投資ストラテジーの変化はバークシャーの世代交代を裏付け?

 バフェットは一般的に、現在の価格がその本質的価値よりも安い場合は投資を行い、じっくりとその株が本来の価格に値上がりしていくのを待つバリュー株投資であると見なされている。しかし、イメージとは異なり、実際には買った銘柄の3分の2を5年以内に売却するなど、「短気」投資家の側面もある。

 9月末に公表された株式保有状況からも、バフェットが保有銘柄の入れ替えを頻繁に行っていることが分かる。バークシャーがSECに提出した書類(Form13F)によると、9月末までにファイザー(PFE)やメルク(MRK)といったヘルスケア株とTモバイル(TMUS)の株式を新たに購入した一方、会員制卸売り大手コストコ(COST)を全て売却するなどのポートフォリオの入れ替えを行った。

 11月26日のレポート「ウォーレン・バフェットによるビッグな投資が近々明らかになる!?」でも取り上げたように、今回提出されたForm13Fには「コンフィデンシャルな情報は公開されたフォーム13Fレポートから省略され、別途、米証券取引委員会に提出された」との記載があり、Form13Fで公表されていないコンフィデンシャルな投資を行っていることも明らかになった。

 過去、バークシャーは2011年のIBM(IBM)への投資や2015年のフィリップス66(PSX)などへの投資をコンフィデンシャル扱いにしていたことがあり、今回も公開企業に対する大きな投資を行っているとの思惑が浮上している。

 では、バフェットは、いや新生バークシャーはどの株式を買っているのであろうか。

 バークシャーの決算発表資料によると、9月末時点の株式ポートフォリオはクラフトハインツを除いて約2,450億ドルである。これに対して、バークシャーが提出したForm13Fには米国株式の保有分、約2,200億ドルが報告されていた。その差は250億ドル。日本の商社への投資などは60億ドルに過ぎず、差額のほんの一部に過ぎない。

 米ニュースサイトのelectrekの記事「Tesla (TSLA) surges to near-record high on mysterious new investor buying big(テスラ (TSLA) は謎の新規投資家の大量買いで史上最高値近くまで急騰)」によると、現在、約5,000万株のテスラ株が不明の投資家の手に消えているという。9月末時点のテスラの株価は430ドルであるが、ざっくり500ドルで試算すると250億ドル。偶然だが、数字は奇妙に重なり合う。

テスラ(日足)バークシャーは本当にテスラを買い集めているのか!?

出所:石原順

 ウォーレン・バフェット(オマハの賢人)とイーロン・マスク(パロアルトのプレーボーイ)は、以前より対立することも多く、その価値観の違いもよく知られている。

 例えば、2016年、バークシャー傘下の米電力会社NVエナジーは、テスラの子会社である太陽光発電事業を手がけるソーラーシティーとネバダ州での太陽光発電をめぐり対立した。

 また、競合他社の参入を防ぐために企業は「モート(堀)」を固めるべきだとするバフェット氏の戦略の1つについて、マスク氏は「時代遅れ」と批判した。

 これに対して、ウォーレン・バフェットが傘下の菓子メーカー、シーズ・キャンディーズを成功の証しとして取り上げると、イーロン・マスクは挑発するかのように、「自分もキャンディーメーカーを立ち上げる」と宣言したことがあった。

 実際にバークシャーが買い集め中のコンフィデンシャルな投資でどの企業の株式を購入しているのかは現時点では不明であるが、もしバークシャーがテスラへの投資を行っているとしたら、さらにバークシャーの投資戦略を担う中枢が次世代へと移行していることを裏付けることになろう。IPOのスノーフレークへ投資したように、新生バークシャーであれば、テスラへの投資も絶対にないとは言い切れないだろう。