女性が不利な現状を打開するには?

​データ出所:労働政策研究・研修機構「データブック国際労働比較2018」をもとに筆者にて作成

 

 日本の場合、女性の管理職が少ないことも特徴的です。欧米諸国では30%弱~40%台前半の国が多いですが、日本では10%台前半です。経済発展の状況や女性就業率から見て、女性管理職の割合が少ないと言えるでしょう。

 日本の雇用制度は独特だという指摘があります。大卒総合職で採用された場合、卒業時点(採用段階)でのスキルを評価されるというよりも、部署をまたいだ人事異動を数年サイクルでこなしつつ、「自分の畑(専門分野)」を作りながら出世の階段を上るというポテンシャル採用の性格が強く、国内外の転勤を含む無限定の雇用契約になります。

 部署や勤務地の希望を言う機会はあるかもしれませんが、会社の人事発令を拒むことは極めて難しいので、総合職の夫婦が共働きする場合、転勤により同一世帯で暮らすことができないというケースが往々にして生じます。このような状況で育児や介護が生じると、どちらかがキャリアを断念せざるを得なくなることが多々あります。

 古い大企業ほど、日本のビジネス慣行が残っているようです。仕事を進めるにはキーパーソンに根回しをすることが重要になりますが、誰にどのように話を持っていくかといった知識はマニュアル化されておらず、同じ会社に長年勤める中で、自然と身につく類のものです。転職してしまうと利用できなくなる知識・情報も多いため、管理職として活躍するためには転職は不利な面があります。

 女性の大学進学率は高くなっても、理工系を専攻する割合が低い状況が続いています。求められる教育に、STEM(Science, Technology, Engineering and Mathematics、科学・技術・工学・数学)と言われて久しいですが、リケジョ(理系女子)という言葉がなくならないように、まだまだ少数派です。生涯、正社員として働くのであれば、大学(理系の多くの場合、修士課程)を卒業するまでの学費や苦労も元が取れますが、現状では、割に合わない、と考える方も多いと思います。

 もっとも、明るい兆しも見え始めています。たとえば、学び直しやスキル獲得の需要を反映して、社会人大学院入学者数(修士課程)の男女比は、ほぼ拮抗しています(文部科学省「学校基本調査」より)。また、家事代行やベビーシッターのニーズが急速に増えており、家事・育児負担を減らすようなサービスの供給増加が期待されます。

 テクノロジーの面では、IT技術の進展で新しい働き方を選びやすくなっているという動きがあります。ITにはコミュニケーションを進展させる効果があり、一般的に言ってコミュニケーションは男性よりも女性が得意です。

 最近では、学生時代の成績や知識といった認知的スキルだけではなく、社会的に成功する条件として「性格スキル」という非認知的スキルに注目が集まっています。ビッグ・ファイブと言われる5つの能力があり、人事を重視する企業では

1.開放性(好奇心、審美眼など)
2.真面目さ
3.外向性(積極性、社交性など)
4.協調性
5.精神的安定性


を評価し、高めていくような社員教育が行われています。こうした能力の多くの点で、女性に強みがありそうです。

『性格スキル』(鶴光太郎著/2018年祥伝社刊)

 ビッグ・ファイブについては、『性格スキル』(鶴光太郎著/2018年祥伝社刊)に分かりやすい解説があります。性格スキルは幼児期の体験だけではなく、大人になってからも伸ばせることが分かっています。
 元々は2000年にノーベル経済学賞を受賞したシカゴ大学のヘックマン教授の理論ですが、経済学にありがちな難解さはなく、地に足の着いた身近な話題が豊富にあり、キャリアを考える上でとても参考になります。

  ビッグ・ファイブという概念があり、それに基づく評価軸があるということを意識するだけでも、性格スキルを伸ばす役に立つと思います。

 変化の激しい時代、これまでの価値観や慣習に固執するとビジネスチャンスを逃してしまいます。個人だけではなく、企業側にも意識改革が必要でしょう。労働観やキャリアパスの多様性が生産性の向上に繋がるのではないでしょうか。そこに少子高齢化による経済縮小を打開するヒントがあるように思えてなりません。

◎データ元

日本の女性就業率 3ページ上部に掲載

米国の女性就業率 17ページ、Table A-6 Women,16 to 64 years の Employment-population ratioに掲載

現職の雇用形態についた主な理由別非正規の職員・従業員数 2017年の割合

短時間労働の割合 118ページに掲載

女性管理職の割合 89ページに掲載