新型肺炎拡大による中国や世界全体の石油の消費は秋には元に戻るか

 ここからは、“新型肺炎が鎮静化する兆し”について述べます。EIA(米エネルギー情報局)が、毎月半ばに公表している短期見通し内の、中国の石油の消費量の見通しに注目します。

 この場合の石油の消費量は、ガソリンや軽油、ジェット燃料、暖房油などの石油製品の消費量の合計を指します。

 1月の短期見通しは、1月14日(火)に公表されましたが、この短期見通しの要約文には、コロナ(corona)やウイルス(virus)、肺炎(pneumonia)などの新型肺炎に関わる文言は確認できません。つまり、1月時点では、新型肺炎の拡大による消費減少は想定されていなかったことになります。

 一方、2月の短期見通しは、要約文の冒頭から“effects of the coronavirus”の文字がおどっており、新型肺炎の拡大が、各種データの見通しに大きな影響をもたらしたことがわかります。

 以下のグラフのとおり、EIAは、中国の石油消費見通しの下方修正のピークは2020年の3月で、その後、同国の石油消費量は徐々に回復し、秋以降、1月の見通しとほとんど同じ水準に戻ることを見込んでいます。

図:中国の石油消費量の見通しとその変化
単位:百万バレル/日量

出所:EIAのデータをもとに筆者作成

 世界全体に占める中国の石油の消費量はおよそ15%です。このため、この中国の石油消費量が1月の見通しよりも大きく減少するとみられる1月から6月ごろまでは、世界全体の石油消費量も1月の見通しよりも減少することが予想されます。ただ、秋以降は、中国の消費回復に伴い、世界全体の石油消費量も、1月の見通しの水準に回復するとみられます。

図:世界全体と中国の石油消費量の見通しの増減(2月の見通し-1月の見通し)
単位:百万バレル/日量

出所:EIAのデータをもとに筆者作成

 上図は、中国の石油消費量および、世界全体の石油の消費量の見通しの増減を折れ線で示したものです。世界全体では、2月に公表された1月の実績値が、1月時点の見通しよりも大きく減少したことがわかります。このことについてEIAは、暖冬で北半球の石油の消費量が減少したことを主な要因に挙げています。

 そして3月は、新型肺炎の影響で中国の石油消費量の見通しが引き下げられたため、世界全体も引き下がっています。しかしその後は、中国の消費回復見通しとともに、世界の消費も回復していくことが見通されています。

 EIAは、新型肺炎の影響によって減少する中国および世界全体の石油の消費量は、おおむね、今年の秋には新型肺炎を想定していなかった1月時点の見通しの水準に戻ることを見通しています。

 EIAのデータは、“新型肺炎はどれだけ原油や石油の消費を減らすのだろうか?”という漠たる不安を、目に見える不安に変えた(可視化した)と筆者は思います。

 可視化されたことで、“秋には、中国も世界全体も、石油の消費は元に戻る”という方向性が見えたため、原油市場では漠たる不安が後退し、安堵感が醸成されたことが一因となり、足元、原油相場が反発しているのだと考えます。

 以上、今回は、今後、原油価格が本格的に上昇するために必要な条件について、筆者の考えを述べました。

 下がらないための条件と上昇するために必要な条件は異なることに留意しながら、兆候が出始めているBとC、そして今後期待されるAとDについて、今後も注視していきたいと思います。条件が整えば、WTI原油先物価格は短期的に、60ドルを回復する可能性はあると考えています。