余剰削減分を用いた現状追認の減産強化。数字のトリックで市場は欺けない

 2月4日(火)から6日(木)にかけて、OPECプラスの配下組織であるJTCが足もとの原油相場の下落を協議しました。JTCはOPEC総会に決議事項を勧告する役割があります。

 JTCは、OPECプラスで協調減産を開始することを決定した2016年12月の総会で設置されることが決まりました。この会議体にはOPEC側のリーダー格であるサウジアラビアと非OPEC側のリーダー格であるロシアが参加するため、総会の決議事項を正式に事前に調整する場と言えます。

 今回のJTCは2日間の予定が3日に延長されたと報じられました。延長して決まったことは、先述の通り「日量60万バレルの減産強化をOPEC総会に勧告すること」でした。

 以下より、この“日量60万バレル”について考えてみます。現在行われているOPECプラスの減産は、以下の内容で行われています。削減量のルールは2018年12月に決定したものをベースに、2019年12月に“追加”されています(“強化”と報道されることもあります)。

図:現在実施中の減産の内容(2020年2月10日時点)

単位:千バレル/日量
※減産基準量は原則2018年10月の生産量
※ナイジェリアの減産基準量は、各種報道をもとに、OPECが2019年1月に公表した値を修正
※2019年12月で脱退したエクアドルを除外
出所:OPECの資料および各種報道より筆者作成

 OPECプラス合計の追加後の削減量は、今のところ日量168万4,000バレルです。これが“日量170万バレルの減産”と報じられている箇所です。この日量およそ170万バレルの削減をOPEC、非OPEC別でみると、OPEC側がおよそ70%、非OPEC側がおよそ30%を担っています。

 まだロシア側が合意していないという報道があること、勧告を受けたOPEC総会の開催時期が未定である(もともと臨時総会は3月5日・6日に予定されている)ことなど、不透明な要素はあるものの、仮に、今回JTCが勧告した日量60万バレルの追加削減について、この比率で分けた場合、OPEC側が日量およそ42万バレル、非OPEC側が同18万バレルを追加で削減する可能性があります。

 この、OPEC側の“日量42万バレル”について考えます。今月に入り、海外主要メディアが1月のOPEC側の原油生産量とそれに基づいた減産順守率を公表しました。100%を上回ると減産順守を意味する減産順守率は133%と、予定された削減量の1.33倍の削減が行われたことが示されました。

 削減予定量が日量117万バレルである一方、OPECの1月の削減量は、その1.33倍にあたる日量およそ155万バレルであったため、日量38万バレルの“余剰削減量”があることになります。

 以下は、1月の日量38万バレルの“余剰削減量”と、今後追加されるとみられる日量42万バレルの削減量について示したものです。

図:OPECの2020年1月の減産状況と強化後のシミュレーション

出所:海外主要メディアのデータおよびOPECの資料をもとに筆者作成

 1月の減産順守率は133%([3]-[1])÷([2]-[1])です。100%を超えれば減産順守であるため、1月は減産順守でした。また、38万バレルの“余剰削減分”( [4]=[3]-[2])があります。

 今後、仮に減産が42万バレル追加された場合、生産量の上限が[2]から[6]に引き下がります。これが、日量42万バレルの減産強化[5]です。

 この規模で減産強化が決定した場合、原油生産量が[3](1月の生産量)からわずか7万バレル削減するだけで減産順守率が100%、つまり減産順守となります。

 減産を42万バレル強化するとした上で、生産量をわずか7万バレル削減するだけで“減産順守”なのです。これは“現状追認型の減産強化”と言えます。

 減産強化が余剰削減分の38万バレルを超える規模でなければ需給バランスを引き締める、本来の減産強化にはなりません(計算上、38万バレルよりも少ない削減幅となった場合は、“増産を可能にする”減産強化です)。

 “強化”という言葉に騙されず、冷静に、強化後の削減幅がどの月に比べ、合計何万バレルなのかに注目することが必要です。