足元、本格的に上昇するために必要な条件が整い始めている

 筆者が考える、50ドルを下回らない条件と今後本格的に上昇するために必要な条件は以下のとおりです。主要株価指数の動向という点では(1)とAが、OPECプラスの減産という点では(2)とBが関連しています。

図:原油相場の今後を考える上でのポイント

出所:筆者作成

 本格的に上昇するためには、例えば、主要な株価指数は急落しなければよいのではなく、上昇することが、OPECプラスの減産は続ければよいのではなく、強化された上で続くことが必要だと思います。また、いずれかではなく、AからDすべてが同時に発生することが必要だと思います。

 本格的に上昇するために必要なことにあげたAからDの4つの中で、足元、BとCが強まりつつあるとみています。

 新型肺炎が拡大の一途をたどっていることで、世界の景気が減速し、世界全体の石油の消費が減少する懸念が強まったり、主要国の株価指数が、一部の企業の売り上げ見込みが下方修正されたことなどで頭打ち感が出たりしていますが、原油相場は、2月10日(月)に50ドルを割れた後、2月21日(金)までおよそ4ドル(8%)反発しました。

 この反発の原動力となったのが、強まりつつある、B(OPECプラスが余剰削減量以上の減産強化を決定・実施すること)とC(新型肺炎が鎮静化する兆しが出ること)だと考えられます。

図:WTI原油先物価格の推移(中心限月 日足 終値 2020年1月1日~2020年2月2日)
単位:ドル/バレル

出所:CMEのデータをもとに筆者作成

 以下より、この2つを具体的に見てみます。

OPEC総会が近づき、勧告が決まった減産強化が実現する観測が強まっている

 以前の「“落ちるナイフ”でもつかもうとするOPECの秘儀とは?」で述べたとおり、OPECプラスの配下組織であるJTC(共同技術委員会)が、日量60万バレルの追加減産をOPEC総会に勧告することになっています。

 この勧告を承認し、実施することを決定するOPEC総会は、まだ開催されていません。一部では緊急会合が開催されるのではないか、との見方もありましたが、ロシアが難色を示したため実現していない、との報道もあります。

 ただ、昨年(2019年)12月の総会で、2020年3月5日・6日に、第178回OPEC総会(臨時)と、第8回OPEC・非OPEC閣僚会議の開催を決定しているため、順当にいけば、来週の金曜日には日量60万バレルの追加減産の実施が決定する可能性があります。

 同時に、3月末で終了する現在実施中の減産を、いつまで延長するのかも決定するとみられます。OPECのウェブサイトには、JTCが2020年の年末まで延長することを勧告した旨の記載があります。

 今のところ、OPECのウェブサイトに、本部があるウィーン(オーストリア)で行われる会合が、新型肺炎起因でキャンセルされた旨の記載はありません。(同様の報道も筆者の手元では確認できず)

 現時点で、総会が不調に終わらない限り、3月5日・6日の会合で、延長はもちろん、“減産の強化”が決定する見通しとなっていることが、足元の、原油市場の反発の一因になっているとみられます。

 減産強化については「“落ちるナイフ”でもつかもうとするOPECの秘儀とは?」で述べたとおり、数字のトリックにより、表向きは“強化”であっても、実態としては、さほど強化されたことにならない場合があることに注意が必要です。

 ただ、市場が、数字のトリックであったとしても、OPECプラスが減産強化を決定することを望んでいるのであれば、減産強化が原油相場に上昇圧力をかける要因になると考えられます。

 原油市場や株式市場は、産油国の財政を急激に悪化させ、高コストの石油業者を市場から退出させ、産油国から出た大規模な株式の売り注文によって主要な株価指数を下落させた、“逆オイル・ショック”の再発を恐れているのだと思います。

 その意味では、OPECプラスのリーダー格であるサウジはすでに、原油市場以外に、株式市場を混乱させない責務を負っていると言え、新型肺炎の懸念が拡大する中、エネルギー関連株、引いては主要な株価指数の上昇をサポートするために、減産を強化するという、市場が期待する回答をせざるを得なくなっていると考えられます。