年金を積み立てているのに足りないのはおかしい?

「年金を積み立てているのに、足りないのはおかしい!」という意見がありますが、「積立方式」と「賦課方式」の違いが理解されていないことが誤解を招いているようです。将来自分が受け取る年金を積み立てておくのが積立方式、現役世代が支払った保険料を現在の年金受給者に支払うのが賦課方式で、「日本の公的年金は賦課方式」を採用しています。

 積立方式の場合、インフレによる資産価値の目減りや運用成績が悪いと年金の削減が必要になります。一方、賦課方式の場合、現役世代と年金受給世代の比率に影響を受け、年金受給世代の比率が上がった場合は、保険料を上げるか、年金を減らすことになります。

 国民年金制度の施行(「国民皆年金制度」のスタート)は1961年(昭和36年)に遡ります。当時はインフレ率が高かったですし、年金受給に必要な支払い期間を満たせないまま受給開始年齢(当時60歳)になる方もいらっしゃったので、現役世代の保険料で年金を支払う賦課方式は合理的でした。出生率が高く、経済も成長しているので、現役世代の保険料の負担がそれほど苦にならないという見込みもあったようです。

 これだけでも複雑な話ですが、さらにややこしいのは、小泉・竹中改革の一環で、2004年に保険料負担と年金給付のバランスを図るよう制度改正が行われたことです。この改正により、保険料負担の増加は抑制されましたが、その代わり、年金給付は緩やかに減少していくことになりました。少子高齢化により世代間の受益・負担のバランスに配慮する必要があったことと、厚生年金保険の事業主負担を考慮して労働コストの上昇ペースを抑える目的がありました。

 誤解を生んだのは制度の複雑さもありますが、自公連立政権の下で、「百年安心」というキャッチフレーズが独り歩きしたことも影響していそうです。国会答弁で、安倍晋三首相が述べているマクロ経済スライドとは、そのときの社会情勢(現役人口の減少や平均余命の伸び)に合わせて、年金の給付水準を自動的に調整する仕組みのことです。また、5年に一度行う財政検証で、おおむね100年後に年金給付費1年分の積立金を持つことができるよう、年金額の伸びの調整を行う期間(調整期間)を見通しています。

「百年安心」なのは年金制度であって、年金受給額が確約されている訳ではありませんが、保険料だけではなく、税金からの補填とGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が保有する資産を取り崩して年金に充てるので、緩やかな減額の範囲で当面は維持できそうです。