“株価を支える”“消費減少に応じる”世界の潮流に相乗りし、存在感を小さくするOPEC

 OPECはなぜ、このような数字のトリックを使うようになったのでしょうか?

 それは、OPECが、3年以上にわたって行ってきた減産が限界に達しつつあること、そして“株価を下落させない”、“大きな懸念によって減少する懸念がある消費量に生産量を合わせる”、“地球環境を汚染する排出ガスの元になる化石燃料の生産量に配慮する”などの、世界全体の取り組みに平仄(ひょうそく)を合わせざるを得なくなったためだと考えられます。

 数十年前、OPECが減産をすれば原油相場は上昇しました。確かにこれは事実だと思います。しかし、このおよそ20年程度の間にさまざまなことが起こりました。

 先進国を中心にした世界的な金融緩和で余剰資金が大量に発生し、原油がETF(上場投資信託)などで金融商品の一翼を担うようになり、インターネット(デバイス・インフラともに)の発達によって、個人のトレーダーであっても瞬時に世界中の情報を知り、国をまたいだ取引所への発注が可能になりました。

 このような変化に伴って、原油の金融商品化が加速(原油市場の独自色が低下)し、どんどんと株式や通貨などの他の金融商品との垣根が下がっていきました。この垣根が下がる過程で、高すぎる原油相場は実体経済にマイナスの影響を与える、原油市場の動向がエネルギー関連株の変動要因、ひいては主要株価指数の変動要因になり得る、などの指摘が目立ち始め、原油市場が外部環境から受ける圧力がどんどんと強くなっていきました。

 また、地球環境の保護(化石燃料を消費することへの否定)の機運の高まりや、技術革新による化石燃料を消費しない代替手段の開発促進(石油の消費減少要因)、石油の生産効率化の推進(石油の生産増加要因)などの世界的な動きが加速していることも、長期的な視点に立った“石油離れ”を促す要因となり、石油を生産する国に吹く逆風が強くなってきています。

 このような過程を経て、徐々にではありますが、原油市場の独自性の低下、原油の必要性の低下などが進行しているとみられ、それに伴い、原油を生産するOPECの世界的な発言力が、少しずつ(あくまでも少しずつ)、低下してきていると考えられます。このため、以前のような“OPEC減産=原油価格上昇”という分かりやすい方程式が通じにくくなっているのだと思います。

 このような環境におかれたOPECは、どのようなことを考えているのでしょうか。世界の潮流にあらがわないことを前提に考えれば、新型肺炎が拡大し、株価の下落が懸念される中で、自らが株安の要因にならない(減産をやめて原油相場を急落させない)ことや、新型肺炎の影響で世界の消費が減少するのであればそれに合わせて生産量を減少させる(原油価格の上昇というこれまでと異なる理由による減産継続の自己肯定)、ということを考えている可能性があります。つまり、外部環境から、OPECプラスは減産継続圧力を受けている可能性があるわけです。

 しかし、3年が経過し、先月から4年目に突入したOPECプラスの減産は、続ければ続けるほど、生産量を制限し続ける、すなわち(原油相場が上昇しなければ)収益機会を放棄し続けることにつながるため、できれば思い切って生産量を拡大させ、自由な生産活動をすることを望んでいるのかもしれません(ロシアは今回のJTCの勧告に同意していないとの報道もあります)。

 減産実施でも原油価格が上昇しにくくなった現状と、OPECにおける組織内の都合、そして外部からの圧力…非常に悩ましい状態が、OPECを“数字のトリックを使った減産強化”に走らせているのだと筆者は考えています。

 だからこそ、急落する原油相場(落ちるナイフ)でもつかもうとすることができるわけです。海外には、“OPECの動向を分析するには数学が必要”と計算しないと実態が見えないOPECの行動を揶揄(やゆ)するアナリストがいるほどです。

 大鉈を振りかざして、原油価格の動向に決定的な要因を振りまいたかつてのOPECの姿はありませんが、しかしまだ、市場ではOPECの動向を重視する動きもあります。

 このため、目先の原油相場は、もともと予定されていた3月5日以前に緊急的に総会が開催され、かつ、OPEC側が日量42万バレル程度以上の減産強化を行うことが決まれば(サプライズ感を伴う材料が重なれば)、短期的に55ドルを回復し、60ドルを目指す大きな上昇を演じる可能性はあると思います。

 慎重にOPECの動向を注視したいと思います。