教科書に書かれていない“株高・金高”の背景には3つの理由がある

 2019年に起きた“株高・金高”に関わる出来事には、以下の点が挙げられると、筆者考えています。

(1)米国の中央銀行にあたるFRB(米連邦準備制度理事会)が、7月から12月にかけて利下げを実施したこと。

・株高:利下げにより、ドルで決済する企業や個人の資金調達が有利になり、経済活動 が活発化する期待が膨らむ。利下げ実施が最高値を更新し続ける大きな要因となった。
・金高:利下げにより、ドル安ムードが強まった。ドルと金はともに“世界共通のお金”という側面を持つため、片方のドルが弱くなればもう片方の金が強くなる傾向がある。利下げの際、金価格は騰勢を強めた。

(2)中東でタンカー航行の妨害(5月・6月)や石油関連施設への攻撃(9月)が行われても、米国が具体的な報復攻撃を行わなかったこと

・株高:事件が発生したことに対し、米国はイランが関与していると指摘をし続けたが、具体的な行動は起こさなかった。仮に具体的な行動を起こせば、事件の首謀者をイランと特定をした上で、米国による報復が行われることとなるため、大規模な軍事衝突に発展し、世界経済にマイナスの影響が生じる可能性があった。しかし、米国が行動を起こさず、マイナスの影響が発生することは避けられた。このマイナスの影響が生じることが避けられたことを、株式市場は好感した。
・金高:世界の主要なエネルギー供給地であり政治や交通の要衝である中東において、大規模な軍事衝突に発展する可能性がある事件が発生した。リスク回避の意味で金が物色された。

(3)米中貿易戦争において鎮静化に向けて部分的に合意にこぎつける期待が高まる中、経済情勢の実態を示す経済指標に目立った改善が見られなかったこと

・株高:特に2019年後半、米中貿易戦争において、少しずつ、米中が歩み寄りを見せ始めた。2018年春以降激化の一途をたどった同戦争が鎮静化に向けて動き出し始めた期待が高まり、株式市場は好感した。
・金高:米中貿易戦争が鎮静化する期待が高まる一方、米中双方のGDP(国内総生産)などの景況感を直接的に示す経済指標に好転が見られないままだった。実態に改善がみられないまま、景気を先取りする株価が先行して上昇したため、株価と実態の乖離が拡大した。この乖離の拡大が不安の拡大の要因となり、金を物色する動きが強まった。

(1)(2)(3)の、いずれの出来事も、米国の行動が関与して生じた結果であることから、“株高・金高”に、米国が深く関わっていると言えます。ただ、大統領選挙の前年の米国側(主には再選を渇望するトランプ米大統領)が起こす行動という意味では、これらの行動は主に株高を狙ったもので、金高は副次的に起きた、と解釈できます。

 また、大統領選挙を前にした米国特有の要因以外に、“ヘッジファンドが株の上昇で得た資金で金を買っている”なども、“株高・金高”の理由に挙げられます。

 これらの“株高・金高”の要因の中で、筆者が最も注目するのは3つ目の、米中貿易戦争において鎮静化に向けて部分的に合意にこぎつける期待が高まる中、経済情勢の実態を示す経済指標に目立った改善が見られなかったこと、です。