マネーのルール、最後の10個

 まず、借金(リスクゼロで大きなマイナス・リターン!)の損は(ルール21)は、マネーリテラシーの総合書籍を目指す本書として残しておくべき内容だろう。手数料コストの悪影響(ルール22)については、今は、もっと論調を厳しくして、運用商品は、相場からではなく、まず手数料から評価すべきであることを述べてみたい。そうすると、9割以上の運用商品(99%と言ってもいいかもしれない)がはじめから除外できることなどが、上手(うま)く伝えられる。「まずリスク、次にコストのチェックを!」(ルール23)という書き方は、今となっては、少々手ぬるい感じがする。

「投資に必勝法がない」(ルール24)や「テクニカル分析は役に立たない」(ルール25)は、内容的には全く正しいと思うが、近年「いかがわしい投資本」が減ったことを考えると、ルール一つ分にまとめていいかもしれない。

 サンクコストへの拘りが無意味であることや、分割売買の無意味を説いた「売買は合理的に」(ルール26)は記述を強化して残すべきだろう。

 ルール27〜ルール29は、株式投資入門の内容だが、これらは、「趣味の案内」として残しておきたい。筆者が、個人投資家として少額のお金を運用してみた様子を書いた「付録・個人投資家・山崎元のスローな株式投資」は、残すか否か迷うところだ。「利益予想修正の利用」「バリュー投資」「イベント投資」は株式投資の基本的なテクニックなので、実例付きで残しておく価値があるようにも思うし、例が古いので、改訂版では削除して、昔の本を読んでくれた読者の思い出に残ればいい、という処置でもいいような気がしている。

 最後のルール30は、「金融工学や行動ファイナンスが、投資家の判断ミスを誘って余計な手数料を払わせるために金融業界でシステマティックに悪用されている」という着眼を説明したもので、これは、大学の授業でも力を入れて説明したし、今でも重要な内容だと思っているので、大凡(おおよそ)現在の形で残しておきたい。特に、行動ファイナンスは、投資家が自分のミスに気付くために使われることが望ましいのだが、金融業界側が投資家のミスを誘うために応用しているのが現状だ。

 最後に載せた、「補足 理屈っぽいあなたのための理論的解説」は、アセットアロケーション分析の方法を具体的に述べた説明として、案外他書にも類例がないので残しておきたいとも思うところだが、もう少し専門的な本を書く際に、詳しく解説する方がいいように思っている。

 今回は、既存の項目の検討が主で、追加・加筆すべき内容については未(いま)だ十分に検討できていないが、改訂がなかなか大がかりなものになりそうなことが分かった。せっかくチャンスを得たので、お役に立つ本を作れるように、気を引き締めて本作りに臨みたい。

【コメント】
 2017年の記事だが、そのわりに古く感じるのは、さらに10年前の本の改訂版の構成として項目を立てているからだろう。もっとも、「意見が変わった」「これは間違いなので訂正したい」といった項目はない。金融の問題の場合、前提条件をハッキリさせると数字で価値判断ができるので、「意見がブレる」という心配は、都度都度に正しく問題を解いていればあまりしなくても良い。ただ、今なら表現方法を変えたり、整理の仕方を変えたりしたい項目が数個ある。

 この記事の通りであれば、改訂版の本が出ていなければならないが、出版は実現していない。単行本は、企画を練り、著者ないし出版社が提案し、それぞれの都合で企画が実現したり、しなかったりするが、この企画の未実現については主として筆者に責任がある。しかし、この企画のような「中級レベルの網羅的な投資の本」を作るなら、もう少し詳しい上級者向けの本を作って、その中からトピックを選んで易(やさ)しく書くような本を作る方がより良い手順のような気がする。出版の企画は絶えずこのように動いていて、実際に日の目を見る本はその一部だ。幸い、現在、本を書くチャンスは複数貰(もら)えそうなので、いい本を書きたいと思っている。(2020年8月23日 山崎元)