そうは言っても公的年金制度はお得?
さて、これだけネガティブな内容が続くと、「年金保険料を払わず自分で運用したほうが得なのでは?」と考える方もいらっしゃると思いますが、未納はお勧めできません。国民年金保険料の未納が続くと、延滞金や財産差し押さえにまで発展する恐れがあります。
国民年金機構による「国民年金保険料強制徴集中取組期間」の結果について」(pdfファイル)によると、平成29年度は最終催告状の送付が約10万件、財産差押は約1万4千件に上ります。マイナンバーで所得の状況も確実に捕捉されていますので、逃げ道はなさそうです。
そもそも、「保険商品として考えると、公的年金は割りの良い商品」とも考えられます。ある程度のインフレ耐性があり、終身で受け取ることができる年金は、民間では提供が難しいか提供できても高額になります。もちろん、かつてのような大盤振る舞いは期待できないですが、年金保険料や税金を強制的に徴収できる国だからこそ、賦課方式の年金を提供できると言えます。
かつて、現役世代と年金受給世代の人数比は、お神輿のようなイメージでした。それが騎馬戦になり、肩車になろうとしています。老後に備えた自己資金が少額でも足りるような制度の場合、今の日本の人口動態では、年金保険料の増加は受け入れがたい水準になり、消費税10%への増税どころの騒ぎではなくなります。
今回の騒動では残念なことに、麻生太郎財務相(金融相)が金融審議会の報告書の受け取りを拒否したことで、報告書に公的な位置づけがなくなり、国会での予算委員会の集中審議などでも参考資料として取り上げられることが無くなりそうです。5年に一度の財政検証の公表は、前回は6月3日でしたが、今回は参議院選挙後に公表になるという観測もあります。
どんなに優秀な官僚や学者でも将来の見通しを正確にできない以上、公的年金の賦課方式と自助努力の積立方式を併用することは、リスク分散の点から意味があります。金融庁が公表している国民の資産形成促進のためのビデオクリップ教材に「制度篇:非課税制度(つみたてNISAとiDeCo・企業型DC)」という動画があるのですが、「個人が自分で運用方法を考え、老後の資金を準備するための自助努力の制度」として確定拠出年金制度が説明されています。
賦課方式だけでそれなりの老後を送ることができ、自分で積み立てた分を少しずつ取り崩して豊かに過ごすというのが理想ですが、人口動態やマクロ経済の状況を考えると、平均的には難しい。そこに切り込んだ金融審議会の報告書は、自身の資産形成を考える上でも一読の価値がある資料です。金融リテラシーの向上や各ライフステージ別の留意点なども盛り込まれており、この報告書がなかったことにされるのはつくづく残念です。