株式の保有分、約2,200億ドルが報告されていた。その差は250億ドル。日本の商社への投資などは60億ドルに過ぎず、差額のほんの一部に過ぎない。

 米ニュースサイトのelectrekの記事「Tesla (TSLA) surges to near-record high on mysterious new investor buying big(テスラ (TSLA) は謎の新規投資家の大量買いで史上最高値近くまで急騰)」によると、現在、約5,000万株のテスラ株が不明の投資家の手に消えているという。9月末時点のテスラの株価は430ドルであるが、ざっくり500ドルで試算すると250億ドル。偶然だが、数字は奇妙に重なり合う。

テスラ(日足)バークシャーは本当にテスラを買い集めているのか!?

出所:石原順

 ウォーレン・バフェット(オマハの賢人)とイーロン・マスク(パロアルトのプレーボーイ)は、以前より対立することも多く、その価値観の違いもよく知られている。

 例えば、2016年、バークシャー傘下の米電力会社NVエナジーは、テスラの子会社である太陽光発電事業を手がけるソーラーシティーとネバダ州での太陽光発電をめぐり対立した。

 また、競合他社の参入を防ぐために企業は「モート(堀)」を固めるべきだとするバフェット氏の戦略の1つについて、マスク氏は「時代遅れ」と批判した。

 これに対して、ウォーレン・バフェットが傘下の菓子メーカー、シーズ・キャンディーズを成功の証しとして取り上げると、イーロン・マスクは挑発するかのように、「自分もキャンディーメーカーを立ち上げる」と宣言したことがあった。

 実際にバークシャーが買い集め中のコンフィデンシャルな投資でどの企業の株式を購入しているのかは現時点では不明であるが、もしバークシャーがテスラへの投資を行っているとしたら、さらにバークシャーの投資戦略を担う中枢が次世代へと移行していることを裏付けることになろう。IPOのスノーフレークへ投資したように、新生バークシャーであれば、テスラへの投資も絶対にないとは言い切れないだろう。

何かに左右されない考え方を持ち、道なき道を進むのが成功の秘訣

 欧米ではビジネスに哲学を活用する動きが増えているという。正解のない時代に突入し、多くの世界的企業が哲学コンサルティングを導入する動きが広がっている。

 企業内に専属の哲学者を抱える企業も出始めているという。グーグルやアップルは企業専属の哲学者をフルタイムで雇っている。こうした専属の哲学者は、CEOやCIOのようにCPO(Chief Philosophy Officer:最高哲学責任者)と呼ばれているそうだ。

 成功した起業家の中には哲学を学んだ人物も多く、その代表格はペイパルマフィアのドン、ピーター・ティールだ。彼はスタンフォード大学で著名な哲学者、ルネ・ジラールから教えを受け、多大な影響を受けた。

 ルネ・ジラールは「模倣と競争」を研究テーマとしていた哲学者であり、これがティールの投資と起業における哲学となっている。人間の行動は模倣に基づいており、そこから逃れることはできない。しかし、模倣は競争を生み、本来の目標や利益すらも置き去りにしてしまうというものである。

 つまり、争いのない独占市場を築くのが最も賢いビジネスであり、競争は負けの始まりであるというのが彼の思想だ。

 細やかな神経を持って、これまで誰もつくらなかった何かをつくることができれば、初めて持続的な価値が生まれ、勝者となる。「何かに左右されない考え方」を持ち、道なき道を選んでこそ、成功をおさめることができるという考えだ。

 投資に関しても王道の答えなどはない。巷にはウォーレン・バフェットの投資に関する記事や本があふれているが、そっくりそのまま真似をしたところで勝てるわけではない。誰もウォーレン・バフェットにはなることはできない。 

 マイケル・ルイスの「ビッグ・ショート」で一躍有名になった投資家のマイケル・バーリはウォーレン・バフェットを研究し、その結果、バフェットが投資家として驚異的な成功を収めた鍵は、ベンジャミン・グラハムから投資に関する教えを受け、影響を受けてきたが、その教えから離れようとするバフェットの意欲だと指摘している。

 ビジネスインサイダーの記事「ビッグ・ショートの投資家マイケル・バーリはウォーレン・バフェットを研究したが、彼のようには決してなれないし、自分自身のスタイルが必要であることに気づいた」でバーリは次のように語っている。

「ウォーレン・バフェットはベン・グラハムから学ぶメリットがあったが、ベンジャミン・グラハムを真似するのではなく、自分の道を歩み、自分のルールでお金を稼いだ。偉大な投資家になるつもりなら、あなたは自分が誰であるか、それにスタイルを適合させなければならない」

 バフェットは投資のタイミングや銘柄を見定めることについて「相談して決めようと思う時、私は鏡を見るんだ」、つまり答えは市場にはない。「なぜこの会社を買収するのかという題で1本の小論文を書けないなら、100株を買うこともやめた方がいい」と言っている。

 相場の世界においては、世間を眺めて判断していては正しい判断ができない。世間と「逆」が富を生み出すのである。

「チャンスと絵は少し離れて見たほうがよく見える」、「株は単純。みんなが恐怖におののいているときに買い、陶酔状態の時に恐怖を覚えて売ればいい」、「時代遅れになるような原則は、原則ではない」、「近視眼的(マイオピック)な投資では理性を失い、結果としてお金と時間を失う」、「リスクとは、自分が何をやっているかよくわからない時に起こるものだ」というウォーレン・バフェットの言葉を、我々は今一度考えなくてはいけない投資環境の中にいる。

 世代交代によってバークシャーの投資ストラテジーは変化しつつあるものの、バフェットの投資哲学は時代を経ても決して風化せず、我々に多くのヒントを与えてくれる道標になるであろう。

「変化に対応した者だけが生き残る」はダーウィンの進化論である。企業も生物同様、変わり続けることが重要だ。次世代が主体的な役割を担いつつある新生バークシャーからも目が離せない。

「人生の主な仕事とは、簡単に言えば、物事を区別し、分類することだ。どれが自分の力の及ばない外的なもので、それが自分の意志にかかっている選択なのかを、自分自身にはっきりと言えるようになること。ならば、善悪はどこに探せばよいのか?自分ではどうにもならない外的なものには、善も悪もない。自分自身の中、自分の選択の中に、それはあるのだ・・・・」

エピクロス『語録』

12月16日のラジオNIKKEI「楽天証券PRESENTS 先取りマーケットレビュー」

 12月16日のラジオNIKKEI「楽天証券PRESENTS 先取りマーケットレビュー」は、「通貨・株式のトレンドの現状と年末・年始相場の注意点」・「中国が台頭!1930から1940年代と現代の相似・・。歴史は繰り返すのか!?」というテーマで話をしてみた。ぜひ、ご覧ください。

ドル/スイスフラン(日足)スイスは米国から為替操作国と指定された

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NZドル/ドル(日足)株価連動通貨

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帝国の背後にある大きなサイクル(レイ・ダリオ)

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中国の台頭……1930年代とよく似ている(レイ・ダリオ)

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 ラジオNIKKEIの番組ホームページから出演者の資料がダウンロードできるので、投資の参考にしていただきたい。

12月16日: 楽天証券PRESENTS 先取りマーケットレビュー

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