欧米にとって“対岸の有事”では、指標である「ドル建て金価格」は上昇しない!?

 当事国である日本で日に日に懸念が拡大している新型肺炎について、この新型肺炎の懸念が金相場を急騰させる可能性がどの程度あるのかを考えます。

 金価格の急騰というと、1979年を想起する方もいると思います。1月にイラン革命が起き、11月にイランの米国大使館で人質事件が発生し、世界中に強い懸念が広がった年です。この年、ドル建て金価格は130%以上、上昇しました。まさに“有事=金価格急騰”の典型的な例です。

 一方、同じ有事でも、北朝鮮がほぼ通年で16回もミサイルを発射し、日本を含む極東の主要な国に脅威が与え続けられた2017年。この年のドル建て金価格の上昇率は、8%でした。

 懸念によって大暴騰した1979年と、懸念はあっても急騰しなかった2017年には、いくつか違いがあります。一番の違いは何でしょうか? 筆者は「当事国がどこか?」という点だと考えています。

 2017年にミサイルを連発する北朝鮮を懸念に感じ、金価格が急騰するのではないか? と感じたものの、なかなか急騰しなかったことについて、ある日本人アナリストは、「主にドル建ての金が取引されている欧米からは、“アジアのリスクは対岸の火事”と思われている。だから日本人がこんなに懸念を感じているのに、金価格がなかなか上昇しない」、と言いました。筆者は、一理あると思います。

 このことは、新型肺炎の懸念が高まっているにも関わらず、金価格が急騰していない今の状態に通じる話だと思います。 

 仮に、欧米で新型肺炎が蔓延し、おびただしい数の死者が出て、数年にわたり影響が残る事態になれば、今回の新型肺炎がきっかけで金相場が急騰する可能性はあるかもしれません。また、多数の死者が出なくても、具体的に欧米で影響が出る場合は、金相場には上昇圧力がかかる可能性があります。

 例えば、新型肺炎が米国で蔓延し、今年11月の大統領選挙のスケジュールを変更せざるを得ない事態に発展する、同時に英国でも蔓延し、EU(欧州連合)を離脱した英国が離脱後の移行期間を延長するかどうかの協議や、延長しないこととなった場合の通商交渉のスケジュールに大きな影響が出る、など直接的かつ具体的でインパクトが大きい影響が生じた場合は、この時はすでに“対岸”ではなく欧米諸国の火事となっているため、金価格は新型肺炎の影響を受けて上昇しているとみられます。